卒業式の幻〜魔法少女☆ライコちゃん最後の日?!〜
小学校の卒業式と中学校の卒業式で決定的に違うのは、微妙に残る緊張感だろう。小学生でも最近は増えたが、中学生はほぼ全員入試を受ける。この辺の学校だと、卒業式の前々日あたりに入試が行なわれる。そして、卒業式から約一週間で結果が出る。つまり、卒業生たちは結果を知らないで卒業式に出ないとならない。そのため、緊張を抱えてしまうのだ。
そして、これからこの物語に出てくる中学三年生、高野香織も同じような状況下にいるが、一般の生徒たちとは少し違う設定がある。
彼女は、元・変身魔法少女なのである。
この物語を語る上で必要なのは、『妄暴事件』である。妄暴、とは妄想の暴走という言葉から生まれてきたものだ。妄想の暴走、といったら別に問題がないように思われるのだが、この事件ではその妄想の暴走が現実になってしまったのである。
何故このような事件が起きたかと言うと、良くある魔法少女モノでおなじみの闇の使者だの悪意の結晶だの、そういったものが特殊な力を得たからだ。ここでは『コクアン』と呼ばれる人物が中心であった。コクアンは人々の中にある妄想を現実にしてしまう『妄暴』の力を手に入れてしまい、世界を混乱と恐怖に陥れようとしたのだ。
そして、それに対抗するために、これまたやっぱり良くある魔法少女モノでおなじみ光の使者がごくごく普通の中学二年生になったばかりであった香織に目をつけた。
「君は、星の輝きを持っている!」
そう言って、香織の目の前に現れたのは黄色い小鳥……ノール。最初は半信半疑の香織であったが、近頃起きている事件の事は知っていた。ある時は動物園から全部の動物が逃げ出し、ある時は時計の針が全て止まってしまったり、ある時は水道から出てくる水が全てジュースになったり……どこか子どもじみた事件が多かったが、それは全てコクアンによる妄暴だったのだ。
「星の光よ、私に導きを与えたまえ! スターライティング・チェンジ!」
香織が星のモチーフがついたネックレスを空に上げて呪文を唱えると、変身が始まる。そして、ネックレスは魔法の杖となり彼女の姿も特殊なものになる。
「私は私の光を貫く! 星光の戦士・ライコ、ただいまライト・オンッ!」
しっかりとポーズを決める香織……否、魔法少女☆ライコちゃん。こうして彼女は変身して戦うのである。
彼女が星光の戦士として守らなければならなかったことは、正体を誰にも知られてはならないということだ。王道魔法少女モノではお馴染みの設定である。それと、香織自身も周りにそんなことをしていることを知られたくないと言う事もあって、誰もライコちゃんの正体を知らなかった。
そしてこのライコちゃんの存在を強く表した事件が『太陽と月の闇事件』である。日々激しくなる妄暴事件を解決していくライコちゃんであったが、とうとうコクアン自身が妄暴にとり憑かれて、全世界を闇に陥れようとしたのである。魔法少女モノなら良くある事件だ。
「そうはさせない! 私たちの世界を真っ暗にさせるなんて、絶対許さない!」
「五月蝿い! 我が邪魔をする者は、全て闇に落ちるがいい!!」
そんな激しい戦いの後、自らの光の力によって、ライコちゃんが勝利した。こうして、妄暴もなくなり、ライコちゃんも変身する力を失う……はずであった。
「ただ、まだ力が残るかもしれない」
ノールの言葉に、香織は驚いた。香織の力は元々自分が持っていた力であって、あくまでノールや光の使者たちが与えたのはそれを増幅させる力だけだった。
「だから、君が必要とするなら……魔法はいつでも使えるよ」
そう言って、ノールは姿を消してしまった。少し悲しく思った香織だが、これからも強く自分の光を信じて生きようと平凡な日々に歩みだした。それが、中学三年生になり始めようとした頃のことだ。
***
「……高野、このままだとお前どこの高校も行けないぞ」
学校の面談で、香織は担任にはっきりとそう言われた。香織はただ机の上に置かれた学力テストの結果を見るしかできなかった。そこには三年間の成績が載っているが、あまり良いとはいえないものだった。
