【一時間前】
「早く行けよ」
「やーだ」
冬にコタツから出ることの苦痛さを知っている目の前の少女は、絶対に出ないだろう。新吾はじっと少女を睨みながら思った。
「でも、お前が出ないと意味ないだろ」
「うっさいし。まじ五月蝿いし」
「五月蝿くてもいいから早く出て行け」
新吾が言うと、少女はずっと頬を当てていた机から顔を離して新吾を見た。
「ひっどーい! 冬の寒空の下に、女の子を追い出そうとするなんて!」
「黙れチトセ。お前が出て行かないと、全国が……いや、全世界が大迷惑するんだよ」
チトセと呼ばれた少女は、新吾の言葉を聞いてむっすりとした顔をした。それから、そのままコタツの中に入ってしまった。
「あ、ちょ、お前! 早く出て行けって!!」
「やーだー! 絶対いーやーだー!」
「黙って出て行け! たった数分で済むだろ! 頼むから!!」
新吾はそう言ってコタツの中に手を突っ込む。コタツが激しくゆれて、上に置いてあったみかんがぼろぼろと床に落ちた。
「やー! 寒いもんー!」
「寒さなんて忘れろ!」
「コタツのぬくもり覚えた時点で無理!」
「じゃあ何でコタツに入ったんだバカ!!」
やけくそになりながら新吾とチトセは叫ぶ。コタツの上からさらに、テレビのリモコンや本も壮大に落ちて、狭い部屋が乱れてしまう。大掃除したばっかりなのに、と新吾は思いながらもチトセの足をコタツの中で掴んだ。
「よっしゃ、掴んだ!」
「変態!」
「五月蝿い! 早く、出て来い!!」
新吾が引っ張ると、コタツの中からチトセが引きずり出された。コタツの中で暴れたせいか、頬が赤く染まっている。
「あつー……」
「ちょうどいいじゃねえか。外は涼しいぞ」
「涼しいじゃなくって寒いでしょ!! 新吾のおバカ!」
「俺はそこそこ頭良いよ」
「そういう意味じゃない! いや、そういう意味!!」
よっぽどその発言の方がバカじゃねぇか、なんて新吾は思っていても言わない。ここで何か言ったらチトセの機嫌が悪くなってしまうのだ。新吾がチトセとの付き合いで培ってきたものである。
「はいはい、チトセの方が俺より頭いいよ」
「……本当?」
「本当だよ」
「絶対?」
「絶対、絶対」
「本当の本当の本当に?」
上目遣いでチトセが言うと、瞳がキラキラ輝いて可愛らしく見える。けれど、それは表面だけであると新吾はやっぱり付き合いの中で知っているのだ。そんなことを考えながら新吾はこくこくと頷いた。すると、チトセは先ほどまでの表情を変えて、やる気が溢れて零れてしまいそうな表情となってにっと笑った。
「よっしゃー! あたし、やる気出た!」
「わー、おめでとー」
やる気の溢れるチトセに対して、若干やる気のない新吾は乾いた拍手をした。
「おめでとうは、まだ早くってよ新吾! 紅白だってオオトリはまだ先なんだから!」
そう言って、チトセは新吾の部屋の窓を開ける。そして、暗い空に飛び立った。新吾は窓の外を見て、辺りを見る。冬の夜は、特に大晦日の夜は空が真っ暗である。新吾は空を見上げて、白い息を吐いた。空の黒と息の白が対照的だ。新吾は空を見た。
「……今年も一緒に、年越せないよな」
本当は、一緒にカウントダウンしたかったけど。新吾が小さく呟いたけれど、白い息ははっきりと黒の空に浮かんだ。
「本当に?」
突然の声に、新吾はあたりを見た。上を見ると、ふわふわ浮いているチトセがいた。
「チトセ……」
「あたしと一緒に、年越ししたいって、本当?!」
その言葉を聞いて、新吾はしばらく瞬きをしたけれど、頷いた。
「本当は、一緒にいたい」
「毎年追い出してるのに?」
「だって、一人だし」
「本当に?」
「本当だよ」
「絶対」
「絶対」
「本当の、本当の本当に?」
新吾は頷いた。
「じゃ、一緒に年越そうか!」
「いや待て待て。一緒に年越したらダメだって」
「だーいじょうぶ!」
チトセは新吾の手を掴んだ。すると、新吾の体が窓から出てふわりと浮いた。
「あたしは、年神様なんだからね!」
にっこりと笑うチトセの顔を見て、新吾は苦笑いを浮べた。
「それもそうだな」
「じゃ、一緒に新年を呼び出しましょう!」
そして二人は暗い空に飛んでいった。
【三十秒前】
「ほら、新吾! 勢いよく言わないと新年が来ないんだからね!」
「お前一人でいいだろ!」
「だーめ! 新吾が言わないならあたしも言わない!」
「……わかった、わかったから。言うから」
「よし! じゃあ行くよ……せーの!」
「あけまして、おめでとう!!」
:あとがき:
新年記念SSです。こんな季節モノを書くのは実は初めてだったりします。 何ていうか……新年って言うよりは大晦日メインな話になっております。チトセちゃんと新吾くんの、ぐだぐだーな大晦日みたいな。 この二人は割りとくっつきそうです。某作家先生と女子高生よりは(笑) でも、チトセちゃんが素直ではないので新吾くんは大変だと思われます。頑張れ新吾! こんな感じで、今年もよろしくお願いします。これ、よろしく〜な話なのかなぁ……(汗) |