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 それから数日後。

「本当に君には感謝しているよ、リュウくん。協力、ありがとう」

「……やっと解放される」

 場所は第三隊の司令室。ソファに座るリーチェは穏やかな笑みを浮かべているのだが、その向かい側に座るリュウはうな垂れながら、かすれた声を上げていた。

 事件解決後、問題の魔法使いを管理局に連行した後、リュウはリーチェからある一言を言われた。

「それじゃあ、報告書、よろしく」

「……はい?」

 冷静に考えれば当たり前のことなのだが、今回の事件で既に報告書や書類を見せられていたリュウにとって、その一言は地獄に叩きつけられるようなものだった。おまけに、いつの間にかリュウの隣にいたキラベスが、リーチェに聞かれないようにリュウの耳元で、

「リーチェさん、書類の鬼ですからね。一回二回出したくらいじゃ、報告書、パスできませんよ」

 とアドバイスしてきた。地獄に叩きつけられた上、針と熱湯と石を同時に当てられたような、そんな感覚すらリュウにあった。

 そして、キラベスの言葉どおり、報告書は合計四回提出することとなった。こんなに書類の修正をするのは学生時代か新米時代以来だ、と嫌な感覚を思い出していた。

 回想に浸っていたリュウは、はっと顔をあげた。リーチェは書類に目を通し終えたようで、満足そうに頷いていた。

「これで、あの爆破事件の一件はチャラにしてあげよう」

「……あの事件、俺が何とかしとけばよかった」

「ところでリュウくん。君、あの緑の仮面の男を見ただろ?」

 緑の仮面の男、といわれてリュウはあの青年のことを思い出した。リュウの様子を見て、リーチェは言葉を続ける。

「あの男、アンダーナイフの幹部だ」

「……は?」

 唐突な発言に、リュウは目を呆然と開いてそんな声を上げた。

「幹部、って……あいつ、俺よりも……若いヤツでしたよ」

「アンダーナイフは年齢なんて関係ない。何が基準か定かじゃないけど、あの男の実力はかなり厄介なものだろう」

 リーチェは大きく息を吐き出し、低い声で言った。リュウも、実際に青年の動きを見ているため、リーチェの意見には同意できた。あの青年よりも上に立つ人間がいる、というのはアンダーナイフの力の大きさが想像以上であることを改めて感じさせた。

「まあ、今回の件はこれで終わりだ。協力、感謝するよ」

 そう言って、リーチェはソファから立ち上がった。それに合わせ、リュウとビィも立ち上がる。

「送りますよ、リーチェさん」

「おお? 気が利くねえ」

 リーチェはにやりと笑うと、「それじゃあ、エースを借りていきますよ」とデスクにつくデュオに言った。デュオは目を細めて微笑み、ひらひらと部屋を出る三人に手を振った。

 三人は、管理局内の廊下をのんびりと歩いていた。久しぶりにこんなゆっくりと歩くな、と思いながらリーチェは管理局内を眺める。

「そんなに珍しいですか?」

 と、隣を歩くリュウに声をかけられ、リーチェは小さく頷いた。こんなところで間抜けな顔を見せるとは、少しだけ恥ずかしく思うリーチェだった。

「あっ、リュウ先生!」

 そんな時、誰かがリュウを呼んだ。その声に気付いた二人は足を止めて、声のした後ろを見た。リュウに向かってかけてくる、赤髪の少年がいた。

「おお、ロード。どうした?」

「今週の実習についてですが……」

「ロード」

 赤髪の少年、ロードの名を呼んだのはリュウだけでなかった。リュウの隣にいたリーチェも、目を大きく開いてロードを見ている。声に反応したロードがリーチェを見ると「あっ」と声を上げた。

「叔母さん」

「お姉さん、って言えって何度言えばわかるんだよお前は!」

 ロードが反射的に出した言葉がリーチェの怒りの線に触れたらしい。リーチェはその言葉を聞くなり、ロードの頭の天辺に拳を入れていた。

「いぃっ……!」

「り、リーチェさん……。ロード、とは、どういう関係で?」

 拳を受けたロードがその場にうずくまっている間に、リュウはリーチェに尋ねる。

「え? ああ、親戚だ」

「ああ……なるほど」

 そういえば以前、警察家系とか言ってたな……とリュウは思い出しながら頷いた。そして、何処と無くリーチェとロードの雰囲気が似ているような、気がした。

「ったく、まだ私若いんだからオバサン呼ばわりはないだろーが」

「いや、そう言う意味じゃないと思いますが……」

 ロードをフォローするが、どうやらリーチェには届いていないらしい。まだ眉間に皺を寄せて険しい顔をしているリーチェはうずくまっているロードの額を、人差し指で弾いた。

「おら、ロード。お前、元気に魔術士やってんのか?」

「まだ正式な魔術士じゃねーし……っつーかいっつも殴るのやめろよ!!」

 がばっ、と顔をあげてロードが叫ぶ。額はリーチェにデコピンを入れられたおかげで赤くなっている。

「五月蝿い。お前はいつから私に生意気言えるようになったんだよ」

 そう言うと、リーチェは再びロードの額を指で弾く。ばしんっ、という痛々しい音がロードの額から鳴る。ロードは「うあぁぁ?!」と泣きそうな声をあげ、再び顔を俯かせた。

 リーチェとロードの様子を見て、リュウの脳裏にある人物の姿が思い浮かんだ。

――人の部隊の設備を使うとは、いい身分になったものだな

――私が実践させるもので非効果的なものがあると思っているのか

「……やっぱり、超似てる」

「ん? 何か言ったか?」

 リュウの呟きが聞こえたのか、リーチェが顔をあげリュウを見る。リュウは慌てて強く首を振って否定した。

 

 File 05:ドール・コロシアムの罠  .....END

 

 

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