「アーディス?何処に行くんだ?PoP?」

アーディスは何も答えることなく無言で進む。

どうしたんだ・・・?明らかに様子がおかしい・・・。

裏路地に回って、アーディスはビッとある物を指差した。

よく祭である出店が何店も開かれている路地。その中でアーディスの指の先にあったのは、『クレープ』。

 

「買え」

 

アーディスは言った。命令口調で。

啓也は小さく溜め息をついて、財布を覗いた。

 

 

 〜   〜   〜   〜   〜

 

 

「・・・しまったな」

貢は競技場の自販機やベンチ云々がある広間にいた。

 

「ここの事はよく判らないから二人の後についていたのだが」

拳を軽く顎に当てて考える。

彼らについて行けば、どぎぐさに紛れて雅に会えると思ったりしたのだが。どうする?

すると後ろからヒール高の靴と思われるものが床を踏みしめる音が聞こえた。振り向く。

 

「・・・・雅」

雅は声をかけられると、ふわりと柔らかく笑った。そして、小走りに寄って来て、貢にギュッと抱きついた。

「ずっと・・・こうしたかった」

雅の口調はいつもじゃありえないほど、甘ったるかった。熱の有る瞳を貢に向ける。

「雅・・・・じゃないな、お前は誰だ」

その瞬間に雅の顔は険しくなった。貢は膝で腹部を蹴ろうと構え、放ったが雅の体は猿のようにひょいっと避ける。

 

「へェ・・・すぐに気付いたね」

「行動が軽率すぎる」

『奴』はははっと頭を抱えて笑った。雅の顔で。

「そーかそーか。もうちょっとお堅いタイプだったわけ。見た目こんなんだから、凄ェ軽い子なのかと思った。」

「侮辱するのか?」

「あははっ、そんな怖い顔しないでよ〜謝るからさ♪」

貢は少し間を置いて、

「お前は何者だ?何故雅の姿をしている」

「何者?姿をしている?ふふっ、いいねー・・・・。この雅って子の体は私のもんだ。本物の彼女の体と判ったら殴れないだろ?蹴れないだろ?攻撃できないだろ?そうだよなぁ、お前ら人間は甘っちょろ・・・・うわっ!」

容赦なく蹴りを飛ばす貢。

それを間抜けともいえる表情でかわす『奴』。

「あっ、あぶ、あぶ、危ないな!?お前の恋人の体は私の物だって・・・・きゃぁ?!」

貢は雅の体がどうとか全く係わらず、無表情に鋭く拳を突き出した。

「おまっ・・・普通自分の彼女を本気で殴るかぁ!?」

「ん?彼女とは誰の事だ。俺に恋人など居ない。で、どうやったらお前は雅の体から出て行くんだ?」

そう言いながら、貢は更に攻撃を続ける。

 

「信っじらんねェ!」

『奴』は相手が悪いと判断したのか、軽い身のこなしで逃げ出した。

「逃がすか」

貢は小さく呟き、『奴』を追いかける!

しかし、『奴』はブーツで地上を走って勝負するのは負け確実。木の枝を使い、・・・そう、あえて言うなら小学校によくある懸垂のように進んでいく。

距離が中々縮まらない。

そして、裏路地に来た所で先ほどまで探していた二人を見つける。

 

「・・・・!銀色・・・・!」

『奴』は木からするりと下りた。

「・・・PoP・・・その女に憑いたのか」

「えっ・・・天津さ・・・て、三戸さんも・・・ッ」

『奴』は辺りを見渡し、

「ちっ・・・ここじゃやりにくい」

と言葉を吐いて、再度逃げ出した。

「三戸さん、これ・・・」

いきなり降って来た状況に啓也は少しついていけなくて、戸惑いを見せる。

「雅が何かに憑かれた。君らが係わっている『ぽっぷ』とかいうヤツだろう」

「行くぞ、啓也!」

 

 

 〜   〜   〜   〜   〜

 

 

『奴』が止まったのは人気の全くというほどに無い、質素な場所だった。が、ここは行き止まりと言っていい。

「昨日のPoPだな?」

「ああ、そーさ」

肯定。

アーディスは俺に向かって手を出した、俺が彼女のその手と重ねようとした、その時。

「おおっと、力なんて使わせやしない」

『奴』は改めて忍ばせておいたと思われるバタフライナイフを雅の服のポケットから出し、首に突きつけた。

貢の表情が一瞬強張る。

 

「へェ・・・攻撃する事は容赦無かったのに。この子を殺すとなるとそんな顔するんだ」

「・・・貴様・・・」

卑怯なPoPの手口にアーディスは『怒』の意を見せる。

「近付くんじゃねェ、銀色!眼鏡も眼帯もだ!不審な行動でもとれば・・・・判るよな?この雅っつー女の命はねェ!」

「そんっ、な・・・!」

「はははははっ、やぁっぱ甘い!知人が死ぬのは見たくないもんなッ!この大会が始まって、お前らの様子ずーっと見てたよ!そしてすぐに決めた。憑くならこの女ってな!」

・・・そうか。

天津さんは俺らといた所為で巻き込まれたのか・・・。

啓也は下を俯いた。

PoPに関して無知である事もあり、流石の貢も手が出せなかった。

アーディスは怒りの情を顔に浮かべたまま、憑かれている人の名を呼ぶ。

 

「天津雅」

 

