#twnovel 08

 

◆空の色が白くなって随分と経った。本当の空の色を忘れていても、人々は平気そうに生きていた。地上の人々は、誰も皆目の前を見るだけで精一杯になっている。空を見上げるなんて、何世紀前の発想だろうか。だから誰も気付いていない。既に、空は元の色を取り戻していることを。(12.12.02)

 

◆寂しさを感じるのは誰かを知ったからだと言う。ならば私は誰かを知りたくなかった。こんなに苦しい思いをするくらいならいっそ独りがよかった。でも同時に、独りでは知り得ない幸せもたくさん手に入れた。独りは怖い。きっと私と同じことを思う人がいる。だから私は、手を繋ぎたい。(12.12.01)

 

◆揺らいだ。目の前に、赤い液体。水面は不安定に揺れていた。揺らいでしまった。この剣を握る手が、地を駆ける足が、機能を停止した。もう、いい、と思ってしまった。剣は鈍く光。あの時は輝いていたはずなのに。まるで今の感情と同じようになってしまった。あの時の決意は、何処に。(12.11.30)

 

◆苦しい恋をしました。私は恋しい人と会うことも出来ず、ただ思うだけでした。あの人は私の思いを知らず、何処かで恋人を作り、幸せに生きているのです。苦しい恋をしました。こんな思いをするくらいならいっそ死ねばいい、そう思いました。だから私は、この恋に赤い幕を引きました。(12.11.30)

 

◆空が青いことすら知らない彼女に、私は何が伝えられるだろう。冬の風の冷たさも、月の光の白さも、どうやって伝えればいいのだろう。身体の奥で聞こえる鼓動。隣で手を繋いでくれる温もり。この世界の優しさは、二人で伝えるよ。だから、早く会いに来てね。(12.11.30)

 

◆同じ時間に出る理由は単純。愛しい彼に会うためだ。毎日毎日、同じように見えても微妙に違う彼に会うことが最近の楽しみになっている。たまに彼が先客に取られてしまうことや、彼がいないこともあるけれど、出会えたときは運命さえ感じる。今日も彼に会いに行こう。愛しい特等席様。(12.11.29)

 

◆窓の向こう、冬の空。向こう側は日々変化すると言うのに、内側の世界は何も変わりはしない。下らない日々を無駄に浪費して、生命を浪費して、私は何故生き続けるのだろう。大切な人は窓の向こうで新たな世界を歩み出すのに、私はこの部屋で停滞するのに、何故、生き続けるのだろう。(12.11.28)

 

◆夜の王様がまだ朝の姫君を独り占めしている。人々は延々と続く夜に不安を抱き、身を寄せ合いながら生きていた。その姿は、王が姫を抱いている姿に酷く似ていた。(12.11.27)

 

◆窓の外は雨。心の中も、雨。いつになったらこの雨は止むのだろう。容赦ない雨の水は心の中から外へと溢れ出た。ぼろぼろ、雨が降る。誰か傘をください、と言葉に出来ないまま、雨は降り続ける。天気予報は、答えを教えない。いつになったらこの雨は、止むのだろうか。(12.11.26)

 

◆唇から嘘が零れる。君にとってこの言葉が幸せなら、このまま嘘を吐き続けるのも悪くない。きっと君は、僕が嘘を吐いている事すら気付かないで笑うんだろう。君の笑顔は、僕にとっての幸せ。嘘でもいい、この幸せが続くなら。唇から嘘が零れた。僕らはもう、嘘の海に溺れていた。(12.11.25)

 

 

 

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