「うーん……二年の秋ぐらいまでは普通だったんだけどな、それ以降がちょっと悪すぎじゃないか?」
とんとん、と担任が折れ線グラフの書かれている部分を叩く。香織の成績が急激に落ちている部分だ。
「ですよね……」
「授業態度はまあ……普通としか言えないな。悪いところもないけれど発表回数も少ないし」
「ですよね……」
「何か家であったのか?」
家ではないが、何かあった。けれど、それは香織のプライド上言えることではない。
「何でも、ないです」
「予習と復習はちゃんとしているか?」
「……復習は、微妙だけど、予習は割りと」
目をあわせられない。香織はじっとうつ伏せっぱなしである。担任もため息しか出ない。
「推薦、さすがにこれだけじゃなあ……」
「……」
「お前、何か特殊な賞かとった事あるか?」
「あの」
香織はやっと顔を上げた。担任が少しだけ期待の眼差しで香織を見る。
「正義の味方、って推薦書に書けますか?」
「…………はぁ?」
香織はとぼとぼと帰り道を歩く。陽が傾き、あたりはオレンジ色に染まっていた。香織の影が長く伸びる。
「ダメなのかなあ……」
そう言って、香織は空を見上げる。カラスが数匹鳴き声を上げて飛んでいた。それから首にかけてあるネックレスを取り出した。キラキラと夕陽に反射して輝く。
「……何が星光の戦士だか。自分が成功しないでどうするのよ」
そしてネックレスを服の下に隠して、香織は家に向かって歩く。家でも彼女は元・正義の味方ということは隠しているのだ。
「お帰り、香織」
「ただいま」
「香織、そろそろ高校のことは決めたの?」
リビングに入ると香織の母、奏子が困ったように尋ねる。香織はまだ、どこの高校に行くのか決まっていないのだ。もう三年生の一学期も終わるところ。高校を決めなければならない時期である。
「……まだ」
「まあ、確かにいきなり決めろって言われたのと一緒かもしれないけどね、でもそろそろ香織も受験を考えなくっちゃいけない時期なのよ」
優しく言う奏子。それでも、言葉の中には厳しさが含まれている。
「わかってるけど……何がしたいか、なんてわからないもん」
そう言って、香織は自分の部屋に入った。それからベッドに倒れこむ。
「……ノール」
小さく香織は呟く。首にかかっているネックレスが、ベッドの上で輝いた。夕陽による、反射だった。
「魔法なんて、もう使えないんだよね……」
あんなふうに戦った日々だって、実は夢だった。何度も何度もそう言い聞かせたが、香織は納得できなかった。それからゆっくりと目を閉じた。
***
夏休みに入る頃から、香織はじわじわと成績を上げ始めた。元々勉強ができないわけではなかったので、きちんとワークや課題をすれば成績は取れた。それに、行きたい高校への目標も決まったのだ。しかし、
「推薦書に書くことなんてないよ……」
それが問題だった。じっと紙を見つめて、香織は考えた。周りの友人は漢検や英検、部活での賞などを取っていたが、部活にも入っていないし資格もとってなんて居ない。書けるものなら『魔法少女☆ライコちゃんとして過去にコクアンの野望を断ち切り、世界に平和を与えた』なんて書きたいが、やっぱり恥ずかしいものだ。
「……いやいや、これは夢だったんだ」
香織はあの面談を終えた日から決めたのだ。もう、魔法の力には頼らない。自分の実力で行きたい高校に行くことを。
「よし、頑張るぞ!」
推薦書には先生と相談して決めよう。香織はそう決めて、鞄から数学のワークを取り出す。昨日の続きをしようとノートを開いた。そのとき、窓が叩かれた。突然のことに香織はびくりと肩を震わせた。
「な、何?!」
窓を見ると、そこには黄色い小鳥が居た。小さく首を傾げて、香織の方を見て鳴いた。
「……もしかして、ノール?!」
窓が開かれると、黄色い小鳥が部屋に入ってきてベッドの上にとまった。
「久しぶりだね、香織!」
「やっぱりノールだ!!」
