時刻は午後一時。場所はホテルの一室。
「ジール・ルーズレイト……、一体何者なんだ……?」
ヒロキはずっとパソコンの画面を睨んで、ジールについての情報を調べていた。しかし、ヒロキの求めるような情報は見つからず、お手上げ状態になっている。
「なーんか、むかつくなあ。何で、情報でてこないかなあ」
はあ、と大きくため息をついて、ヒロキはパソコンを閉じた。それからソファに座り、眼鏡を外した。目頭のあたりを親指と人差し指で押さえ、大きくため息を吐き出す。
「ジール、どっかで聞いたような名前だけどなあ……」
一体何処で見たのだろうか、と考えたそのとき、パソコンからピピピ、という電子音がした。ヒロキはハッと目を開き、眼鏡をかけた。パソコンを開くと、画面上に新しい文面が出ていた。
「……これは」
そこに映し出されているのは一人の女性の画像と、大きな見出し。見出しには『不死鳥』という文字が躍っていた。
「彼女、もう舞台に戻るのか? ついこの間退院したばかりなのに……」
ヒロキは映し出された画像を睨むように見つめながら呟いた。
***
同時刻、場所は警察署ナイトメア対策本部。
「ええ……そうですか。ええ、はい……楽しみにしていますよ、それでは」
電話を切り終えたジールはにこやかな笑みを浮かべている。一方、ジールに呼び出されたロジャー、ナタリヤ、カズヤは疑問の視線をジールに向けていた。
「それで、用件は何だ? ナイトメアの狙いがわかったのか」
「はい」
ロジャーが尋ねると、笑みを浮かべたままジールが答えた。その答えにナタリヤとカズヤは驚いたように目を大きく見開いたが、ロジャーは逆に睨むように目を細めた。
「狙いは、あのダンサーか」
「その通りです。本日午後五時から中央公園の広場で公開練習を行います。そこで、ナイトメアは彼女に目をつけるはずです」
やはり確信をもった言葉。その言葉に苛立ちを隠せないナタリヤが表情を険しくした。
「どうしてそこまで」
「わかった。俺たちは、その警備につけばいいんだな」
「よろしくお願いします」
ナタリヤの言葉をさえぎるように、ロジャーが話を受け入れた。ナタリヤが驚きの表情を浮かべる一方で、ジールは笑みを崩さない。
「四時に彼女のダンススタジオまで来てください。場所はご存知、ですよね?」
以前、リーザスに事情を聞きに行ったことを見通しているようなジールの言い方に、更にナタリヤの苛立ちが強まる。しかし、その苛立ちを抑えるようにロジャーがナタリヤの肩に優しく手を乗せた。
「ああ。話はお前から通しているな?」
「はい。その点はご安心ください。では、おねがいします」
ジールは言い終えると、部屋を出て行った。足音が遠のいたあと、ロジャーがナタリヤの肩から手を放すと、勢いよくナタリヤがロジャーの方を向いた。
「何故ですか?! 何故、彼の言葉に従うんですか!」
普段は感情的にならないナタリヤだが、ジールへの不信感が高まった結果、今爆発してしまったのだろう。あまりの変化に、カズヤは何も言えなくなった。
「落ち着け、ナタリー」
「落ち着いてなどいられません!」
「だから、落ち着け。いいか、今俺たちがあいつに反発してもいいことはひとつもない。現状、ナイトメアのことを知っているのはあいつだけだ」
諭すようにロジャーは優しく、冷静に言う。ロジャーの言うことは全て事実であるが、ナタリヤだけではなくカズヤも納得できなかった。
「ですが、その公開練習の場にナイトメアたちが現れて、危険になる可能性は否定できないはずです」
「ナイトメアが予告状を出す前に行動を起こすような人間には思えんな。カズヤ、今までナイトメアやテール・クロスを見てどう思った?」
カズヤの可能性に対し、ロジャーは訊き返した。予告状を出した後はともかく、その前に行動を起こすことはなかった。
「仮にナイトメアが現れても、あいつがどうにかするだろう。俺たちはその危険から、リーザス・ナーティロットを守る。それだけだ」
「……先輩は、それで良いのですか?」
どこか投げやりなようにも聞こえるロジャーの言葉に、ナタリヤは低い声で尋ねた。その声を聞いたロジャーの瞳が、険しい色を灯す。
「良いとは思っていない。だが、今はその方法しか見つからん。ナイトメアを捕まえるためには、あいつを……、ジールを利用するしかない」
ナタリヤに表情を見せないように背を向けて言うロジャー。しかし、カズヤの視界に入ったロジャーの横顔は、申し訳なさそうに、どこか泣きそうなものに見えた。
***
時刻は午後三時。場所はリュート学園の教室。
「聞いた?! あのダンサーの公開練習だって!」
「本当?! いつ、あるの?」
「今日の夕方! ねえ、学校帰りに行かない?」
少女たちの話題になっているのは、リーザスの公開練習。つい一時間前、ネットで公開練習の開催が突然予告された。近日復活をするとされていたダンサーの復帰、突然の告知、話題をさらうには十分な条件が揃っている。
「あの、私もいいですか?」
「え?」
少女たちの会話に入ってきたのは、アリア。少女たちは驚いたようにアリアを見ていた。
「で、でも……アリアさん、お体のほうは……」
「少し昨日は気分がよくなかっただけですから……ご心配おかけしてすみません」
「アリアさんも、好きなんですか? リーザス・ナーティロットのこと」
尋ねられたアリアは、その少女の持つ広告を見た。ただ、ダンサーという知識しかないアリアにとって、好きか嫌いか、といった感情は特になかった。
「ええ、まあ……」
「じゃあ放課後、皆で観に行きましょう! どんなダンスするか、楽しみですし!」
そう言って盛り上がる女子生徒たちをぼんやりと見つめながら、アリアは夢のことを思い出していた。
「不死鳥が、舞い戻る……」
夢で響いた声。どこかで聞いたことのあるようなその男の声が、『マグウェルの宝』に関係するとアリアは何故か、はっきりと確信していた。その確信を強めるため、アリアは公開練習をみる決意をした。
窓の外にあった厚い雲の隙間から、光が射していた。