07

 

 がちゃ、と音がして扉が開かれる。薄暗い廊下とは比べ物にならないほどの光が、中から溢れ出した。

「……すげえな」

 リュウが零した感想は、室内の騒音でかき消される。スロットの効果音や、ルーレットががらがらと回る音、コインがぶつかり合う音など、様々な音が交差して、リュウの鼓膜にびりびりと響く。一瞬表情を引きつらせたリュウだったが、ここが違法カジノであることを思い出した。そんなリュウの様子に気付いたのか、ビィがリュウの顔を見上げた。

「マスター」

「ああ、問題ない。大丈夫だ」

 ふっと笑い、リュウは答える。そして、カジノ内を歩き始めた。

「さて、どうするかな……」

 入ったらすぐに噂の“ドール・コロシアム”が行われていると思っていたリュウだったが、実際はそのようなことが行われている様子がみられない。まだ開始の時間ではないかもしれない、と思い、カジノ内をふらふらとみて歩く。が、このようなものに関わったことのないリュウにとって、どうすればいいのかが全く検討がつかない状態である。

「……ビィ、俺はどうすべきだ?」

「何かしらのゲームを実施すべきだと思います。周辺を観察した結果、カードでチップ及びコインと換金できることが推測されます」

「カード……ああ」

 ビィに言われ、リュウは胸ポケットから先ほど白い仮面の男に差し出した会員証を取り出した。黒いカードには機械で読み取る専用のバーコードがある。

「機械類に関しては、そのバーコードをかざせばゲームが開始されるものと思われます」

「なるほど。じゃあ、一発」

 そう言って、リュウは空いていたスロット台に向かった。スロット台のそばにカードを差し込んで読み込むリーダーがあった。そこにカードをいれ、スライドさせるとスロットが自動で回転し始める。

「……さて」

 ぐるぐると回るロールを、真剣な表情でリュウは見つめた。そして、

「よし!!」

 たん、たん、たん、とリズミカルにリュウは三つのボタンを続けて押した。が、止まったマークは三つともバラバラだった。

「くっ……ダメだったか」

――マスター。これは潜入捜査のはずでは

 本気で悔しがるリュウの様子を見ていたビィから、口からではなくテレパシー上でツッコミが入る。つい本気になっていたリュウははっと目を開いて、大きく首を振った。

――いいか、ビィ。確かにこれは潜入捜査だ。だが、潜入捜査、という意識を強く持っていたら周囲から浮いてバレるだろう? だから、俺はあくまでカジノを楽しむ客、という振りをしなければならない。わかるか?

――……了解しました、マスター

 ビィの返事を聞いて、リュウはほっと安心した。自分がスロットに本気になっていたなんて、口が裂けても言えるはずのないリュウはもう一度カードをスライドさせてスロットを始めていた。

 しかし、リュウはスロットをしつつ、視線だけを周囲に向ける。隣に座る仮面の男も、リュウと同じようにカードを何度かスライドさせてスロットをしている。その背後には、ビィと同様に仮面をつけていない無表情の青年が立っていた。それ以外にも、会場内には何人か仮面をつけていない人物がいた。

「意外と参加人数は多いみたいだな」

 ポツリと呟く声は、スロットの音楽にかき消される。

「マスター」

 その時、背後に立っていたビィがリュウに声をかけた。リュウは後ろを向いて、ビィを、そしてその隣にいる白い仮面の男を見た。

「お前は?」

「“ドール・コロシアム”、参加希望ですよね? 手続きがあるので、どうぞ、こちらへ」

 男は口元に笑みを浮かべ、右手を左胸に当てて礼をする。

「……わかった、行こう」

 リュウはスロットを終了させて、歩き出した男について行った。ビィも、その後ろを歩く。

――マスター。彼から魔力波動は感知されません

――ああ、そのようだな。隠しているって様子もないし、こいつもただの人間だろう

 男に導かれるまま、リュウとビィはカジノの奥へと連れて行かれる。華やかなカジノ会場から、薄暗いコンクリート張りの個室に入った。カジノの客と思われる様々な色のついた仮面をつけた人物が五人、それぞれに付き添うように仮面をつけていない人物がいた。

「……なるほどな」

 仮面をつけていない人物たち、それがドールだった。しかし、どのドールも男の姿をしており、ビィよりもかなり大きな体格をしている。それを見たリュウは小さく息を吐き出した。

「それでは皆さん。時間になりましたらお呼びしますので、それまでお待ちください」

 白い仮面の男はそう言うと、コンクリート張りの部屋からさっさと出て行ってしまった。しかし、他の客たちは驚いた様子も見せず、適当に置かれているパイプ椅子にそれぞれ座り、簡易テーブルに置いてあるスナック菓子に手を伸ばしていた。

「……どうしたの、ブラック・ゴースト?」

「え、あ、ああ」

 赤い仮面の女に声をかけられたリュウは、慌てて空いている椅子に座る。隣に座っている黄色い仮面の男が、口元ににやりとした笑みを浮かべてリュウに声をかけた。

「新しいドールか? 今回はまあ、お前の趣味に走ったって感じの品物だな」

「趣味、って……」

 元のブラック・ゴーストはどんな趣味だったのか、と思いながら自分の後ろにつくビィを見ながら思う。黄色い仮面の男も同じようにビィを見た。

「負けたな、ブラック・ゴースト」

「負け?」

「ああ。見ろよ、俺のドールを」

 黄色い仮面の男は自分の後ろに立つドールを親指で示す。金髪で橙の瞳を持つそのドールは、リュウよりも身長が高く、二メートル以上あるように思われる。それに、肩幅もかなり大きく、筋肉質な体格をしている。ドールは、無表情のままリュウを見下していた。

「なるほど、イエローらしいと言えば、らしいドールだな」

「そうだろう? だから、お前みたいな小柄なドールに勝ち目はないぜ」

「ドールを体格だけで判断するなよ」

 男の言葉に、リュウはため息を吐きながら答える。黄色い仮面の奥の目が大きく開かれたことを感じながら、リュウは言葉を続けた。

「俺の相棒は力尽くだけで倒せるような相手じゃない」

 そう言いきって、リュウはテーブルの上にあったクッキーを頬張って口を閉ざした。

 

 

 

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