おたまに―SFX × Magician of Black―魔導管理局の黒き死神―
「ma-ni-aとのひととき、女教官の好奇心」
今夜、質疑の寝場所がないという理由から、俺は学生の寮へ案内することにした。
寝静まる、深き闇夜の細道。俺達は肩を並べて、黙々と歩いていた。
――ただし、もう一人を含めて。俺は背後にいる存在に、恐る恐る振り向いた。
鮮やかな茶の、ショートヘアの女教官――ミリーネ・ダリヤ。
彼女がともに来るのは、ある程度予想がつく。俺達を送ると称しての、同行という名の監視。
「香島質疑。ロードに懐かれているようだけど、私はあなたを信用していないわ」
疑心暗鬼による忠告だ。それに対して、彼は真っ直ぐ受け――笑みを浮かべる。
「俺を怪しいと思うのは、仕方がないことだよ。すぐに、信用しろというのが難題だと思う。
もっと、疑えば良いし、聞きたいことがあれば――何でも尋ねてくれ」
納得型の受け身。付き合ってみて、俺なりの解釈。
この人は誰にでも、優しすぎるな。人柄かもしれない。
ミリーネは驚き、目を見開いていた。何度も瞬きをした後、呆れ果てていた。
「あなたって、お人よし……」 「よく言われるよ」
質疑はそれに動じることなく、俺に合わせて歩行する。ミリーネは深呼吸をし、本題に入る。
「デュオから、あなたの話を聞いているわ。獣人の戦士に変身することが、できるんですってね?
それに変身したとき、ほんのわずかだけど、魔力のオーラがあったと言っていたわ。
あなた、あれは本来の姿?魔法は使えるの?」
質疑は首を横に振り、自分の身の上を話す。
「……いや。セーブルの力を借りて、戦っているだけだ。俺の力じゃない。
俺は魔法を使えないけど、セーブルだったら……」
彼は未知なる力のことについて、詳しく説明した。
オルドネ・ホープ。通称オーダーに変身したときの、黒貂の戦士。あれの姿が、セーブルらしい。
オーダーになった際は、所有者に共生して、一緒に戦うのだ。
普段は、メモリーカードとして、身を潜めている。大型のゲーム機に差し込めば、会えるらしい。
質疑の話によれば、“故に〜〜”が口癖の、人間臭い獣人だという。
ティンクチャーの一人で、エイリアン。言葉を借りれば、宇宙人だ。
そのほかに、アージェントという兎の獣人もいるという。
セーブルと同様、メモリーカードとして隠れている。その使用者は、瑞穂露という女だという。
本人によれば、彼女は仲間で、戦友とか何とか。
質疑の話を終えると、ミリーネは少し躊躇いがちに問いかける。
「……良いの?そんな重大なことを話して?」
元々、生真面目な彼女。真実味が帯びたことを感じているのか。ばつが悪い。
質疑は女教官に向けて、柔らかい笑みをする。
「ミリーネ教官。あんたは言葉には出さないけど、ロード君の身を案じている。
本来なら部外者なのに、自分の意思を貫こうとしている。
命令云々ではなくて、本気になって守ろうと必死だ。
不器用が災いになって、勘違いをされやすい……違うか?」
初対面でなおかつ、会ったばかりの人物であるミリーネ。当の本人は、息を呑んでいた。
しばらく、質疑を凝視し続けた。そして、本音の感想が漏れる。
「……あなたには、構わないわね」苦笑に近いものであったが。
ミリーネと別れて、俺達は寮の中に入っていた。歩行しながらの、会話をし始める。
「ロード君、ごめん。厄介になって……」
質疑は申し訳なさそうに、謝っていた。黒騎士の団体に、俺が巻き込まれたことだろうな。
心底に謝罪する、真摯な姿。今時の大人にしては、珍しい人だな。
俺なんかの、子ども相手に、素直になるなんて……ね。
「困ったときは、お互い様。それに、質疑さんは俺に勇気を貰った――」
彼は知らないけれど、俺は自分のカラーコードである“黒”を使いこなせていない。
あのときは、火事場の馬鹿力という奴だ。無意識にさせた、感情的なもの。
「勇気?」彼は怪訝そうな表情をして、こちらを見つめてくる。その視線を受け止め、俺は断言をする。
「そう。俺の使う魔法をね」誰も、俺のことを信じていない。赤が似合うとか言って、馬鹿にされる。
ただ、この人だけは違った。彼自身がイレギュラーなのか、逆に褒めてくれる。
「どうして?」案の定、素朴な疑問になって、聞き返していた。
質疑の不思議そうな顔つきを見据え、俺は冗談混じりの答えを言う。
「あんたは……魔法を使ったことのない、一般人だからさ」