05
「ま、マジか……」
「二キロって、学生に出すレベルじゃないわよ」
「リュウさん、一緒に実習できると思ったのに……」
リュウの姿が見えなくなった瞬間、三人は同時にしゃがみこんだ。その姿を、ビィが不思議そうに見つめている。
「どうするよ? 今から」
はあ、と諦めのようなため息をだすサイルは、しゃがんだまま空を見上げた。
「どうするもこうするもないだろ。魔鉱石の探索をするしかないだろ」
ロードは立ち上がり、ズボンのポケットからネックレスを取り出す。
「魔術展開」
唱えると、ロードのネックレスはリュウのものと似た形のロッドとなった。ロードはロッドを下に向けて構える。
「……で、どうするのよ」
それを見ていたエコはむっとした顔で苛立ったようにロードに尋ねる。ぎく、とロードが肩を震わせる。
「まさか、何も考えてなかった、とか?」
「最低」
「だ、だってずっと座ってても何にもならないだろ?!」
エコの言うとおり、ノープランだったロードは顔を真っ赤にさせてサイルとエコの二人に言う。二人は同時に、大きく息を吐き出した。そしてエコはゆっくりと立ち上がり、ロードの方を真っ直ぐと見た。
「さすが“ストレンジ・ブラック”ね。やることの意味が全くわからないわ」
「ああ?! 何だと!」
「何よ? それとも、これぐらいの言葉の意味もわからない、って言うの?」
「バカにしてんのか、お前!!」
「はいはい、ストップストップ。ここでケンカしても何にもならないだろ」
二人の間に立ってサイルが言い争いを制止する。しかし、二人の腹の虫はおさまっていない様で、互いの顔をにらみ合っていた。
「まあロードの言い分も事実だな。このままぼーっと何にもしなかったら、評価も単位も何もなくなっちゃうからなあ」
サイルが笑いながら言うとエコは奥歯を食いしばるような、苦々しい表情になった。しかし、サイルの言うことは事実であり、自分の評価が落ちることは絶対に避けたいので、エコはロードから顔をそらした。
「とりあえずおれも出しとくか……、魔術展開」
サイルもロードと同様にネックレスをロッドにした。ロードのものと違って、上からカートリッジを挿入するタイプのものだった。
「さてと、どうする? おれ、探索魔術とか全然知らないんだけど」
「……俺も」
「ああ、もう!! 魔術展開!」
怒鳴りながら、エコもロッドを出す。両手で端と端を持てるほど長く、カートリッジを中心に挿しこむタイプのものだった。
「あんたたち、何で探索魔術も知らないわけ?! 本っ当にバカばっかりじゃないの!」
「じゃあ、エコ、お前は……」
「馴れ馴れしく呼ばないで! これくらい常識レベルでしょ?!」
そう言って、エコはロッドの先端を地面に刺し、目を閉じる。
「探索魔術発動、対象物魔鉱石、探索範囲……五百メートル」
「え」
エコの言った範囲に、ロードは驚きの声を上げる。その直後、エコのロッドの先端を中心に青い光の魔法陣が現れ、先ほどリュウが出したものと同じようにすっと広がって消えた。ロードとサイルはその光景をぱちぱちと瞬きして見ていた。
「すっげ。やっぱりエコって頭良いんだ」
「……でも、五百メートル、って」
「五月蝿いわね。自分のできる限界ぐらいわかるでしょ。自分の限界超えた魔術使ってみて、良い事なんて一つもないし」
「まあ、そうだけど……」
「それとも何? あんただったら二キロすぐにできたって言うの?」
納得していないようなロードに対し、エコは苛立った口調で声を上げる。再び、二人の間で険悪な空気が流れる。
「自分でできもしないくせに、人のやることに文句つけないで。あんたが私と同じことできるようになってから言いなさいよ」
「誰もそこまで言ってないだろ!」
「あー、はいはい、ストップ。お前らすぐケンカするの止めようぜ。止めるおれの身のもなれって」
サイルはそう言ってロードとエコの肩に手を乗せて言い争いを止めた。ロードは大きく息を吐き出し、サイルの手を自分の肩から下ろした。
「ごめん、つい」
「ま、おれはいいんだけどね」
へら、と笑うサイルを見てロードもようやく表情を和らげた。そしてロードはエコの方を改めて向いた。
「エ……コット、それで、さっきの探索で魔鉱石の反応は?」
「無かった。ただし、五百メートル範囲だけどね」
まだ怒りがおさまっていないのか、そっぽを向いたままでエコはロードの質問に答えた。わかりやすい反応に、サイルもロードも苦笑いを浮かべるしかできなかった。
それから一時間後。
「……これは」
帰ってきたリュウが見たのは、ぐったりとそれぞれの背中を支えに座り込んでいる三人と、そばで見つめているビィ。予想はしていたが、その通りだと何となく悲しいものがある。そう思いながら、リュウは大きく息を吐き出した。
「お前ら、実習中だぞー。しっかりしろー」
「……リュウ、先生」
疲れたようなリュウの声を聞いて、ロードは顔をあげる。それにつられるように、サイルとエコも顔をあげた。
「どうだ、お前ら。探索はできたか?」
「五百メートル、までなら」
吐き捨てるように答えたのは、エコ。相変わらずむっとした表情で、リュウと目を合わせようともしていない。
「その範囲内ではどうだった?」
「ありませんでした」
「そうか……なるほどな」
探索もできずに終わるだろう、明日からは探索魔術の練習をさせるか、などと考えていたリュウにとっては想像以上に良い反応だった。
「じゃあ、今日の実習はここまでにする」
「本当っすか?!」
勢いよく立ち上がったのはサイル。それに続いて、ゆっくりとロードが立ち上がった。
「いいんですか? まだ、時間はあるんですけど……」
「いや、お前らの状態見て続けてもなあ、って思ってな」
リュウに言われて、ロードはうっと言葉を詰まらせる。実際、だれていた姿を見られてしまっているので、反論は何もできない。そんな反省するロードの横で、サイルは浮かれた笑顔を浮かべている。
「じゃあ、明日も今日と同じように朝集合しろよ。以上」
「ありがとうございました!」
「ビィ、行くぞ」
「了解しました、マスター」