「以上、月原高校七不思議ツアーでした!」

 武史たちが月原高校にやってきて約二時間。七不思議に関する里佳の豊富な知識と、すれ違った女子生徒に関する光貴の豊富な知識をマシンガントークで聞かされた武史と魅貴は、とても一言では表現できないような疲労感を味わっていた。

「……おう、いろいろ、充実してたよ」

「文章で読むなら楽だけど、耳で聞くってこんなに大変なんだ……」

 若い子に関わって精気を養え、などと言われたが、これでは逆に精気を奪われそうである。そう感じた武史は大きく背伸びをして、軽いストレッチをした。

「それで? 本題の、校舎の亡霊ってヤツはどうしたんだ?」

「実は、あたし、それを見たことがなくって……」

「俺も同じく……」

 さっさと話を終わらせよう、とした武史の話の切り出しに対し、里佳と光貴は先ほどまでの勢いを無くしたかのように弱々しく手を挙げた。

「……はあ?! 君ら、見たことないのに依頼してきたわけなのか?! そうなのか?!」

「きゃあ、ごめんなさい!!」

「だ、だからお願いしたんじゃないですか! それに、そういう依頼を受けている探偵社なんでしょ?!」

 頭を抱えて謝る里佳をかばうように、光貴が武史をびしっと指さして言い返す。そう言われると、その通りなので言い返すことが出来ない武史。光貴の勢いに乗せられた里佳は、光貴と同じようにびしっと武史を指さす。

「もちろん依頼料はお支払いします! ですから、あなたがたの実力、見せてもらいましょうか?!」

「な、何だその上から目線は?!」

「まあ里佳ちゃんたちの言ってることのほうがもっともだよねえ」

「ちょ、ミッキー?!」

 とうとう魅貴までもが依頼を受ける流れに乗ってしまっている。完全にアウェーになってしまった武史は苦い表情で里佳、光貴、そして魅貴を見た。

「……わかった、わかりましたよ。ご依頼、引き受けさせていただきます」

「よっしゃあ!」

 里佳と光貴は満足したように互いの手を合わせて鳴らした。

「た、だ、し!! もしもこれがガセだった場合、通常の料金の二倍増しで支払ってもらうからな?!」

「……社長、大人気ない」

 魅貴のツッコミがぽつりと入るが、何故か対立モードで盛り上がっている武史の耳には届いていなかった。

 それからオカルト研究会の二人と別れて、武史と魅貴は校内を歩いていた。放課後ということもあって、ホームルームの教室がある棟に残っている生徒は少ない。

「あーあ」

「どうしたんですかー、そんなため息吐いちゃって」

 やる気なくだらだらと歩く武史に合わせてゆっくりと歩く魅貴は、人がいなくなってがらんとしている教室を見ている武史と視線を合わせる。武史はその教室を、やけに残念そうに見ていた。

