ボールペン・たい焼き・桜

 

「桜見ながら受験勉強って……」

 ポツリ、と呟くと相手は不機嫌そうな顔を、参考書から俺に向けた。

「何よ」

「いや。まだ高三なりたてなのにさ、受験勉強ってどうよ」

「早いことにこしたことはないでしょ」

 まあ、そりゃそうだろうけど、と言いかけた俺に、相手はトドメの一言。

「落ちるわよ、アンタ」

「……縁起でもないこと言うなよ。泣くぞ」

「泣けば?」

 こっちは忙しいから、と言ってまたボールペン片手に問題を解き始める彼女。何が楽しくて、こんな花見をしているんだか。周りの奴らはどんちゃん騒ぎしてるっていうのに、俺たちは一体何してるんだ。考えているだけで、むなしくなる。

「……はあ」

 小さく息を吐き、俺は立ち上がる。ここで二人っきりでいても、悲しくなるだけだ。

「ちょっと出店見てくる」

「行ってらっしゃい」

 問題に詰まったのか、ボールペンはくるくると彼女の手の中で回っている。俺に向けられない視線から、こいつ、本気じゃねえか、と思った。気が早い、早すぎる。

「なんだよなあ……」

 出店の周りにはカップルがいたり、親子連れがいたり、それはもう幸せそうである。ここで俺の表情は果たしてどれだけ不釣合いなのか……考えたくない。せめて幸せな気持ちを味わうくらい、と思いのろのろ歩きながら出店を見る。

「……あ」

 俺の足は、ある店の前で止まった。

 

「……遅い」

「わるい、わるい。ちょっと作ってもらうのに時間かかって」

 俺が戻ってきたことに気付いて不満げな声を上げたが、やはり彼女の視線は参考書のまま。

「作るって、何ふおっ?!」

 顔を上げた瞬間、俺は彼女の口にそれを突っ込んだ。大きく目を開いて驚く姿に、大成功と笑う。彼女は先ほど以上、今日一番の不機嫌面を俺に向ける。口はまだ、もぐもぐと動いたままだ。

「私、しっぽから食べる派、なんだけど」

 ようやく一口食べ終わった口から発せられたのは、何とも方向違いな文句だった。

「仕方ないじゃん。頭からの方が突っ込みやすいし」

「どんな理由よ?!」

「あ、じゃあ、何? たい焼き、嫌いだった?」

「……私の大好物を知ってて、よくそんなこと言えるわね」

 不満そうに言うが、視線は参考書ではない。もちろん、俺でもないが。

「っつーかさ、そんなに勉強って言うぐらいなら最初から俺と花見、行かなきゃよかったじゃん」

「だっ、だって!」

 声を上げ、しかしそんな自分の声に驚いたのか目を大きく開き、今度は顔を赤く染めて、そしてまた慌てて参考書を広げて顔を隠す。慌しい奴、と思いながら俺はそっと隣に座る。

「……だって、一緒にいたかったんだもん」

 ポツリ、と彼女の口から零れた言葉に、俺の頬の熱が一気に上がった。

「そういうの、もっと普段から出せよ」

 こっちも照れるんだよ、と続けると、また怒られそうな気がしたので、たい焼きの頭を思いきり頬張って、ごまかした。

 

 

友人と一緒にした三題話でした。

ボールペン、桜ときて「ああ、受験生」と思って書き上げました。でも四月の時点で受験勉強とか考えもしませんでした。自覚したのは多分夏休み前後ぐらい……遅い(笑)

短編ではどうしてもツンツン女子とヘタレ気味男子の組み合わせになってしまいます。一番話が進めやすいのですが、ワンパターンになってしまいますね……。新たな境地を開拓できるようにしていきたいと思います!

でもツンツン女子って可愛いですよね……最後にちょろっとデレがある感じがたまらなく好きです。今回はそれが書けたので満足満足。

 

 

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