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 フリジアの口から出た言葉を聞き、三人は目を丸くしていた。

「ごう、かく?」

「と、言いたいところだが、その前に今回の作戦について説明してもらおうか」

 フリジアはちらりと起き上って頭を押さえているデュオに目を向けたあと、再び三人を見て尋ねた。

「……作戦って……、その」

「作戦は、ルースが立案しました」

 困惑するルースとミリーネを横目に、フリジアに向かってリュウがきっぱりと答えた。それを聞いて、ミリーネも一つ頷いてフリジアを見てリュウの言葉を続けた。

「まず、ルースが煙幕を張って、視界を遮ります。その中で、リュウと思わせる影を作ってデュオ……班長が狙うようにしました」

「けど、あれ……ただの煙幕じゃねえだろ……」

 ミリーネの言葉の横から入ってきたのは、うなされるようなデュオの声だった。まだ頭を打った衝撃が残っているのか、表情は険しい。

「まだ身体が変だ。……なんか仕込んだだろ、ルース」

「ええっと……はい」

 デュオの険しい表情に圧倒されたルースが苦笑いを浮かべて頷いた。それを見ていたフリジアは溜息を吐き、何処からともなく自身の銃型のロッドを取り出し、デュオに向けた。

「ふ、フリジア先生?!」

「魔術展開」

 驚くルースとミリーネの声を無視して、フリジアは白い光の弾丸をデュオに向かって放った。額の中心に弾丸を撃ち込まれたデュオは「おわぁ?!」と間抜けな声を上げて倒れ込んだ。困惑する女子二人に対し、リュウは呆れのような表情でその状況を見ていた。

「安心しろ、治癒魔術だ。それでお前の麻痺魔術も解除されるだろう」

「……物騒なやり方」

 ぼそりと呟いたリュウを、フリジアの金色に輝く目は逃さなかった。呆れ顔だったリュウも、その視線を受けてびくりと肩を震わせて表情をひきつらせた。

 ルースが視界を遮るために張った煙幕の中には、相手の探索魔術を妨害させる魔術ではなく、そもそも相手の感覚を鈍らせる麻痺魔術が施されていた。

「……なるほど、麻痺魔術か。そんな魔術まで覚えてきたか」

 満足げなフリジアの言葉に、ルースは驚きながらも嬉しげな笑みを浮かべた。

「それと、ミリーネ」

「は、はい!」

「あの短期間で緑のストーン魔術をよく使いこなせたな」

「えっと……私、自分で動くことばっかり考えてたんです。でも、ルースにこの作戦提案されて、緑の、このストーン魔術って他の人のサポートの為にもあるって、解ったんです」

 ミリーネはフリジアをまっすぐ見つめて言う。その指には、フリジアから与えられた緑のストーンがはめられた指輪が輝いていた。

「今回は、リュウの動きを加速させてデュオ班長の背後に回ってもらった後、自分に同じ魔術をかけて正面から攻撃しました。連携……っていうには、多分まだ、不足はあると思うんですけど……」

「そうだな、確かに連携と言うにはまだまだいびつだった。だが、加速魔術……実際、他者に用いるとなると相手の魔力波動と自分が与える魔力波動を同調させなければならないものを、使い、その上で自分に使うのはかなりの集中力が必要だっただろう」

 だからこそ、ルースが煙幕を張って時間稼ぎをした。その上でデュオの感覚を鈍らせ、加速魔術をより効果的に使うことができた。それが、あの数分でルースが提案した作戦だった。

 ふっと笑みを浮かべ、フリジアは視線をリュウに向けた。

「お前から、何か言う事はあるか?」

「……俺は」

 うつむいたリュウから、小さな声が零れる。

「俺は、ひとりで戦えばよかった、って、思ってました」

 リュウの言葉に、ルースとミリーネが同時にリュウを見た。

「自分で全部やれば、すぐに片付く。他の人間を巻き込むこともしなくて済む。でも、それだと、できないこともありました」

 リュウは顔を上げる。その黒い瞳を、フリジアはまっすぐに見つめた。

「俺は、このチームでやっていきたいです」

「……リュウ」

 両隣にいるルースとミリーネが同時にリュウの名を呼んだ。リュウはゆっくりとミリーネの方を見て、深々と礼をした。

「え?!」

「……勝手なこと、ばっかりしてた。ごめん」

「そんな……私こそ、……あんたに、ひどいこと言ったり、つらく当たったりしてた……ルースにも」

「ええっ?!」

 話を振られたルースは、驚きの声を上げた。そして両手と首とをぶんぶんと振って否定する。

「そんなことないです! 私も、……先ほどはすみませんでした」

 先ほど、と言われてミリーネはそっと自分の額に手を当てた。にやり、と笑ってミリーネはルースに言う。

「まだ若干痛いんですけど」

「す、すみませんでした! でも、そこまでに至ったのはお二人のせいでしょう?」

 今度はルースが意地悪く二人に言う。苦い表情を浮かべるリュウを見て、ルースとミリーネが同時に笑い声を上げた。それにつられて、リュウも笑う。

「……言っておくが、まだ実習中だぞ」

 ごほん、と咳ばらいをしたフリジアの声に、三人の背筋がぴんと伸びた。

「だが、本日の実習はここまでとする。よく頑張ったな」

「ありがとうございました」

 穏やかに微笑むフリジアに礼をした直後、三人の身体は突然ぐらりとふらついた。

「あ……れ」

 ばたん、と三人は同時に床に倒れ込む。その光景を遠くから見ていたデュオが驚きの表情を浮かべる。

「ちょ?! 大丈夫か?!」

「大丈夫な訳がないだろう。あれだけ集中して、今まで使ったこともないような魔術を使ったのだからな」

 慌てて駆け寄るデュオに、フリジアは当然のように言い放った。それからしゃがみこんで、三人の顔を見る。疲れ果てた三人は規則正しい寝息をついて眠っていた。

「……寝てるだけかよ……」

「デュオ、回復は十分だな。こいつらを医務室に運ぶぞ」

「……了解です、フリジアさん」

 デュオとフリジアは転送魔術を発動させる。白い光があたりを包んだ後、訓練室には静寂だけが残った。

 

「そういや、リュウ先生の学生時代ってどんな感じだったんですかー?」

 そんなことを聞かれ、リュウはぱちぱちと瞬きをした。質問をしてきたサイルを見てみれば、興味津々と言うような笑顔をにこにこと浮かべている。その隣にいるロードは至って真剣な顔でリュウを見つめていた。

「なんだ、お前ら。そんなこと興味あるのか?」

「あります! すごく、気になります!」

 期待の輝かしい眼差しを向けるロードに若干圧倒されながら、リュウは「そうなのか……?」と首をかしげる。

「でも、訓練所でも過去最高の成績を修めている人の実習の話は、すごく興味があります」

 と、二人とは違った冷静な口調で言ったのはエコだった。眼鏡のブリッジを押して位置を調整し、リュウの顔を見る。学生三人からそれぞれ期待や興味の眼差しを向けられているリュウは苦笑いを浮かべて隣に座る自分のバディに助けを求める。

「ビィ、なんかいい感じに説明してやってくれ」

「マスター。私はマスターの過去の功績まで把握できていません。マスターに関する情報を充実させるためにも、その話を伺わせてください」

 無感情な赤い瞳がリュウを見上げる。どうしたものか、とリュウは困ったように空を見上げるしかできなかった。

 

 

File00:学園のクレイジー・ブラック......END

 

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