08
「どうするんだよ、魔獣討伐って」
「でも一応知識はあるし、演習はやったことあるし……」
リュウとビィが結界を張りに行って姿を消した後、学生三人は輪になって作戦会議を始めていた。
「いや、演習と実践は違うだろ。やばくないか、この展開」
「Dランクでしょ? なら、大きさはせいぜい大型犬くらいよ。討伐自体は難しくないわよ」
いつも通りの表情を浮かべながら答えるエコに対してサイルは引きつった表情になる。ロードも同様の不安げな表情になっていたが、目を閉じて大きく息を吐き出した。
「とりあえず、魔獣の数だ」
「数?」
「リュウ先生はあくまで魔獣が居るって言ってただけだろ。多分、一体じゃないと思う」
「容赦ねぇなあ、リュウさんって」
ははは、と乾いた笑い声を上げながら、サイルは言った。表情は相変わらず、引きつったまま。
「とりあえず探索するぞ」
「はいはい」
ロードとエコはそれぞれロッドを地面に挿して探索魔術を発動させていた。サイルも二人の様子を見て、慌てて同じようにして探索を始めた。
「……魔獣の数、俺は三体探知できた」
「私も」
「おれも。じゃあ、どうするよ」
サイルが深刻そうな声で、二人に尋ねる。想像していなかったサイルの言葉に、エコとロードは顔を合わせた。
「……え、何?」
「何、って……あんたこそどうしたのよ?」
「サイルが真面目な顔して、そんなこと言うって……槍でも降ってくるのか?」
「あの、本人の前で失礼じゃね? 君たちさ」
いつも通りの、へらりとした笑みを浮かべてサイルは二人にツッコミを入れる。が、すぐに笑みを消して口を開いた。
「作戦、何かあるのか、お前ら」
「作戦……? とりあえず三体居るなら、一人一体倒すってのは」
「そりゃ無理だ」
ロードの提案を皆まで聞かず、サイルは却下した。その反応に、ロードだけでなくエコも驚いたように目を大きく開いていた。
「何で?」
「おれとエコのカラーコードを考えろ。緑も青も、単体攻撃には向いてない」
「あ……」
サイルの言うとおり、サイルが使う緑とエコが使う青は攻撃の補助を行ったり回復魔術を行ったり、サポートに向いている魔術である。単体攻撃も可能ではあるが、ロードの使う黒の魔術より攻撃力は劣ってしまう。
「魔獣と一対一で戦うのはさすがにおれたちはキツい。と、言うことで一つ作戦がある」
そう言うと、サイルは地面にガリガリと簡単な図を描き始めた。
「ここを中心として、魔獣を中心に寄せる。その間、攻撃はしていって、相手の体力を減らす。ここまではいいな?」
「あ、ああ……」
「で、とどめはロード。お前だ」
サイルはすっとロードを人差し指で指す。
「お、れ?」
「だって、一番攻撃力あるじゃん、黒。それに、おれはとどめさせるほど攻撃魔術使えないし」
「……あんたが楽したいだけじゃない」
不満げに言うのはエコ。いつも以上に表情をむっと曇らせてサイルを睨んでいる。
「私は一人で倒せるわ。Dくらい、どうってこと無いわよ」
「うん、それならそれでいいんじゃね?」
拍子抜けするようなサイルの軽い口調に、エコはがく、とバランスを崩してこけそうになった。
「何よそれ?! そんなの作戦でも何でもないじゃない!!」
「あー、そうかも。でもさ、一人で戦うより協力体制組んで戦った方が勝算上がらない?」
「知らないわよ、そんなの! とにかく、魔獣と戦えばいいんでしょ?!」
怒鳴るように言うエコに、サイルはにっこりと笑って頷いた。二人の間に流れる穏やかとはいえない空気にロードは不安げに二人の顔を見る。
「あ、でも戦うときは真ん中に寄せるような感じでよろしくな、エコ」
「馴れ馴れしく人の名前を呼ばないで!!」
一人で森の奥に歩き始めたエコの背中にサイルが言うと、いつも通りの返しが来て、そのままエコの姿は見えなくなった。
「じゃ、おれも行ってくる。よろしくな、ロード」
「って、おい!」
止める言葉も聞かず、サイルもまた森の奥へと去ってしまった。呆然とするロードはしばらく動けなかったが、決心したように二人とは別の方向へと向かった。
「へー、三人別々に動いたか。意外な展開だな」
「マスターはどのような行動を想定されていたのですか」
周囲に結界を張りながら、リュウは手持ちのボード型パソコンで三人の動きを確認していた。
「学生がよくやらかすのは三人で一緒に行動すること。まあ、周辺に注意が払える学生だったらいいけど、全員で一体の魔獣に特攻して、そして別の魔獣に気付かない、と。これが王道の失敗パターンだ」
「しかし、彼らはそれとは違う行動を取っています。これは、どのようなパターンなのでしょうか」
「どうだろうなあ。過信した結果か、それとも……」
それぞれの学生が魔獣と対峙している。しかし、ただ攻撃しているだけには見えないリュウは、しばらく見守ることを決めた。