Magician of Black―魔導管理局の黒き死神― × TESTAMENT

―巡り会う魔術師と魔導士―

 

「こちら、第三隊、リュウ・フジカズ。対象の討伐完了、魔鉱石を確保した」

[了解。お疲れ様、リュウ。じゃ、あとはこっちに戻ってきて報告よろしく]

「了解」

 通信を終えたリュウは、ふう、と一息ついて地面に落ちている魔鉱石を拾い上げる。石の内部に燃え上がる炎を閉じ込めたかのような赤い魔鉱石は、リュウの握りこぶしよりも少しだけ大きなものだった。久しぶりに大型の魔獣だったな、と先ほどまで対峙していた魔獣のことを思い出しながら魔鉱石を見つめていると、ビィがリュウの隣に立った。

「マスター、何か問題がありましたか」

「いや、大丈夫だ。ビィ、お前は大丈夫だったか?」

「はい、問題ありません」

 ビィのはっきりした答えに、リュウは表情をようやく緩めた。

 今回の魔獣は出現率の高い狼のような姿をした魔獣だったが、大きさがいつもと違った。体長は2メートル以上で、飛び掛ってきたときにはリュウの全身を覆うのではないか、と思うような大きさだった。それ故に、攻撃を何度してもなかなか倒れることなく、討伐にも一時間以上かかってしまった。そんな相手に自分が無傷だったのは、優秀なバディのおかげだろう、とリュウは改めてビィの存在の大きさを感じた。

「そうか。無事でよかった」

 リュウはふっと微笑み、ビィの頭を撫でる。ビィは何故頭を撫でられたのか理解していないようで、自分の頭を撫でるリュウを不思議そうに見つめていた。

「さてと、さっさと戻るとするか。報告書も書かないといけないからな」

「了解しました」

 ビィから手を離したリュウは首を大きく回した後、魔導管理局に向かって歩き出そうとした。が、

「……ビィ」

「どうされましたか、マスター」

「何か、感じないか」

 問われたビィは、ぱちぱちと数回瞬きをした後、静かに目を閉じた。

「探索魔術発動、探索範囲は半径10キロ。カラーコード指定なし」

 ビィが唱え始めるとビィの足元を中心とした黄色い魔法陣が現れた。それは少しずつ大きさを広げて、ふっと消える。一瞬だけ、二人の足元に風が吹く。

「何かあったか?」

「北西、8.42キロメートル先に魔力波動らしきものを探知しました」

「……らしきもの?」

 普段ならはっきりと断定的に言うはずのビィが、はっきりといわないのは珍しいことである。リュウはそんなビィの反応を不思議に思いながら、ビィが言った方角を見た。

「とりあえず、行ってみるしかないな。行くぞ、ビィ」

「了解しました」

 そして、二人は魔力波動『らしきもの』を探知した場所にたどり着いた。魔獣の出現スポットである森の、特に鬱蒼としている場所だった。リュウとビィは探索魔術を発動させながら、森の中に何かあるのかを探した。

「ビィ、そっちはどうだ」

「こちらには何もありません。生命反応も感じられません」

「そうだよな……。じゃあ、一体……」

 と、呟きながらリュウは足を止めた。それに気付いたビィが、リュウの元に駆け寄る。

「マスター、どうされましたか」

「……これは」

 リュウの足元一歩先のところに、何かがあった。そこにあったのは物質ではなく、地面に描かれているものだった。

「魔法陣、なのか?」

 疑問を含んだように言うのは、それが今までリュウが見たことのない魔法陣だったからである。そして、先ほどビィが断定できなかったように、そこから発せられているのは魔力に近いが、しかし何かが違うものだった。

