冬の海
「もう何も感じないの」
彼女はそう言って、冬の海に、素足を浸けた。波が、彼女の足に容赦なく冷たい海水を浴びせる。彼女は、悲鳴どころか表情一つ変えず、私を見つめていた。
「それで、いいの」
問うと、彼女は視線を自分の足に向け、それから私に向けた。その顔に、感情は見えない。
「いいよ」
ばしゃり、と音を立てて彼女の足は海から解放される。冬空の下、彼女はノースリーブの白いワンピース姿。彼女には似合うが、冬の海には似合わない。
「これで、いいの」
濡れた足に砂が張り付く音を立てながら、彼女は私に近づく。そして、手を伸ばして私の身体を引き寄せる。
「これで、あなたと結ばれても許されるから」
私たちは、結ばれない運命だ。しかし、彼女はそれを覆す方法を実践してしまった。彼女は私たちの住む世界とは違う、別世界の住人となってしまった。私たちが普通は持つ感覚を、彼女は感じなくなってしまった。
「私たちは、結ばれていいの?」
私が問うと、彼女の手が震えた。
「どうして」
「あなたはもう」
ここにいてはいけない人だから。抱きしめられていたはずの彼女の手が、すうっと、消えた。
「……さようなら」
白い雪が、頬に落ちる。ひどく、冷たかった。