小鳥の声を聞いて、香織の瞳は涙で震えた。久しぶりの再会に、嬉しさが溢れてきたのだ。
「また会えるなんて、思わなかった!」
「僕も会えて嬉しいよ、香織! 元気そうだね」
「うん、でも今は勉強漬けかな」
苦笑いをして香織が言うと、ノールは声を上げて笑った。少し前まではこんなノールの笑い声を聞くのも普通だったのに、今ではその笑い声を聞いて涙がこぼれそうになった。
「それで、どうしたの?」
「うん。実はね、香織に教えなくっちゃいけない事があって」
「教えないといけないこと?」
香織が尋ねると、ノールが頷く。
「香織、君の中にある力ももうすぐ消えてしまうんだ」
「……え?」
突然の言葉に、香織はただそれだけしか言えなかった。
「確かに君にはもともとの力がある。けれど、この戦いで君は力を多く消費してしまった。そして、そのペンダントの力ももう残り少ない」
ノールはじっと香織を見つめて、言葉を続ける。
「電池を入れっぱなしで使わないリモコンと基本は一緒だ。そして完全に消えるのは……三月九日」
その日付を聞いて香織ははっとした。その日は、中学校の卒業式だ。
「その日を越えたらそのネックレスはただの星のネックレスになる。だけど」
「だけど?」
「それまでに力を使ってしまったら、みんなから『高野香織』の記憶がなくなってしまうんだ」
「……どういうこと?」
言葉の意味が理解出来ずに香織はノールに尋ねる。
「もう香織はずっとライコとしてしか生きられなくなるんだ」
「そう、なんだ……」
香織は俯いた。思い現実を突きつけられて、頭が少し混乱しているのだ。しかし、香織はすぐに顔を上げてノールを見つめた。
「大丈夫。私もう、魔法の力に頼らないって決めたの」
「香織……」
「私は、私として生きるから安心して」
その香織の笑顔を見て、ノールはどこか安堵したような表情になった。
「それなら安心だ。じゃあこれが本当のお別れだ」
「うん、でもまたどこかで会おうね」
香織は掌にノールを乗せて窓まで運んだ。そして、ノールは空へと羽ばたいていった。
「……バイバイ、ノール」
***
小学校の卒業式と中学校の卒業式で決定的に違うのは、微妙に残る緊張感だろう。小学生でも最近は増えたが、中学生はほぼ全員入試を受ける。この辺の学校だと、卒業式の前々日あたりに入試が行なわれる。そして、卒業式から約一週間で結果が出る。つまり、卒業生たちは結果を知らないで卒業式に出ないとならない。そのため、緊張を抱えてしまうのだ。
香織は結局学校推薦に落ちてしまったが、一般入試で希望校を受けた。入試の直前に行なわれた学力テストでは、希望校の合格圏内に入る成績を収めたので、少し自信はあった。が、結果はまだでないため不安がある。
それでも入試が終わり、とうとう卒業式の三月九日となった。
「もうみんなと会えないんだね……」
香織の友人である美原清花が少し悲しげにそう呟いた。香織も清花の言葉に頷いてこれから自分たちが入場する体育館を見上げた。
「確かに、もうここにも毎日来なくていいんだよね」
「なんだか寂しいね……」
「でも、これからも私らは仲良くしようよ」
香織が言うと清花が少し驚いたような顔がして、「それもそうだよね!」と微笑んだ。
そして、香織たち卒業生は体育館に入場した。保護者や在校生の拍手が体育館内に反響する。
「卒業式を開始します」
教頭の声がマイクで拡張される。それから、校長の祝辞やPTA会長からの言葉、同窓会会長からの言葉などが続いた。この時間はさすがにきついな、と香織はあくびしたい気持ちを堪えてステージを見つめる。
「卒業証書、授与」
とうとう卒業式のメインイベントが始まった。卒業生だけでなく保護者や在校生、教員の間にもさらに緊張感が漂う。そして体育館の電気が消えて薄暗くなり、誰も居ないステージだけが光に包まれた。このまま、普通に卒業証書が一人一人の手に渡るはずだった。
―――ドンッ
光の包まれたステージに何かが現れた。突然のことに誰も何も言えなかった。ステージにいたのは、大きく黒い四足の獣。その異形のものが座っている人々をステージ上から見て、咆哮を上げた。
