08
[レディースアンド、ジェントルメン! さあ、本日の目玉企画の始まりです!!]
カジノ館内が薄暗くなり、奥のスペースにスポットライトが当てられる。そこには、銀色の大きな鳥かごがあった。
[“ドール・コロシアム”!! 果たして、今回の優勝者は誰か? 五十ゴールドで参加可能になります!]
放送の声に、カジノ内から歓声が上がる。その声は、奥の部屋で待っているリュウたちの耳にも届いていた。
「……すごい勢いだな」
「毎回毎回人気は増してるからねえ。一発大もうけのチャンスもあるし?」
リュウの呟きに答えたのは、赤い仮面の女。パイプ椅子に足を組んで座り、長く伸びた赤い爪を弄っている。
「しかしあんた、今回は随分賭けに出たわね?」
そう言うと、女はリュウの後ろに立つビィに視線を向けた。
「どうすんのよ、そんなドール。腕なんて簡単にへし折られるわよ?」
「まず、触れるかどうかの問題だな」
女の挑発するような言葉に対し、リュウも挑発で返す。想像していなかった反応に、女の眉がぴく、と動いた。しかし、すぐに表情を戻して女は自分の背後に立つドールを見た。その赤茶髪のドールも先ほどの金髪と同じように身長がリュウよりも高いが、筋肉の量は先ほどのドールの方が多いように見えた。それでも、かなり体格はよいほうである。
「まあ、このファイア・ルージュに勝てるわけがないわ。特別調整をしてもらったドールなんだから」
「へえ」
「あんたのドールはどんな特別調整をしてもらったのかしら?」
「さあな」
どうでもよさそうなリュウの反応に、女の眉間に皺が寄る。放送が、コンクリート張りの部屋に響いた。
[ブラック・ゴースト様、レッド・ローズ様。試合のお時間です。会場へお越しください]
「……あんたのその可愛いドール、可哀想なぐらいに壊してあげるわ」
女は吐き捨てるように言うと、ドールを連れて部屋を出た。ばたん、と乱暴に扉が閉ざされたあと、誰かの小さな笑い声が上がった。
「あーあ、姉ちゃんがキレちゃった。どうすんの、ブラック・ゴースト?」
緑の仮面をつけたリュウよりも若い青年が、からかうようにリュウを指さして言う。リュウはふう、と小さく息を吐き出した。
「勝てばいいんだろ、勝てば」
そう言って、リュウもビィを引き連れて部屋を出た。室内に居た参加者たちが仮面の下でぽかんとした表情を浮かべていたのは、言うまでもないだろう。
そしてカジノ内に出てきたリュウとビィは、中央にいつの間にか設置されていた大きな鳥かごの入り口の前に立った。その向かい側の入り口前に、赤い仮面のレッド・ローズとそのドールのファイア・ルージュが立っていた。
[最初の試合は現在三連勝、レッド・ローズの特別調整機ファイア・ルージュ! 対、前回の試合の挽回なるか! ブラック・ゴーストの新機、ベリー・オブ・ブラック!!]
放送がかかると、鳥かごの周りに集まった観客たちから大きな歓声が上がる。大きな反応に驚きながらも、リュウは館内に設置されている巨大スクリーンに視線を向けた。そこには『RED vs BLACK』と大きく映し出されており、文字の下には賭け金であろう金額が表示されていた。RED……レッド・ローズに賭けられている金額はリュウの三倍以上だった。
「さすが、連勝のドールってだけあるな……」
「マスター、指示をお願いします」
歓声の中、リュウの一歩前に立っていたビィが振り向き、視線をリュウに上げて尋ねた。そんなこと、聞かなくてもわかっているはずだろう、と思いながらもリュウはビィに指示を出した。
「勝て。ただし、無理をしない範囲でな」
「手加減は必要でしょうか」
「そうだな……相手のドールを破壊するまではしなくてもいい。機能を停止させるぐらいで終わらせておけ」
「了解しました」
リュウとビィのやりとりが終わると、かごの扉が開かれる。
[入場!]
「行ってこい、ビィ」
リュウがビィの背中を軽く叩いて押すと、ビィは小さく頷いてかごの中に入り、扉から二、三歩進んだところで足を止める。向かい側のファイアも同じように扉をくぐって立ち止まると、両方の扉が強く閉ざされた。
[それではレディ、ファイト!!]
「行きなさい、ファイア・ルージュ! あのドールを、倒しなさい!」
レッド・ローズが叫ぶと同時に、ファイアがビィに向かって走り出す。ビィは自分に向かってくるファイアをじっと見つめていた。
「魔術展開」
ファイアが握った右手を前に突き出して唱えると、右手の甲に魔法陣が現れて赤い炎が拳に点った。そして、ビィに向かって振るう。ビィはファイアに右手を向けて魔法陣を展開させた。
「魔術コード解析完了、解除します」
直後、ファイアの炎はふっと消えた。しかし振るわれた拳はそのままビィに向かっていた。誰もが、ファイアの勝利を確信した時だった。
「魔術展開」
ビィが唱えると、足元に黒く大きな魔法陣が展開される。突然の出来事に、レッド・ローズも観客たちも大きく目を開いていた。
「対象捕捉、行動停止魔術発動。対象ドール、ファイア・ルージュ」
ファイアはまるで石像のように動きを止めた。否、止められていた。全く動かなくなったファイアの胸元に、ビィがそっと右手を当てた。
「行動停止を確認。任務完了しました、マスター」
魔法陣が消えてビィが手を離すと、ファイアはバランスを崩してそのまま床に倒れる。体勢は、ビィに殴りかかろうとした状態のまま。
[しょ……勝者、ベリー・オブ・ブラック!!]
静まっていたカジノ内が、放送をきっかけに再び歓声で溢れた。鳥かごの前にいたレッド・ローズが立つ力を失ったかのように、膝から地面に崩れた。一方のリュウは先ほど以上の声に顔を歪めて、手で耳を軽く塞いだ。そのついでに、とリュウは目を閉じた。
「こちら、リュウ・フジカズ。キラベス、応答しろ」
歓声が邪魔する中で、リュウは陰に隠れて通信を送ると、間もなく相手から反応が返ってきた。
[こちらキラベスです。リュウさん、聞こえますか?]
「意外と通信、上手いんだな……。ああ、……現在“ドール・コロシアム”が行われている。観客の注目もここに絞られている。潜入するなら……」
[はい、わかりました! あまり無理はなさらないでくださいね]
キラベスが言い終えると、通信もぷつりと切れた。これで作戦は成功するだろう、とリュウが小さく息を吐き出すと、ビィが鳥かごの中から出てきてリュウの元に寄ってきた。
「マスター」
「ご苦労だった、ビィ。次もこの調子でやってくれ」
安心しきったリュウはふっと微笑み、ビィの頭を撫でる。ビィは無表情のまま、リュウを見上げていた。
「了解しました」
その様子を、コンクリート張りの部屋にある小さなスクリーンで、“ドール・コロシアム”の参加者たちは見つめていた。