「ビィ、ミリーネに通信。現状を報告しろ」

「了解しました」

「そして……」

 ビィに指示をした後、リュウは地面に書かれている魔法陣らしきものにロッドを向ける。

「探索魔術発動。対象、前方魔法陣。解析開始」

 リュウが唱えると、地面の魔法陣らしきものの真上に、同じ大きさの黒い魔法陣が現れた。黒い魔法陣はゆっくりと地面に近づき、魔法陣らしきものに重なろうとしたが、紙が破けるような音がして、リュウの魔法陣が消滅した。

「……何?」

 まさか消えるとは思っていなかったリュウは驚きを隠せなかった。そんなリュウの横に、ビィがそっと立った。

「マスター、報告終了しました。対象の魔力波動らしきものは、変化ありません」

「ああ、そうだな……。だが、これは、一体……」

 リュウが呟いたそのときだった。突然、目の前の魔法陣らしきものが白く発光し始めた。

「何?!」

「マスター、退避を」

 そう言ってビィがリュウの前に腕を伸ばし後ろに下がらせようとしたが、リュウはそれを拒み、ビィの肩を掴んだ。

「ビィ!!」

 そして、二人の目の前は白い光に包まれた。

 

 

 その夜、ヴァイはただならぬ“何か”を感じて薄暗い森の中を歩いていた。本当なら一人で行くつもりだったのだが、「師匠も行くなら、私も行きます!」と言い出したシュネイも連れて行くこととなった。

 感じた“何か”の正体は、間違いなく彼と因縁のある人物――ザインが関係しているもの。当初はそう思っていたのだが、実際に感じられるものは、今までザインに対して感じていたものと、何かが違う。

「……これは」

「師匠、何かありましたか……って」

 足を止めたヴァイの隣にシュネイが立つ。二人の目の前に現れたのは、力を失った転移法陣とその上に横たわっている男女だった。

「だ、大丈夫ですか?!」

 ただ事ではない、と判断したシュネイは倒れている二人に近づき、声をかけた。すると、倒れているうちの一人、少女のほうが瞬きをしたかのように目を開いた。まるで紅い宝石のような瞳を見た瞬間、その鮮やかすぎる色にシュネイは一瞬言葉を失った。

「――動作良好。魔力波動安定。周辺魔力波動探索開始……」

「あ、あの」

 目を開いた少女は目の前のシュネイの存在を完全に無視して、何かをぶつぶつと呟き続けている。その様子にシュネイは困惑を隠しきれず「あの……」と中途半端に声をかけていた。その後ろに立つヴァイは、紅い目の少女とその後ろで倒れている男をじっと観察するように見つめていた。

「魔力波動、探知不能。……マスター」

 少女は後ろを向き、倒れている青年に声をかけた。青年は「うぅ……」と小さく唸り声を上げたあと、眉間に皺を寄せ、うっすらと目を開いた。まだ意識がはっきりしていないようで、起き上がりの動作も鈍い。

「……ビィ、大丈夫か」

「問題ありません。マスター、魔力波動の乱れ、身体損傷ともに見られませんが、問題ありませんか」

「ああ、大丈夫だ」

 頭を押さえながら、男は少女――ビィの問いに答える。それから、ゆっくりと顔をあげて辺りを見渡した。そして、シュネイと目があった。

「……」

「……君、は?」

 困惑を隠しきれず、言葉も完全に失ってしまっているシュネイに対し、男が不思議そうな顔をして尋ねる。

「お前は、何者だ」

 答えが返ってくると思っていたシュネイの方からではなく、その上のほうから聞こえてきた声に、男は目をはっと開いて声のほうをむいた。ヴァイの紫色の瞳が、じっと青年を見つめて――否、睨んでいた。

「魔導管理局第三隊所属魔導士、リュウ・フジカズだ」

 それは、いつも男――リュウが同じような質問をされたときに答えるものと一緒だった。その答えで大体の人間が納得してくれるものだったのだが、ヴァイも、シュネイも、呆然とした表情で自分を見ていることにリュウは気付いた。

「……お前は、何を言っているんだ」

 ヴァイは、単純に目の前に現れた青年が何を言っているか、理解できなかった。

 

 

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