06

 

 そして、突入決行の予定日はやってきた。

「今回、魔導管理局から特別協力として参加してもらう、魔導士のリュウ・フジカズくんとそのバディのベリー・オブ・ブラックくんだ」

「よろしくお願いします」

 リーチェから紹介を受けてリュウとビィは捜査官たちにそれぞれ挨拶をする。どの捜査官も突入前というのにどこか表情は穏やかで、リュウにあるような緊張の様子は全く見られない。

「ああ、助かるなあ。キラベスみたいなへっぽこじゃない魔導士さんが来てくれるなんて」

「確かに。あいつの現場での挙動不審さは見てるこっちがひやひやするからなあ」

「前の突入のとき、覚えてるか? すっげえ裏返った声で『魔術展開!』なんて叫んでさあ」

「ああ! あれはひどかったなあ。犯人もおれたちもがくって転んでなあ」

 捜査官たちから聞いたキラベスの評価に、リュウは引きつった笑みを浮かべる。それなりに魔導管理局でも警察学校でも経験をつんでいるはずなのに、どうしてそんな散々な結果なのだろうか、と別の捜査官たちにからかわれている後輩の姿を見て少しだけ悲しくなった。

「作戦会議を始める」

 ぱんぱん、とリーチェが手を叩くと一瞬で和やかな雰囲気は消え、視線は一気にリーチェに集中した。切り替えの早さに戸惑ったリュウだったが、すぐにその場にあわせてリーチェの方を向く。

「事前に配布した計画は頭に叩き込まれているな。では、作戦に変更はない。各自、班に分かれてそれぞれの作戦会議を行え」

「はい!」

 その光景を見て、リュウはリーチェとかつての自分の師であり機動部隊第一隊隊長のフリジアの姿を重ねていた。どこか彼女のことが苦手なのは、それが原因なのかもしれない。

「リュウくん」

「は、はい」

 ぼんやりと考えていたリュウの思考に、リーチェの声が入る。慌てて返事をすると、リーチェは穏やかに笑っていた。

「資料は全部、目を通してくれたようだね」

「あ、はい。大丈夫です」

「さすが魔導管理局最強と言われている魔導士だ。こういう優秀な人材がうちにもっと増えればいいんだけど」

 からかうように楽しそうに言うリーチェの視線の先には、作戦会議に加わり捜査員たちと話し合うキラベスの姿があった。それを見て、リュウはやはり、と思った。

「……似てるな」

「え?」

「ああ、いえ……。ええと、それで、俺はこの格好で良いんでしょうか?」

 そう言って確認するようにリュウは自分の格好を改めて見る。普段出動時に用いるコート姿ではなく、少しカジュアルなパーティ用のスーツを着ていた。

「うん、似合ってるね」

「……あの、そう言う意味じゃなくて」

「ごめんごめん。もちろん、君はこれからあのカジノの参加者なんだから、それぐらいのおしゃれはしてくれないとねえ? あ、それって自前?」

「いや、その……上司のものを、借りまして」

 自分が持っているスーツといえば全部公式の場で着るようなものばかりで、とてもカジノやパーティに着ていけるようなものではなかった。デュオに言えばからかわれ、「それぐらいお前の給料で買えるだろー」などと言われる始末である。おまけに今度食事を作ってやる約束までしてしまった。面倒なことに巻き込まれたものだ、といろんな意味をこめてリュウは苦笑いを浮かべた。

「たまにはいいだろう、そういう格好も」

「ええと、まあ……」

 そうしている間にも、時間は刻々と過ぎていった。

 

 時刻は午前零時。

 スカイタワーの地下。深夜の闇は地下の空間まで届いており、辺りは薄暗い。そんな中、『Cafe&Bar:Fe's』という看板だけはぼんやりとした光を灯していた。青い光に黒い文字の看板の下に、きっちりとしたスーツを着こなし、白い仮面をつけた男が立っていた。

「いらっしゃいませ。メンバーズカードのご提示を」

「はい」

 白い仮面の男に言われるまま、やってきた男は黒いカードを男に渡した。その男もまた、黒い仮面をつけて素顔を見せていない。白い仮面はスーツの懐から手のひらに納まるほどの携帯電話のような機械を取り出し、カードを機械にかざした。ぴぴ、と機械音がすると看板の下にある自動ドアが開かれた。

「ようこそ、ブラック・ゴースト様。今日も是非、夢の世界をお楽しみください」

「ありがとう」

 カードを受け取った男は白い仮面の言葉を受けて、口元に笑みを浮かべて扉をくぐった。その後ろから、黒い髪をツインテールにした少女が続く。

「……」

 扉の向こうに進むと、再び薄暗い通路。黒い仮面の男は後ろについてくる少女をちらりと見た。

――ビィ、周辺に探査機の反応はあるか

――いえ、ありません

――そうか

 黒い仮面の男はそこで大きく息を吐き出す。少し仮面をあげてその素顔を見せた。

「さっきの男から魔力波動は感じられたか」

 男――リュウは少女――ビィの方を向いて尋ねる。ビィは首を振り、扉の方を見た。

「先ほどの男性は間違いなく人間です。魔力波動は感知されませんでした。使用していた機械に関しても魔力波動は感知されず、アイテムではないと判断できました」

「そうか。なら、噂の男はあの件にしか関わっていない可能性が高いな……」

「そう判断できます」

 リュウの言う噂の男とは、先日リーチェを襲撃した魔法使いのことである。ドールコロシアムのみの担当ならば、参加して男に近づくしかない。リュウは少しだけ不安に思いながら、ビィを見る。

「マスター、私は問題ありません」

「え?」

 リュウの視線からの気持ちを読み取ったのか、ビィははっきりと言う。

「私は負けません。ですから、必要以上に心配なさらないでください」

「……ビィ」

「マスターに不安が生じていると、魔力波動にも乱れが生じ、正常な魔術発動が困難になる恐れがあります。平常心を保つ必要があります、マスター」

 つまりは落ちつけ、と言いたいのだろう。そう解釈したリュウは「ああ、そうだな」とビィに微笑んで、仮面をつけた。

 そして二人は廊下の一番奥にある扉の前に立った。リュウは目を閉じ、そっと扉に手を当てた。

「……人が多いな。魔力波動も感じるが、中がごちゃごちゃしていて把握しにくい」

「しかし、魔力波動があるということは」

「ああ、間違いない。魔術関係者がいる」

 ビィの言葉に続けて答えたリュウは目を開けて、小さく息を吸って、吐いた。

「行くぞ」

「了解しました」

 

 

 

←05    目次    07→