02

 翌日。

「へー、面白いもんねえ」

「お、ミリーネ。何見てるんだ?」

 ミリーネがパソコンの画面をにやにやと笑いながら見つめていると、ミリーネの横からデュオが顔をのぞかせた。

「んー、これ。学生たちのカラーコードの希望」

「ああ、実習か。そうか、もうそんな時期だったな」

「そうそう。で、やっぱり一番人気は赤なのよねえ」

 データを表示して、ミリーネは自分の担当するクラスの振り分けを見る。男子学生のほとんどが赤を希望し、その次に男女ともに白、そして青……というように分けられていた。

「もうちょっと緑いてもいいと思うんだけど。あの子たち、私が担当教官なのに、良くこんな仕打ちできるわよねえ?」

「まあまあ……」

 自分と同じカラーコードの学生が少ないことに機嫌を悪くしているミリーネに対し、デュオは優しく頭を撫でた。それから画面をスクロールさせると、たった一人しか希望していない色を見つけた。

「へえ、黒が一人? これ、リュウが聞いたら泣くだろうな」

「ああ、この子。意外ね、この子が黒希望するなんて」

 からかうように言うデュオの言葉を全く気にせず、ミリーネはその色を希望した学生の詳細を画面に映した。

「ロード・ダンデリオン。今期の学生ではなかなか優秀なほうよ。でも、黒、ねえ……」

「何ていうか、見た目からして赤っぽいな。単純そうだし」

「さすがデュオ。その通りなのよ」

 冗談半分で言った言葉を真顔で返されてしまったデュオはがくり、と肩を落とした。マジかよ……と小さく呟きながら、その学生の詳細をミリーネと一緒に見る。

「まあ、実習で適正はわかるだろうな。俺も学生の頃は赤希望だったもんなあ」

「嘘? デュオが赤って、全然ガラじゃないんだけど」

「失礼な。俺だって、彼のように若い時期があったのさ」

 ふふん、と笑いながらデュオが言うと、ミリーネはどうでもよさそうに「へー」と返していた。そして、画面を見つめながら学生たちとどのように調整するか、を考えていたのだった。

 

 数時間後の談話室。

「……は? 俺が特別講師?」

 ミリーネから話を聞いたリュウは、書類から顔をあげて、ミリーネに聞き返した。言った本人はこくりと頷き、それからにこりと微笑んだ。

「やってくれるわよね、リュウ」

「パス。お前も知ってるだろ、俺が人に物事教えるの下手だって」

「いいじゃない。それに、メインはあんたじゃなくて、ビィだから」

 名前を呼ばれたビィは数回瞬きをして、ミリーネを見つめる。

「私ですか」

「そ。授業で今度、ドールがどんなものか説明するときに、実際に見てもらおうと思って」

「お前なあ……人のバディを何だと思ってる?」

[安心しろ、リュウ。こいつ、自分のバディも教材程度にしか思ってないから]

 そのとき、どこからともなく黄色いカナリヤが飛んできて、ミリーネの肩にとまった。そのカナリヤこそ、ミリーネのバディ、フルートである。声色から、呆れと疲れが入り混じった感情が伝わってくる。

「まさか、フルートも何かに使ったのか?」

「教材なんて失礼ね。ちょっと教室の中をぐるぐる飛んでもらっただけじゃない」

[ぐるぐるって……。学生たちに『好きに見ちゃっていいわよー』とか言ってくれたおかげで、羽根が何枚千切れたことか……]

「うわあ……」

 悲痛なフルートの言葉に、リュウは引きつった表情でミリーネを見た。

「ビィは貸さんぞ。そんな雑に扱われるのは困るからな」

「失敬な! フルートもいちいち大げさに言いすぎなのよ!」

[オレは事実を言っただけだ]

「もー!!」

 そんな二人と一匹のやりとりを、首を傾げて見つめていたビィだったが、しばらく思考した後リュウのほうを向いて口を開いた。

「マスター、私は構いません」

「は? 何がだ」

「魔術指導訓練所の教材になることです」

 ビィの言葉にリュウだけでなく、ミリーネもぶっ、と吹きだした。咳き込むリュウに対し、ミリーネはフルートを鷲掴みにして怒鳴り声を上げる。

「どうしてくれんのよ、フルート!! ビィに変な誤解されちゃったじゃないの!!」

[知るか! っつーか、し、死ぬ!!]

「うっさいわね、このおしゃべり鳥! あんたなんか焼き鳥にしてやるわよ?!」

[ぎゃあああ! りゅ、リュウ! この女を止めてくれー!!]

 ぎゃあぎゃあと騒がしいリュウたちを周囲の人々は不思議そうな目で見つめている。そしてその当事者の中にいるビィもまた、不思議そうにぱちぱちと瞬きをして見つめているのだった。

 

 それから数日後。訓練所では話題になっていることがあった。

「は? 『ストレンジ・ブラック』って、何だよ」

 同級生からその話をされたロードは、眉間に皺を寄せて不機嫌そうな声を上げる。

「お前のことだよ、ロード」

「意味がわからねーし。『ストレンジ・ブラック』って、何で俺が」

「決まってるだろ? クラス唯一の黒希望だし、お前みたいなヤツがって思ってんだよ」

「はあ?」

 ロードの中でぶちん、と何かが切れたような気がした。

「何だよ、黒を希望して何が悪いんだよ! 俺が何のカラーコード希望しようとも、俺の勝手だろうが!!」

「おー、怖い怖い。『ストレンジ・ブラック』がキレたぞー」

「んだとコラ!!」

「やんのか、あぁ?!」

 教室の真ん中で、ロードと男子学生が向かい合って叫ぶ。他のクラスメイトたちは呆れたように彼らを見ていた。

 

 

 

 

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