チョココロネ

 

「もしかして、甘党?」

「え」

 口を大きく開いていた私に、弘美は尋ねてきた。急に、真正面に彼女がいるのに、大きな口でパンを食べようとしたことが、恥ずかしくなった。

 弘美とは、この学年になって初めて同じクラスになった。同級生なのにどこか大人びた雰囲気がある。黒く長いストレートの髪は、少し首をかしげるだけでもさらさらと動く。髪、というよりも黒い絹と言う方が適切な気さえした。

「甘党だよ、うん」

「だよね。そんな甘そうなの、甘党の人しか食べないよ」

 弘美が指さすのは私の持つパン。家の近くのパン屋で売っているチョココロネ。

「弘美は嫌いなの、チョココロネ」

「ううん。でも、甘そうだなあって思って」

「そんなことないよ。ちょっとビターで、美味しいの」

 私はそう言って、チョココロネの細くなった先端から食べ始めた。すぐにどろり、とチョコがはみ出はじめて、あわててひっくり返して舐める。幸せな一時だ。

「なんだか、慌ただしい食べ方だね」

「いいじゃん、食べ方だって人それぞれだよ」

「まあ、そうだけど。でも、ほら、ほっぺについてるよ」

 弘美の指摘を受け、頬に手を伸ばしかけたとき、頬に柔らかな何かが触れた。目の前にあったはずの弘美の顔が、私の耳のすぐ近くにあった。頬に触れているのは、弘美の唇。

 しばらく、動けなかった。自分の頬から伝わる、弘美の唇の熱に、酔っているようだった。頭の中がぐらぐらしかけたとき、頬から熱が引いた。弘美は、ふっと笑って私を見ている。

「そんなに甘くないね、このチョコ」

 

 

 

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