『奴』が顔を顰め、ナイフで小さく首筋を傷つける。赤い液体がぷつりと浮かぶ。

「お前はこの程度の人間か」

「何を言・・・・うっ!」

雅の姿をした『奴』は頭を痛そうに押さえ、呻いた。

「お前は私に喧嘩をふっかけてきただろう。何だ、今のザマは」

啓也は悟った。アーディスはPoPに抑制されている『天津雅』に話しかけている。

「・・・・くぅっ・・・いっ、ぁ・・・・、」

雅の顔は苦痛に歪み、膝をつく。

「私をボコるんだろう?ボコってみるがいい」

雅の手からバタフライナイフが落ちた。

『奴』は・・・いや『半分のPoPと半分の雅』は頭を強く押さえて、苦しそうに喘ぐ。額には苦汁が滲み出ていた。

 

「だから・・・・戻って来い天津雅!」

 

黒い影が雅の体から離れていく。そして、雅の体は力を失い、ガクリと崩れる。アーディスは再び啓也に手を差し伸べ、啓也は何も言わずにその手に触れた。

その瞬間、銀色の光が輝いた・・・・。

 

 

 〜   〜   〜   〜   〜

 

 

PoPが送られた後、最初に動いたのは貢だった。

「雅!」

ぐったりとしている雅に駆け寄る。瞳を開けた雅は一番最初に視界に入った貢を嫌そうに見た。

「・・・あーもう、こっち寄んなテメー。心配してるよーで気持ち悪ィ」

攻撃を加えようとしたのはともかく、実質、貢は心配していた。

しかし、その気持ちを『気持ち悪い』と言われて凹む三戸貢ではない。無表情にさらりと受け流す。

雅は起き上がろうとして、異変に気付いた。

 

「・・・・・・・・力が入らねェ」

さぁ・・・と雅の顔から血の気が引いていく。

力が入らん=動けない=このまま?

どーする?つーか自分が情けねェ・・・。出てって、手は出なかったが闘って(?)、体乗っ取られて、これ?

情けないにも程が有る。

そんな雅を啓也は心配そうに見ていた。

「・・・笑うなよ」

「え?笑いませんよ!?」

貢は小さく溜め息をついて、

「仕様が無い」

そう言ったと同時に自分の体が浮いた。

自分が何をされているのかを悟り、かぁぁと頬が真っ赤に染まっていく。そう、女の子なら誰でも夢見る・・・『お姫様抱っこ』というヤツ。

「なっ、バッ!!降ろせ!!今すぐ降ろせぇー!!死ぬぞ?自殺してやっ・・・へぶっ」

貢は言われた通り・・・違うか。落とした。

「痛ぇな!!このヤロッ・・・」

「お前が望んだ事だ。死なれても困る」

「〜〜〜〜!!だからってもう少し優しく丁寧にだな・・・!」

 

そして結局はおんぶになった。

「・・・・・屈辱だ・・・・もう嫌だ・・・・・」

貢の背中には顔を見事に赤面にして、若干涙目になっている雅がいた。

「・・・天津さん」

雅はキッと元の表情戻し、話しかけた啓也の方を見る。啓也は決心し、雅に向かってバッと頭を下げた。

「ごめんなさい!」

「・・・・はぁ?」

突然の謝罪の言葉に雅が素っ頓狂な声を上げる。アーディスと貢は今から起こるであろうやり取りに耳を傾ける。

「・・・ごめんなさい。俺の所為で巻き込んでしまって・・・・。俺の所為です!だから・・・ごめんなさい!」

雅は眉間に皺を寄せて、力が入らない手を縦にして、ドスンと啓也の頭を叩いた。啓也ふと上を向いた。雅は怪訝そうな顔をして、

「バカかお前?お前の所為だと?自意識過剰もいい加減にしろ」

「へ・・・?だって・・・」

「あーあーあー!聞きたくないね、んなの!・・・ただ、今回のは私が不注意に行動したのが悪かったんだ。気にすんじゃねェ」

啓也は投げやりな彼女の言葉にある優しさを感じた。

「・・・そうだ。銀髪、そこにいんだろ?」

雅の言葉にアーディスが反応する。そして、雅は聞こえるように、でも最低限度の音量で言った。

 

「ありがとな」

 

アーディスはその言葉を聞き、小さくふっと笑う。

遠ざかっていく彼らは、「つーかこの状態のまま街歩くわけ?」「しょうがないだろう」「はぁぁああ!?嫌だ!絶対に!!」「だったら此処に放置のままがいいか?面倒は見ないぞ」などと他愛無い会話をしていて。

そこで啓也はある事に気付いた。

「・・・あ、大会」

そう言った次に競技場から大会終了のアナウンスが流れたのだった。

 

 

〜その頃の彼ら〜

 

祐希、晴時、勇の三人は今競技場で熱戦を繰り広げているリレーを見ていた。

「うぉおお!!!抜け抜け!長月中ファイトー!!」

「後もう少しだっ!!後もう少しで優勝優勝!!」

少し疲れてきた長月中生徒に二位の他校生徒が詰め寄ってくる。

「ああああああああっ!!!!!」

テープが切られ、た。

こっちの方向から見れば、それは同着で。

その後にどんどんと他に出場していた選手たちがゴールインしていく。

「どーなったんだ、あれ・・・?」

祐希が落ち着かない様子で言う。

「まぁ、結果を待とう」

晴時はやはり落ち着いて、結果を待っている。

 

『優勝ー長月中学校』

 

「「「いやったぁぁあああああああ!!!!!!」」」

 

長月中学校の生徒ら全員が騒いで、その優勝を歓喜する。

「てかさ、勇は何で出なかったんだよ?お前なら出れる・・・だろ?絶対に」

「さぁーね、何でだろうねー」

晴時の質問の答えを勇はぼかした。

そして、ちょっと落ち着いた所で祐希が根本的なことを言った。

「雅さんとか広塚遅くね?それに三戸さんも消えてるし」

 

「「あ」」

 

わ す れ て た ん か い

 

END

 

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