09

 

「モード、ソード! 魔術展開!!」

 ロードが叫ぶと、ロッドが剣の形となり、足元に魔法陣が展開された。目の前に居る狼形の魔獣が警戒して、唸り声を上げている。

「実践で覚える……、か。試してみるか……」

 自分に言い聞かせるように呟き、ロードはたん、と一歩跳躍する。それを見た魔獣も、同様に後ろ足にぐっと力を入れて飛び上がった。

「くそっ! 重そうな体のくせに、飛びやがって!!」

 すぐさまロードはしゃがんで剣を上に向ける。ちょうど自分の真上を通り過ぎようとした魔獣の腹に、剣を突き刺した。

「魔術展開!!」

 剣を突き刺した魔獣の腹部に、魔法陣が現れる。直後、ぱんっと弾ける音がして魔獣の姿は砂となって弾けて消えた。からから、という音がして地面に魔鉱石が落ちた。それを見て、ロードは安堵したように息を吐き出した。

「とりあえず、一体……か」

 魔鉱石を拾い上げ、天にかざす。手のひらに収まるほどの大きさの赤い石だった。それを確認したロードは太ももについているカートリッジ入れに魔鉱石を入れた。

「よし、中央に……」

[おい、ロード! こっち頼む!!]

 突然頭の中に響いた声に、ロードはびくりと体を震わせた。それからすぐに通信であることを理解したロードは目を閉じて通信に集中した。

「さ、サイル? こっちって……」

[場所はお前のいるところから八百メートル東! オーケー?!]

「お、おう……」

 ロードが返事をすると通信は切れた。それから、サイルが通信と探索魔術を同時に、しかも一人で行ったことに驚いた。

「……あいつ、やるじゃん」

 そしてロードは先ほど言われた方へと駆け出す。

 

 一方のエコは、肩で荒く呼吸をしながら、足元に倒れている鳥の形をした魔獣を見ていた。

「はっ……これぐらい、一人で出来るわよ……」

 そう呟いた直後、がくんと体が傾く。倒れこまないように地面にロッドをさし、膝をついた。一つ大きく深呼吸をすると、呼吸は落ちついた。それから、エコはあたりを見て、すぐに立ち上がる。

「誰も、見てないわね……」

 膝についた土を手で払い、ロッドを地面から抜いた。

「おーい、エコー!」

 そのとき、エコの耳に聞きなれた声が届いた。はっと顔をあげて声のほうを向くと、手を振りながらかけて来るサイルと、その後ろを疲れたように歩くロードの姿が見えた。それを見た瞬間、何故か小さな笑みとため息が出てしまった。

「あんたたち……何してたのよ」

「いやー、ちょっと危なくってロードに助けてもらっちゃった」

「全く……俺が来た瞬間に手を抜くなよ」

「えへへー」

 いつも通りへらへらと笑っているサイルにロードが呆れたように言う。それからロードはエコの方を見た。

「こっち側にいた魔獣は?」

「私、一人で、やったわ」

 ふん、とそっぽを向きながらエコはロードの問いに答えた。その答えに驚いたような反応をしたのは、サイルだった。

「よく一人で討伐できたな。おれなんか、全然攻撃効かないからマジ焦ったぜ?」

「それはあんたが弱いだけでしょ」

「いやあ、一発決めたから安心したらやばかったぜ。生命反応なくなった、って思ったら仮死状態で」

「そうそう」

「……え?」

 サイルの言葉にエコが声を上げた。ロードはそんなエコの様子の変化に気付かず、サイルの言葉を続ける。

「まさかまた起き上がって攻撃しかけてくるとは――」

「エコ!!」

 ロードの声に重なるようなサイルの叫び声、直後に聞こえた大きな羽ばたきの音。叫ぶよりも先に、ロードはエコに向かって走り出していた。

「きゃっ?!」

「魔術展開!!」

 響くサイルの声。

 エコの視界は突然木々に囲まれている空を映し出した。が、すぐに黒い何かが宙を過ぎった。

「あれは」

 羽ばたく音、風の吹く音、そして何かが強くぶつかる音。うめき声と、何かが落ちる音。

「サイル!!」

 エコに覆い被さるように倒れたロードが起き上がり、声を上げた。エコも起き上がって、ロードと同じ方を見る。そこには、木に寄りかかって座っているサイルの姿があった。

「サイル……!」

 エコは立ち上がり、サイルのもとに向かった。

「サイル、しっかりして!」

「うぅ……っ、エコ、大丈夫か……?」

 ゆっくりと、細く目を開いたサイルはエコの方を見て尋ねる。エコははっと目を開いて、サイルの肩を掴んだ。

「何言ってるのよ?! あんた、人の心配してる場合?!」

「よかったー……。そういや、珍しいね……」

「何が……」

「エコって呼んでも、怒らないの」

 へら、といつものように笑うサイルだったが、全身に汗がべっとりとついている。顔色も、青い。それを見て、エコはぐっと奥歯を食いしばった。

――私は、何をしているんだ。

 がっ、と音を立ててエコは地面にロッドを突き刺す。サイルはぼんやりとした表情で、その様子を見た。

「なに、してんだ……?」

「いいから黙りなさい! 結界展開!!」

 地面に青い魔法陣が現れ、サイルが横たわっている木を中心に半球の青白い光が包んだ。それを確認すると、エコは立ち上がり、サイルに背を向けた。

「治癒魔術発動……このまま動かないでいて」

「エコ、は……?」

「私はロードのところに行く。とりあえずの応急処置だから、無理して動かないで。お願い」

 そう言うと、エコは光の外に出て、走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

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