PoP×契約者4
『市内中学校体育大会、開催!』
今年も市内中学校体育大会が開催される事が決定した。
中学生となれば部活も始まり、個人個人の実力が伸びに伸びる時期。
リレー、ハードル走、走り幅跳び、走り高跳び・・・等等、多々ある項目を記録を競って優勝を掴みとる。それがこの大会、『市内中学校体育大会』だ。
毎年白熱するこの大会、今年も多いに盛り上がることだろう。
どんなドラマを見せてくれるのか・・・一市民として非常に楽しみである。
(町内新聞より 一部省略あり)
―声は心も呼び覚ます―
大会開幕を告げる大きな音が今日午前9時、この町に響き渡る・・・。
盛り上がる中、広塚啓也はさも眠た気に大きな欠伸をした。そんな啓也に友人、水市晴時は問いかける。
「どうしたんだよ?徹夜でもした?」
「んー・・・当たり。原因はPoP関係」
晴時はすぐに納得し、グラウンドの方へと向き直った。
全く、運が悪いのか・・・。
この日の前日に・・・いや、正しく言えば当日だ。
アーディスが「PoPの気配がする」と言い出して、眠たかった俺を強引に連れ出した。
PoPは現れた、が・・・
送るよりも早く、逃げ出してしまったのだ。
しかし、気配は完全には消えてないらしく、探し回った。そいつはその後全く現れなくて、探索は午前4時に打ち切り。
家に帰って、ベッドに飛び込んだものの覚醒している意識は中々睡眠モードに入らず・・・。
やっと眠れたと思ったら、すぐに起こされて今にあたる。
送れもせずに睡眠も出来ず、この大会は全校揃って応援に行かなければならない(選手は代表者のみ)・・・。
全く踏んだり蹴ったりだ。
不幸な俺。可哀想な俺。
多忙人・啓也は小さく溜め息をつき、目を閉じた。
その瞬間に睡魔に引き寄せられる。
啓也はそれに身を委ね・・・・・・・・
ザワッ
周りが小さくざわつき始める。
・・・?競技がもう始まったのか?いや、まだだろう。今、開会式が終わって、始まるのはそれから20分後だ。
「広塚!広塚!」
中田祐希が俺の肩を揺さぶって、言う。
「・・・何だよ・・・中・・・」
啓也は一瞬目を疑った。
空き席を探しているのかキョロキョロと辺りを見渡す女が一人。その女についている男が一人。女の方はさらりとした金髪をしていた。その髪を後ろに結い、鋭い瞳は冷たい印象を与えてしまっている。服装はと言えば、レースの入ったキャミソールの上にフードが付いた中袖の上着を着用。そして、デニムの短パンを穿いていて、整ったスタイルが際立つ。後ろの男と言えば、黒髪で眼帯。物静かな顔立ちで中々美形とも言えるだろう。着ている服はTシャツの上に灰色の上着、ズボンにせよ上着にせよ、極一般的でラフなものだ。
目立つ風貌と今まで何かと縁があった事もあり、啓也はこの二人をよく知っていた。
「席空いてねェな・・・くそ」
女―天津雅が前髪をかき上げて言う。
「自業自得だろう・・・私服と制服じゃ変とか言って、俺に私服を押し付けて・・・・」
男―三戸貢は無表情でシャツを親指と人差し指で摘んだ。
「うっせェ!!私はそーゆーバランスは整わせなきゃ気が済まねェタイプなんだよ!」
雅は鋭い刃物のように言い放ち、貢に怒りをぶつける。
そこで俺の後ろの席くらいから声がした。
「天津先ぱーい、三戸先ぱーい、ここ空いてますよー」
その声の主は言うまでもない。『長月の鬼』と呼ばれる、ここらじゃ最強の不良―小野勇だった。
雅は勇に気付き、そのついでに啓也たちにも気付いた。
「って、お前ら・・・・ここら辺の席だったのか」
