マグウェルの宝 願いの向こう側

 

 

「このガキ!!」

 女の叫び声と、床に何かがぶつかる大きな音が響いた。

 女は荒く呼吸をしながら、床にうつぶせに倒れている少年の姿を見た。見た、というにはあまりにも憎しみを含みすぎた視線であった。

「うっ、うう……」

 少年は顔を上げる。その顔を見た女は、はっと目を開き、少年の顔を蹴った。抵抗が出来ない少年は、女が蹴った勢いのまま、ごろごろと床を転がり、壁に背中を強くぶつけた。少年は身体を小さく縮めて大きく咳き込んだ。

「その目で、私を見るな……! あの男と同じ、その目で……!」

「お、おか……」

「五月蝿い!!」

 少年の言葉を拒むように、女は叫ぶ。少年は女の方を見ようとしたが、その叫びを聞いてためらった。見たら、また、痛い思いをする。見たら、また、あの人を傷つけてしまう。

「……ごめんなさい」

 少年が言うと、肩で荒く呼吸していた女の動きが止まった。呆然とした表情の彼女は、少年を見つめたまま。しかし、その表情には先ほどの憎しみは一切含まれていなかった。

「……私」

 どさ、と音を立てて女は床に膝をつけた。それから顔を両手で覆って肩を震わせる。言葉にならないような声が、両手の隙間から零れて、少年の耳に届いた。彼女は、泣いている。

「ごめん、なさい」

 ごめんなさい、ごめんなさい、と少年はかすれた声で謝り続ける。それに比例するように女の涙の量が増す。ぽろぽろと、涙が床にしみを作る。

「私、もう、無理なの」

 彼女のその言葉は、少年にとって唯一の大切なものを失う一言だった。

「あなたの、その目が、怖いの……」

 少年は、ゆっくりと身体を起こして、顔をあげた。泣き続けている、母の姿がそこにあった。

「どうして、どうしてあんたは、あの男と同じ瞳なの?! そんなに、私を追い詰めたいの……」

「おかあ、さん」

 少年は、母の名を呼ぶ。彼女は、ゆっくりと顔をあげて少年を見た。

「……その、闇色の瞳が!! 私を追い詰めるのよ!!」

 再び、女の叫びは憎しみに染まる。少年は、身体の奥底から恐怖が湧きあがるのを感じていた。身体の震えを、止めることができない。また、少年は女に腕を捕まれ、――――……

 それが、彼の中にあった『家族』の記憶だった。

 

 

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