「きゃぁああああああああああああああ!!!!!!」
誰が叫んだかわからないが、その声が響いた。それから体育館に居た全ての人々は慌てて立ち上がり、出口に向かって走る。
「早く出して!!」
「ダメだ、開かない!」
「鍵がかかってるの?! 誰か助けて!!」
人々が叫び、扉を叩く。他の扉も開けようと寄っていたが、どうやら開かないらしい。完全にみんな閉じ込められてしまった。
「誰か! 誰かぁ!!」
叫ぶ同級生、下級生、保護者、教員。香織の頭は混乱していた。
ステージの上で飢えているように唸っている獣は間違いなく妄暴である。香織の中にある感覚がそう叫んでいた。その獣の様子からして、いつ人々を襲いだすかわからない。
「このままだと……」
香織はぎゅっと拳を握った。ここで妄暴が暴れ出したらみんなが苦しい思いをしてしまう。みんなが傷ついてしまう。
しかし、ここで香織が魔法を使えば『高野香織』としての記憶がみんなから消えてしまう。せっかく入試も終わって、これからみんなで遊ぼうと思っていたのに。卒業証書ももらえない、清花との約束も破ってしまう。ずっとずっとライコとして生きなければならない。
どうすればいいの……香織は強く目をつぶった。そして、首から下げているネックレスを服の上から掴んだ。
――何を迷う必要があるんだ。
目を開き、香織は走り出す。誰も居ない体育館の中心に立って、ネックレスを外した。星のモチーフを天に向けて、叫ぶ。
「星の光よ、私に導きを与えたまえ! スターライティング・チェンジ!」
その叫びを聞いて、扉に向かっていた人々は声のほうを向く。その瞬間、星のモチーフから強い光が現れた。
香織は光に包まれ、星の髪飾りをつけたツインテール、胸には大きな星の飾りがついた服になった。それは、高野香織の姿ではなかった。
「私は私の光を貫く! 星光の戦士・ライコ、ただいまライト・オンッ!」
魔法少女☆ライコちゃんがポーズを決めて、手に持っている星がついた杖を獣に向ける。体育館に居た全ての人が呆然とその姿を見ていた。
「あれって……ライコ?」
「うそ、何で……?」
「みんな、下がってて!」
ライコがそう言うと、呆然とした人々は後ろの壁に寄った。
「大切な学校を……大切な卒業式をぶち壊そうとするなんて、この星光の戦士であるライコちゃんが許さないんだからね!」
たん、と地面を蹴ってライコは獣に向かって飛ぶ。獣もライコに向かって咆哮を上げて叫んだ。それから、二人は衝突する。獣の鋭い爪をライコは杖で何とか抑える。
「っー……!」
ライコは獣の顎を上に蹴る。獣が悲痛な叫びを上げながら背中から倒れた。ダメージが大きいらしく、足をばたつかせるしかできないようだ。
「ロック!」
獣に向かって杖を使ってライコは星を描く。杖をチアリーディングのバトンのように回して、再び星のついた方を獣に向けた。
「暗い夢を星の光が照らす! スターライト・シューティング!!」
杖から大きな星の欠片と光が溢れ出る。獣が避けることも出来ずに、その光を真正面から浴びる。それから、光に包まれた獣はパン、と乾いた音を立ててはじけて消えた。
「開いた!」
獣が消えた瞬間扉も開き、人々は一斉に外に出た。それから遅れて、ライコも外に出る。
「あ、ありがとう! ライコ!!」
誰かがそう叫ぶと、「ありがとう!」「助かった!」とライコに向かって言った。ライコは笑ってそれに答えたが、正直笑える状況ではない。この時点で、人々の記憶から『高野香織』の記憶はない……ライコは小さく俯いた。
「でも香織すごい! まさかライコだったなんてね!」
「……え?」
清花の言葉に、ライコは驚いた。今、清花の口から『香織』という言葉が出たのだ。
「今、清花……」
「ホント、まさか高野がライコだったなんてな!」
「以外っていうか、予想外?」
「いや、高野がライコだなんて知っていたら、推薦書書いたぞ?!」
「そんなの書けるわけないじゃないですか、先生」