「はぁ・・・」
祐希が頭を少し低くして答える。
「へェ、広塚たち先輩と顔見知りだったのか」
勇は少し驚いた素振りを見せて言う。もはや啓也には眠気の一つも残っておらず、雅に少し疑問に思ったことを尋ねた。
「天津さんは何故競技場に・・・?」
「何だよ、来ちゃ悪ィか」
そういうつもりで言った訳では無いのだが、天津さんはそう読んでしまったようだ。キツく睨みつけられる。
そんな気まずい空気の中で貢は腕を組んで、こう言った。
「雅は落ち着くことを知らないからな。こういう所にでも行かないと暴れたくなるのだろう」
「・・・・・てめェ、三戸・・・・・。それどういう意味だ」
貢は小さく溜め息をつき、掌を上に向けて、
「そこまで考える能力が身についていないとは・・・・・」
「だああああああああああ!!!!!!そーゆー意味じゃねェっつーの!!私はただ観戦しに来ただけだ!」
貢のわざと?いやこれは天然なのか?とりあえずそのボケに頭を抱え、叫ぶ雅。
そして、啓也の問いにも何気なく答えている。
「雅さん、この大会に興味あったんですか・・・?」
次は晴時が尋ねる。
「・・・ん、まぁ、中学時代は三年間選手だったしさ」
「「「選手!!!???」」」
勇除く中学生グループは息をぴったりに合わせて、驚嘆の声を上げた。
この市内中学校体育大会の選手・・・なんて、言っておくが中々なれはしない。実力者を選抜し、各学校20名のみが出る事ができるのである。体育大会は陸上・・・という事になる為、陸上部員の出場が圧倒的に多いのだ。
「・・・・何でんなに驚くんだよ、意外か?」
「だって、凄いじゃないですか!!三年間・・・って事は去年もやっていたって事ですよね。どの種目に・・・・」
「走り幅跳びとリレー」
祐希の質問に答えたのは雅ではなく勇だった。
「覚えてねーの?走り幅跳びでは堂々と一位とって、リレーでは五位だったのをアンカーだった先輩は一位に押し上げたの」
「あ・・・ああああああ!!!リレーの相当速かった人かっ!」
雅はふいっと視線を逸らし、気恥ずかしそうに人差し指で頬を掻く。
何にせよ、褒められる・・とかこんな風に言われるのは悪い気持ちにはならない。それにいつも軽蔑された目で見られたりと、褒められた試しがほとんど無い雅にとって、何だかその言葉はくすぐったかった。
「雅」
貢が名前を呼んだので、雅は顔をいつもの仏頂面に戻す。
「何だよ」
「俺はお前の中学時代を知らないが・・・・」
・・・・?
「相変わらずの体力バカだったのか」
雅の顔が一瞬硬直する。
勇はいつも通りへらっと笑い、後の三人はただ心配気に見つめるばかり。雅は肩をふるふると震わせ、耐えているのは歴然だった。
「・・・三戸、もう一度言う。それはどーいう意味だ?詳しく説明しろ」
「?現在のように取り得」
雅は貢の言おうとしている事をすぐに察し、勢いよく拳を叩き込んだ。
「誰が体力しか取り得がないだ!?私は今はこんなんだけど、中学時代は優等生だったっつの!!」
「うっそだぁー」
雅の言葉にツッコんだのは勇である。啓也の方もそれは何だか信じられない気持ちが強かった。
今の天津さんと言えば、口は悪いし、怖いし、金髪だし、不良以外の何者でもない・・・・なんて事を口に出したら間違いなく殺される。
雅は慌てるように少し必死になって、
「なっ・・・・!嘘じゃねーぞ!?」
「中学の時の平均点数は?」
貢が問う。雅は軽く俯いて、
「・・・・・・満点」
・・・マジで?信じられない、ていうか見栄張ってるのかな?
