ヒトリミイルミネーション
十二月。
駅の周りには無駄とも思えるほどに電飾がされていて、吐き出した白い息も様々な色の光で照らされた。
二十四日。
これで何人目か、というサンタクロースがケーキや居酒屋を勧めてくる。
私。
一人、クリスマス・イヴで盛り上がる商店街を歩きぬけ、またイルミネーションで明るくなっているショッピングモールへと足を勧めた。白い息は、ピンクとオレンジへと変わって、消える。家族連れや友人、恋人同士などが多く集まるショッピングモールのイルミネーションを見に、私は一人で歩いてきた。
にぎやかな広場に、輝くクリスマスツリー。何人もの影の中、私は一人、ツリーの前に立っていた。振り向いて、影を見ると、一人。
ああ、私は一人なんだ、と改めてわかった。
「……帰ろ」
ツリーに背を向け、歩き出した、そのとき。
「あれ、一人なんだ?」
聞き覚えの無い、少年の声。ツリーのほうを再び見ると、やはり見知らぬ少年が私を見ていた。楽しそうに笑う彼も、一人。
「一人だけど、何?」
「ナンパ。って言ったら、怒る?」
幼い子どものように笑う彼に、一瞬、私は戸惑った。
「……怒る、としたら?」
「じゃ、それでもくじけない。お互い一人だしさ、いっしょに遊ばない?」
言葉通り、くじけていない彼。ダメだ、と思っていても私の頭の中には、別の光景が映った。
彼は、あまりにも、似すぎている。
「ごめん、私、そういうの嫌いなの」
「なら、何で最初に返事したの? ナンパだって、わかってたくせに」
それは、淡い期待をしていたから。少年を前にして、私は言えなかった。
「一人だから一人って答えたのよ。君もかわいそうね、一人でクリスマスなんて」
「一人じゃないよ」
穏やかに、微笑む少年。それは、私の知っている微笑だった。目の前の少年は初めて見る人物なのに、その笑みは、私の知っている微笑みと全く同じ。
手を伸ばせば届く距離に居る彼は、ずっと、ずっと、私が会いたかった、
「一人じゃないよ。おれが、いるよ」
「……っ、リュウジ!!」
去年のクリスマス・イヴ。
「クリスマスツリー、いっしょに見ようよ。待ち合わせして、さ」
楽しそうに笑う彼は、幼い少年のようだった。
「そうね。あそこのツリー、綺麗だって有名だし」
「じゃあ、約束」
小指を出して、微笑む彼。穏やかな笑みは、いつも私に安心感を与えてくれた。
「何それ、子どもみたい」
「約束といえば、指きり。絶対に、いっしょに見よう」
小指を絡ませて、私と彼は同じ歌をうたう。約束を守るための、歌。
彼は、待ち合わせの場所に来る前に死んでしまった。
私の、大切な人は、死んでしまった。
一緒にクリスマスツリーを見る約束は、もう叶わない。
けれど、私は淡い期待をしていた。もしも、ここで待っていたら、また、彼に――リュウジに、
[一人で見るなんてずるいなあ。おれだって、いっしょに見たかったのに]
先ほどまでの少年とは違う声。一年ぶりに聞く、リュウジの声。
「来てくれないかと思った。もう、会えないかも、って……」
言葉が詰まる。言いたいことはたくさんあったはずなのに、言葉の代わりに涙が溢れて出てくる。
[いっしょに見るって約束したじゃん。遅くなって、ごめんね]
頬に触れる、リュウジの手のぬくもり。優しく笑うリュウジに、私は抱きついていた。
***
[ありがとう。無理な頼みごと、引き受けてくれて]
「別に。まとわりつかれるよりはマシだ」
光が消えたクリスマスツリーの前で、少年は暗闇に向かっている。表情は疲れているような、だるそうなものだった。
「何が楽しくて一人でイルミネーション見ないといけないんだよ……」
[一人じゃないさ。おれも、彼女もいたし。それに、抱いてもらえたし]
「それは俺じゃなくて、お前だ。……もう、満足か」
[うん]
ツリーに、先ほどまでの電飾とは違う光が灯る。その柔らかな光の中に、青年の姿があった。青年の顔に浮かぶ笑みは、周りの光と同様に柔らかで、幸せな笑みだった。
[ありがとう。本当にありがとう、――――]
少年の名を呼ぼうと青年が口を開いた瞬間、光がふっと消えた。それと同時に、少年の頬に冷たい何かが触れた。
「……雪、か」
空を見上げて、少年は呟く。コートのポケットに手を突っ込み、少年は光の消えたツリーの前から去った。
学校近くの駅のイルミネーションが綺麗過ぎて、一人で見るのが寂しくなって書いた作品です。 クリスマスに恋人がいなくなる、っていう王道展開がとても好きです。周りは楽しんでいるけど、自分は寂しいのよ〜っていう姿がとても切なくなって、胸がきゅーんとします。 ツリーの前でずっと待ち続ける女性、っていう姿もとても素敵だと思います。叶うはずのない願いを持ち続ける純粋さ、というか純情さというか。 でも結局おばけが好きなんだよなあっていう私らしい作品になってしまいました(笑) |