笑い声が響く中、ライコは呆然とした。どうして、とライコが小さく呟いたそのとき
「香織!!」
「の、ノール!?」
空から飛んで来たノールを見て、ライコはさらに驚きを重ねた顔をした。
「何で、え?! 今、香織って……どうして?! みんなから『高野香織』の記憶はなくなるんじゃ……」
「うん、実は話さなくっちゃいけない事があってね」
のん気なノールの声を聞いて、あたりの人々も驚いているようだった。しかし、魔法少女が目の前に居るのだから、鳥が一匹二匹喋ってももはや不思議でもなくなったのだろう。
「香織の中に魔法が残っていたのも、それが残り少ないのも一緒だよ」
「でもね」とライコは言葉を続けた。「でも、使えばまた魔法の力が甦ってしまうんだ」
「……よみ、がえる?」
「そう。また魔法が使えるようになるんだ。何度でも、ライコになれる」
そんな話、聞いてない。ライコが頷いてノールの言葉の続きを求める。
「魔法は何でもできる力だ。でも、それで自分の全ての物事を解決してはいけないんだ。だから僕は、ライコの力が香織から消えるように力を使ったら『高野香織』の記憶が消えると言った」
「でも、それは嘘なの?」
ライコが尋ねると、ノールは小さく首を振った。
「もしも、香織が自分のためだけに使ったなら……僕の力でみんなから香織の記憶を消すはずだった」
その言葉に、ライコだけでなく周りの人々も一瞬沈黙した。
「もちろん香織のことを信じていた。けれど、これは大魔法使い様が決めたことで……でも、違った」
嬉しそうな声で、ノールは言った。
「香織は自分のためじゃなく、誰かの……みんなのために魔法を使った」
「みんなの、ため」
「そう。僕が魔法を使ったらみんなから君の記憶を消す、と言ったにも関わらず香織はみんなのために使ったんだ」
「香織すごいじゃない!」
ノールの言葉を聞いて、清花が声を上げた。
「そんな、自分の記憶が消えるって状況で戦ったなんてすごい!」
「そうだよ、普通じゃできない決断だよ」
「さっすが、香織なだけあるなライコ!」
「逆だってそれ……」
そんな同級生たちの言葉を聞いてライコは、――香織は瞳に涙を溜めた。
「じゃあ、私……みんなと一緒に卒業できるの?」
「もちろん! 香織はみんなのために戦ったんだから」
ノールの言葉を聞いて香織は顔を赤くさせた。そんな香織の頭を、担任が優しく叩いた。
「さあ、まだ泣くのは早いぞ。みんな、体育館に戻って卒業式を続けるぞ! 高野も、制服に戻りなさい」
担任の言葉に強く頷き、香織は変身を解いて体育館に入った。
「高野香織」
「はい!」
名前を呼ばれた香織はステージに上がる。先ほどまでここで激しい戦いがあったなんて思えない、輝かしい舞台である。
「よく頑張った、おめでとう」
校長にそう言われて、香織は両手で卒業証書を受け取る。
これまで、いろんな事があった。
中学に入学して、新しい友達ができた。
魔法少女☆ライコちゃんとして変身して、戦うこともあった。
戦いが終わって、高校や入試といった苦しい現実を突きつけられた。それでも、友達と一緒に目標に目指して歩出せた。
そして、今日の出来事。
「ほら、写真撮るよー!」
それから式が終わり、クラス全員そろっての集合写真を撮ることになった。香織もその中に入って、みんなと一緒に笑った。爽やかなクラスメイトの笑顔が、写真の中で輝いている。
その頃、そんな香織たちの姿を、魔法水晶を使って見ている青年が一人。
「大魔法使い様!」
青年が振り向くと、小鳥が一羽床に止まった。それから光に包まれたその小鳥は、香織と同じくらいの年齢の少年となった。これこそ、ノールの本当の姿である。金色の髪を揺らして、青年の元に走る。
「香織は、やっぱり正しかったでしょう?!」
「さすがノールの選んだ少女だ。とても意志が強いね」
その言葉を聞き、ノールは幸せそうに笑った。そんなノールの頭を青年は優しく撫でた。
「これからも彼女の魔法を、見続けよう」
魔法水晶には、香織の喜びに溢れる笑顔が映っていた。