この地帯の空気が一瞬冷えたように感じた。
「先輩、最近取ったテストの平均点数は?」
雅は考えた。
一度も勉強してなかったな・・・でもってテスト当日に遅れてきたりして。つーか、授業もサボってるし・・・。
そして結論に辿りついた。
「・・・覚えてねェ!!」
雅は踵を返して、その場から立ち去ろうとする。
言える訳が無い。満点の反対(=0点)なんて。
離れようとする雅の手首を掴む貢。
「何処に行くつもりだ?席なら見つか」
「うっせえええええええ!!!!!お前らの所為だろ、チクショオオオオオオ!!!!!」
足を進めようとするが貢がそれを許さない。
「あの・・・天津さん」
啓也の言葉に雅は睨むことで応える。
「周りの人たちも注目してますし・・・・座りませんか?」
雅は我に返り、人々の目が自分に向いていることに気付いた。そして、バッと貢の手を振り払って、ズンズンと空いている席へと進む。
その時だった。
全身にピリッとした感覚が走る。
何処からかする、自分に向けられる視線。重く、冷たい視線。
雅は勢いよく振り向く。そこには貢がいたが、この視線はこいつの物じゃない。そんな雅の落ち着き無い行動を見て、貢は言った。
「どうした?雅」
雅は主を探すのを断念し、
「・・・・何でもねーよ」
と答えた。
〜 〜 〜 〜 〜
「・・・・・・」
アーディスは競技場に睨みをきかせた。
PoPはここにいる。
しかし、はっきりとしない。
理由は以前にもあって、何者かの中に居て同調したからだろう。
・・・ここは人が多すぎる。気配も薄いため、誰が憑かれているのかがよく判らない。
アーディスはグラウンドでやっているハードル走の風景を見やった。小さく息をつき、ふわりと競技場の裏手に回って・・・・気付いた。
見つけてしまったのだ、あるモノを。
〜 〜 〜 〜 〜
雅の苛々は最高潮に達していた。
競技を楽しんで見たいのに、それは何者かの視線に邪魔されていた。
何つーか・・・・・うぜェェエエエエエッ!!!!
こんなに私を見てくるのだ、私が動けばついてくる筈、か。
雅は静かに席を立った。
「何処に行くんだ?」
問いかける貢に雅は「どーでもいいだろ」と答えた。雅は目をちらりと後ろに向ける。予想通り、男性が一人立ち上がった。
・・・・あいつか。
先走る気持ちを抑え、雅は階段を下る。やはり、後ろの方から足音が聞こえる。
確実に、つけられている。そこで雅は少しだけ足を速める。かと言って、ヒールのあるブーツだからそこまでは速くならなかったのだが。
それにしても・・・こいつは隠れるという事を知らないのか?
道を曲がり、競技場の外に出た。
そして、裏にある自販機で雅はちゃりんと小銭を入れ、コーラのボタンを押す。男の手が、ゆっくりと雅に伸ばされ・・・・・・
ひゅっ
雅の蹴りが宙を駆った。雅はその男に鋭い眼差しを向けた。
「さっきからジロジロジロジロと。何様のつもりだよ、てめェ」
男は口元を歪めて笑った。
「何が可笑しい」
―君の体、使わせてもらうよ
その声は男の口から出たものではなく、ポーンと私の頭の中に響いた。
何だ、これ・・・・?
雅に黒い影が忍び寄ったのはその時だった・・・・・。
〜 〜 〜 〜 〜
雅が何処かに行ってから早一時間経過した。
何処に行ってるのだろう・・・?流石に遅いな、と思った啓也は辺りをキョロキョロと見回した。友人にでも会って、話にふけているのだろうか?面倒なことに巻き込まれてなければいいのだが。
ちなみに競技はほとんどが終わり、学校対抗リレーを残す二つとなっている。
観客が騒ぐ中、後ろから聞き覚えがある感情の篭っていない声が聞こえた。
「啓也」
「・・・・!アーディス・・・」
アーディスはついて来いと背中で示し、さっさと進み始める。
啓也とアーディスが何処かへ行く姿を見て、貢は静かに席を立った。