「高校に来たっていうのに、結局放課後だから誰もいないんだよなあ……。あーあ、ここまで来て、女子高生がキャッキャウフフしている光景は見られない、ってないよなあ」

「……かなり期待してたわけか」

 鬼堂の言葉に対して乗り気ではなかったように見えたが、なんだかんだで女子高生と出会えることを期待していた武史に、魅貴は苦笑いを浮かべるしかない。

「しかし校舎を走る亡霊、ねえ? 何が目的で走り回ってるんだか……。ミッキー、何かいるか?」

 急に仕事モードに戻った武史に、魅貴は「えっ?!」と小さく叫び、あたりをきょろきょろと見た。

「ええっと……ううん。何もいない」

「そうか。ってことは、その噂の亡霊さんはこの棟にはいないってことか」

「そうだね。さっきの里佳ちゃんの説明でもあんまりここの話は出なかったし」

「……じゃあ、次はあっち行くか」

 武史は窓の外から見える古い校舎を見て、すたすたと廊下を歩き始めた。その後を、少し小走りで魅貴が追いかける。

「ちょっと社長! 待ってよー!!」

 一方の里佳と光貴の二人組はホームルーム棟から出て、職員室やパソコン教室などがある管理棟の探索を行っていた。

「っていうか、何で俺たちまで調べてるわけ?」

「何言ってるのよ、しゅげっちゃん! これもオカルト研究会の活動よ! いつ、社長さんがごまかすかなんてわからないでしょ!」

「……本気で勝負に出たわけか」

 さすが我らがオカルト研究会会長、と思いながら光貴は苦笑いを浮かべた。里佳は自信満々な笑みのままでずんずんと廊下を歩いている。

「で? 調査するって言っても、どこをどう調査するんだ?」

「とりあえず校舎を歩き回って、亡霊が走るのを待つ! で、全力で走って追いかける!!」

「……おう」

 この調査、ただでは終わりそうにない。そう思った光貴は苦笑いを崩せぬまま、里佳のあとを歩くのだった。

 

「うっわー、不気味な校舎」

 武史と魅貴はオカルト研究会の部室である物理準備室や、化学実験室、調理室などがある旧校舎を歩いていた。先ほどまでいたホームルーム棟と比べかなり年季の入った校舎で、廊下もコンクリートで出来ていて外に出ている。試しに化学実験室に入ると、木の床がぎぃぃ、と音を立てた。

「……不気味っていうか、建て替えたほうがいいんじゃないのか、これ」

「何でも来年か再来年ぐらいに建て替え工事があるみたいだよ。でもこういうのがなくなったら里佳ちゃん残念がるだろうねえ」

 魅貴の言葉に武史は同意の頷きをする。これほどオカルトな雰囲気がある校舎もそうそうないだろう。そう思うと、建て替えられるのは少し勿体無いような気もした。

「それで? こっちの校舎は何かいるか?」

「うーん……なんて言うか、学校特有のって感じのものはあるけど……そんなに目立つような感じはないかな……?」

「学校特有、ねえ」

 さすが七不思議があるだけの学校、ということだろうか。武史と魅貴は廊下を歩いていた足を止めて、周辺の様子を見る。魅貴の目には何もおかしなものは見えなかった。しかし、武史が視線を隣のホームルーム棟に向けたときだった。

「……!」

 はっと、武史の目が大きく開かれる。そして、そのまま武史は走り出した。

「え?! ちょ、ちょっと社長!」

 武史の行動に驚いた魅貴は、ワンテンポ遅れて武史を追いかける。思ったよりも速く走る武史に、なかなか追いつけない。そして、武史は旧校舎とホームルーム棟をつなぐ渡り廊下を走り、すぐにホームルーム棟の階段を駆け上がる。

「社長! って、きゃあ?!」

「あっ!」

 魅貴が追いかけて階段を上ろうとしたその時、視界の端に誰かが現れ、思いきり衝突する。倒れる魅貴の身体は、ぶつかった相手に支えられる。

「大丈夫ですか、魅貴さん?」

 魅貴の真正面にいたのは、光貴。驚いたようにぱちぱちと瞬きする彼は、まるで社交ダンスのワンシーンのように、魅貴の腰を支え、そして腕を掴んで首の後ろに絡ませている。

「え、あ、うん。って、ああ!」

 光貴に返事をした後、魅貴は思い出したように悲鳴のような声を上げて、慌てて光貴から離れる。それから先ほど武史が駆け上っていった階段を見た。

「ど、どうしたんですか?」

「社長!! 今、ここを駆け上って!!」

 事情を説明しようと魅貴が階段を指さした直後、光貴と魅貴の間を、何かが風のような勢いで過ぎ去った。

「……え?」

「まさか、今のが亡霊……」

 魅貴と光貴は顔をあわせ、階段を見て、もう一度顔をあわせる。

「い、いくよ、光貴くん!」

「は、はい!!」

 何が起きたかわからない二人は、とりあえず階段の上に向かったものを追いかけるしかない、と走り出した。

 

 

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