第六章
突然の爆風。対処が出来なかった亜華音は、バランスを崩して吹き飛ばされそうになりかけた。
「亜華音!!」
時雨は亜華音に向かって手を伸ばして掴む。そしてそのまま亜華音を引き寄せ、強く抱きしめた。
「大丈夫?」
「はい……。今、のは……」
「昨日と同じことだ」
亜華音の問いに答えたのは、時雨ではなかった。時雨は視線を先ほど爆発が起きたほうに向ける。
「やはりここに来ていたのだな、千条亜華音。そして、時雨」
「……透」
時雨の視線の先に立っていたのは、爆風で黒い髪をなびかせている透だった。
「時雨、もう終わりにしよう。私がお前を、消す」
「昨日も言ったはずよ。透、貴女に私を消すことができるかしら」
昨日と全く同じ会話。時雨が亜華音を放した瞬間、透が駆け出した。その右手には、青白く光る刀のようなものが握られている。
「離れて!」
時雨は叫ぶと、透に向かって走る。走りながら、右手を前に出した。その手のひらから、少しずつ黒い光が現れる。透は、持っていた刀を時雨に向かって振りかぶった。
「時雨さん!!」
亜華音が叫ぶ。同時に、金属と金属がぶつかり合うような甲高い音が響く。時雨の手にも、透と同じような黒く光る剣があった。
「透、強くなったようね」
ふっと、嬉しそうに時雨は微笑む。一方の透は、鋭い瞳を時雨に向けていた。その視線だけでも、人を貫けるのではないだろうか、と遠くで見ていた亜華音は背中を震わせながらそう思った。
「けれど、まだ私には及ばないわ」
言うと同時に、突然、透が吹き飛ばされた。何が起きたかわからない亜華音は瞬きもせずに、その様子を見つめていた。
飛ばされた透はなんとか着地をして、再び刀を構える。時雨も、剣の先を透に向けていた。二人の間には、ぴりぴりと張り詰めた沈黙が漂っていた。
チャイムが授業終了を告げた。
結局、休み時間に透に連れて行かれた亜華音が戻ってこなかったことに、美鳥は少し困ったような表情を浮かべていた。頬杖をついてため息を吐き出し、誰も座っていない亜華音の席を見つめた。
「美鳥」
「え?」
自分を呼ぶ声に振り向くと、そこには二つ結びのお下げをしている女子生徒がいた。その服装はやけに乱れていて、典型的に校則を破っている生徒の例のような格好をしている。
「ああ、こんにちは、ナナコ先輩」
「こんにちは。ところで、さっきの休み時間に自治組織がここに来たって聞いたけど、何事?」
ナナコと呼ばれたその女子生徒は、にこにこと楽しそうに美鳥に尋ねる。美鳥は呆れたような表情でナナコを見た。
「自治組織が生徒を一人、連行しました」
「連行って、なんだかアブナイ雰囲気だねぇ。それで、どこの誰?」
「千条亜華音。今まで、『図書室の亡霊』は見たことなかったようです」
「今まで? なら、もう見たのかな」
にやり、とナナコは笑う。美鳥は、誰も座っていない亜華音の席を見つめた。その表情は、どこか不安を覚えているような、悲しげなものだった。