#twnovel 06
◆砕ける音がした。違う、これは幻だ。呟く声が、震えている。顔を上げれば笑う俺が一人、二人、多数。震える指で何度消そうとしても、俺が消えない。些細な言葉は増殖を続け、俺の知らない俺が生まれてゆく。違う、俺じゃない。砕ける音がしても、幻は消えない。(12.11.14)
◆何が現実だとか何が虚構だとかどうでもいい。私にとっては君が全てなのだから。触れ合う感触は真。見つめる先の輝きは幻。恋は盲目、と誰かが呟く声も、今の私には届かない。君を追いかける私は、瞳の中に君を無限に映して、夢現の中をさ迷っている。(12.11.14)
◆あの小さい画面の向こうに何があると言うのだろうか。必死に指を動かし、何かを伝えようとする。すぐ隣の誰かの気持ちには気付かないくせに、見えない誰かには共感する日常。そこに温もりはあるのか? 上昇するのは機械の熱だけだと言うのに。それでも人々はひたすら指を動かす。(12.11.13)
◆朝がまだ、目覚めない。身体を起こして窓の外を見ても、月が細く光っているだけ。遠くで聞こえる海の音も、まだ人々を眠りへ誘うよう。まだ夜に侵食されたままの意識を、少しずつ覚醒へ導く。隣で眠る君へ、一番の挨拶を。目覚めぬ君の頬に触れながら、また、一日を始める。(12.11.12)
◆風が冷たい。こんなに冬の風が冷たいとは思わなかった。君がいない冬の日が、冷たくなるなんて知らなかった。息を吐きだし手を暖めようとしても、冬の風はそれを許さない。白い息は温もりを与えてくれない。隣に君がいたら、と呟く声は白い吐息になる。一人の風が、冷たすぎる。(12.11.11)
◆ピリオドを打つのは、誰かの拍手。いくら良い物語でも、称賛する音がなければだらだらと続くもの。きっと世界と言う物語を終えるにも誰かの拍手が必要になるのだ。「良い結末だったよ」拍手の音とその言葉で、ようやく終わりを迎えられそうだ。(12.11.10)
◆街を歩くと、歌声が聞こえてきた。美しい歌声なのに、誰も足を止めようとしない。僕は交差点の真ん中、歌声に聞き惚れる。懐かしいような、新鮮で、心地よい声。歌い終えた君は小さく息を吐き、僕をみる。微笑む君、その向こうにある信号は赤。僕の拍手は激しい音に掻き消された。(12.11.10)
◆その星は空ではなく手の中で光る。黄色い輝きは、何処かの誰かの瞳の奥でまた光っている。たった一つの光だとしても、誰かに気付いてもらえたことが、嬉しくなる。きらきら光る星。私の言葉が何処かに伝わっている証。きっと私も、何処かの星を見つけられるはず。(12.11.09)
◆イヤホンをつけて世界に閉じ籠る。誰にも邪魔されない時間が、このまま続けばいいのに。片耳のイヤホンが外された。「音楽なんて何処にでも溢れてるのに、こんな耳栓つけてかわいそう」そう言った君の口から、軽やかなメロディー。溢れ出す街のリズム。イヤホンの奥の音楽が霞んだ。(12.11.09)
◆何に疲れたのだろう。毎日ため息ばかり吐いて、毎日愚痴ばかり吐いている。足元ばっかり見て、前が見えない。もう嫌なんだ。ため息出して、足元を見る。小さな緑と白い花。こんな所に花なんて咲いてたっけ?綺麗だななんて言うと、笑いが出てきて。前を見る。朝焼けが綺麗だった。(12.11.08)