深海

 

 深海に住む賢者は、何でも知っているという。

「なら、私が知りたいこともあなたはご存知なんでしょう?」

 お転婆な人魚姫は、首を傾げながら賢者に問う。賢者は視線を本に向けたまま、どうでもよさそうに「ああ」と返事をした。

「ねえ、賢者様」

「何ですか」

「私のことは、好き?」

 問われ、賢者はようやく顔を上げた。人魚姫は青く丸い瞳を、賢者に真っ直ぐに向けて答えを待った。

「……さあ」

 それだけ言うと、賢者は再び視線を本に落とした。

「もう、賢者様はいっつもそう。私にいじわるばっかり」

 頬を膨らませた人魚姫は賢者の元を去った。人魚姫の姿が見えなくなって、賢者は本を閉じて深く息を吐き出す。

「私も、こんな感情知りませんよ……」

 

 

 

 

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