12
館内に、サイレンの音が響く。
「全員動くな!!」
はっきりと通る、女の声。それを聞いたリュウは、はっと顔をあげた。
「全員、違法賭博行為の現行犯で連行する!!」
裏口の扉から出てきたのは、リーチェ率いる捜査官たち。その中には、疲れた表情のキラベスの姿もあった。
「警察?!」
「何でこんなところにっ」
「早く逃げ……」
「魔術展開」
逃げようとした観客たちが扉に近づいた瞬間、扉に黒い魔法陣が現れ、そして壁となった。
「……ありゃ」
そんな間抜けな声を上げたのは、ウィンド・グリーン。彼の目の前にいるのは、ロッドを構えているリュウ。
「もしかして、ブラック・ゴーストさんじゃない感じ?」
「まあ、そうだな」
リュウは仮面を外して床に投げた。そして、目の前の青年にロッドを向けた。
「ブランクドールによる違法行為の現行犯で、連行させてもらう」
「……それは、勘弁!」
ウィンド・グリーンは自分の前に突きつけられているロッドを蹴り上げた。突然のことに視線がロッドに行ってしまったリュウだったが、すぐに目の前に戻す。視界の中に、ウィンド・グリーンの拳が見えた。
「なっ?!」
顔面に直撃しそうだったその拳を、首を少し傾けてリュウは避けた。ひゅっ、と風を切る音から、その拳の威力を感じた。
「へえ、いい避け! でも、これはどうかな?!」
ウィンド・グリーンは楽しそうにそう言うと、拳を突きつけたのと反対の足を半歩引いた。それを見たリュウがウィンド・グリーンの伸ばされたままの腕を掴む。
「え?」
「おらっ!!」
そのまま、リュウはウィンド・グリーンに背中を向ける。そして、掴んだ腕を大きく振り、投げる。
「うおおぉ?!」
綺麗な弧を描いたあと、どんっ、と大きな音がしてウィンド・グリーンは地面に叩きつけられる。突然のことに対応できなかったウィンド・グリーンは受け身が取れず、背中から全身に強い衝撃を受けた。動けなくなっているウィンド・グリーンを見下し、リュウはビィを連れてリーチェたちの元に向かった。
「ビィ、魔法使いの反応は」
「……探知できました。上です」
「上……」
人ごみを掻き分けて進んでいたリュウはビィの言葉を受けて、足を止める。そして、天井を見ると、そこにふわりと浮いている人物が見えた。
「あいつか!!」
叫ぶと、リュウは足元に黒い魔法陣を展開させる。それに気付いた人物がリュウのほうを見た。
「魔術展開!!」
足に力を加え、リュウは跳躍する。黒い光の軌跡を描きながら、リュウはその人物の元に飛んでいった。それを追うように、ビィも飛ぶ。
「……ほう」
目の前に現れたリュウを見て、その人物は白い仮面の下に穏やかな笑みを浮かべた。
「まさか、魔術士……いや、魔導士が来ているとは思いませんでしたね。上手く隠れたものです」
「そっちこそ、随分大胆なことしてくれてたな……司会のお兄さん?」
聞きなれた声に、リュウはふっと笑った。白い仮面の人物は、先ほどまでドール・コロシアムの司会・実況をしていた男だった。ハイテンションだった司会のときと打って変わって落ちついた様子の男だったが、その特徴的な声は間違いなく一致していた。
「姿が見えなかったからな。探索魔術も上の階にある実況席まで気が回らなかった」
「それはこちらも同じですよ。しかし、まさか魔導士が来られるとは……」
白い仮面の下の視線は、観察するようにリュウに向けられる。
「お前が、このカジノの首謀者か」
「そうなりますね。最初はただ、ドール・コロシアムをしていただけですが、意外と評判が良くて」
くす、と笑いながら言う男にリュウの中の怒りがふつ、と沸いた。
「殴り合いや蹴り合い、あるいは魔術と魔術の戦い。わかりやすいですよね、見た目的に。だからこそ、人は惹かれるんでしょうね。これだけの人が、集まるのですから」
男は足元を見た。そこには、警察に追われて混乱する客たちの姿があった。館内に溢れんばかりの人々は、波のようにうごめいている。
「……つまり、魔術を金儲けの道具に使わせてもらったって訳か?」
「そうなりますね」
「ふざけんな」
平然と答える男に、リュウはロッドを向けた。男を見るリュウの瞳は、怒りに燃えていた。
「お前の欲望のためだけに魔術を使った、だと? そんなことのために魔術は、ドールはあるわけじゃない」
「……なるほど。通りで、あなたが他の対戦者のドールを破壊しなかったわけですね」
リュウの言葉に男は納得したような頷きをした。その態度に、リュウの中の怒りは――十分に煮えたぎっていた。
「魔術展開!!」
リュウが叫ぶと、男の足元に魔法陣が展開される。それを予測していたのか、男は口元に小さな笑みを浮かべた。
「甘いですよ、魔導士」
その言葉と同時に男の体は白い光に包まれ始める。リュウが男に向かって跳躍した直後、光とともに男は消えた。
「私は、魔法使いですよ」
転送魔術でリュウの上空に移動した男は余裕の笑みで、リュウに向かって右手を出した。その掌から白い魔法陣が展開された。
「その情報は、既に把握しています」
男の背後から、声がした。男が振り向こうとした瞬間、わき腹に強い痛みを感じた。が、その痛みに浸る暇も無く、男の視界は天井を向き、地面を向き、また天井を向き、と何度も繰り返した。視界の中に、少女がいた気がした。それから、男は床に叩きつけられた。下にいた観客たちの悲鳴が、館内に響き渡る。
「くっ……! 一体、何が……?!」
「魔導士なめんな」
うつ伏せになって倒れる男は、自分の顔の前に立ったリュウを見上げた。リュウは冷ややかな目で、男を見つめた。
「貴方の転送魔術は発動時に、何処に転送されるか把握できました。その情報を元に、私は貴方が転送された場所に移動し、脚による攻撃を行いました」
リュウの隣に立ったビィが、男を見つめて問いに答えた。その紅い瞳は感情を一切灯していないが、リュウのものよりも冷たいように男には見えた。