Story fourteen そして奇跡は、また
結局、俺たちは『校内肝試し鬼ごっこ』をしたという事で教師から指導を受けた訳だ。中田の「肝試ししてたんです!」って言葉にフォローするのは大変だった。
「だーから、いいか?!学校を巡る、謎の浮遊物体!もしUFOだったらどうするんだよ?!」
朝教室に入った途端、小野が目を光らせて俺と中田に言った。その目から出てる輝きが俺たちに当たりそうで、痛い。中田がため息混じりに小野に言う。
「いや、それって校内だろ?校内にUFOは無理があるだろ・・・」
「何が起きるかわからない!それが世の中だっ!」
そう言われると、と俺は納得する。「納得するな!!」と隣の中田が怒鳴って現実に戻った。だって、昨日のことを見たらなぁ・・・・・・
「そうじゃないなら、学校の霊かっ?!なんだっけなぁ・・・・・・何かを持って動き回るってやつ・・・」
小野が額を人差し指で叩きながら何かを思い出そうとしている。もしかして、それは昨日のPoPのことだろうか。アーディスに送られたから正体は不明だ。
「結局何だったんだろうな・・・」
終わったことだから、正体をわかることはないだろうけれどやっぱり気になってしまう。そんな事を思っていると、授業開始のチャイムが鳴った。
昨日の指導はひどかった、と俺はあくびをしながら思い出した。宿直がまさか体育教師だとは思いもしなかった。怒鳴り声を思い出すたび、頭が痛くなる。
そりゃ俺と晴時は校舎に無理矢理入ろうとしたし、広塚に至っては校舎で走って叫ぶという事をして、その上に三人揃って叫んだら宿直だってやってくるだろう。
親が呼ばれなかったのは不幸中の幸い・・・なのか?でも、親にまで怒られたら俺は軽く凹むだろうなぁ・・・うん。
しかし、最後の最後にアーディスの真実を知ったわけだが・・・うーん、意外すぎる。まさかの展開、というのはこう言うことを言うんだろうなあと思った。
「まさかの展開にも程があるだろ、それ」
誰もいない放課後の図書室で、晴時がため息をつきながら、俺に言う。
「確かになぁ・・・まさか、としか言いようがねぇよ」
「でも理解できるっていうか、まあアーディスだし?って片付けれるよな」
「そうかぁ?」
晴時はそう言うけど、やっぱり「アーディスだし?」じゃ片付けられないって。絶対。
「ところでさ、あの黒い奴ってなんだったんだろうな」
晴時が思い出したように言った。黒い奴、きっと昨日窓から俺たちを突き落としたPoPのことだろう。背中がまだちょっと痛い。
「ああ・・・ただのPoP、じゃねえの?」
「うーん、なんか違うように思ったからさ」
『学校にはいくらでもいるでしょ、あんなの。小さいのがゴロゴロいるんだから、ちょっと力強い人がいたら寄っちゃうのよ』
「はぁー・・・そうなの?」
『それに、ほら、アレだよ。恋の炎をさらに熱くする・・・ほら、恋は障害があるほうが燃えるでしょ!』
「なんだそれー」
隣から女が言う。大体恋って誰と誰が?あの場にいたのは、俺と晴時と広塚と、アーディス。・・・アーディス?
「ぶっ?!」
目の前の晴時が盛大に吹いた。俺はちょっと動きが止まった。何、アーディスから広塚に?それとも逆?どっちにしろ・・・
「ま、まさかねー・・・・・・んな訳あるかってーの…ほら、確か広塚、望田がどうこう叫んでたからそっちじゃねえの?あははは・・・」
俺が笑って流そうとした時、晴時が口をあけようとした。待て待て、その口の動きは確実に「あ」の発音だ。
「『アーディスだし?』で片付けるなよ!!」
晴時が「何でわかった?」と言いたげな顔をしている。お前さぁ・・・・・・・・・ちょっと頭痛くなった。広塚、いっつもつっこませてごめんな。
『まあ誰とかは別としてさ、恋には必ず嵐があって、地固まるでしょ』
「雨ならまだしも、嵐が来たら意味ないじゃん。地デロデロだっつーの」
「そうそう」
『そうかな?でも恋には絶対嵐だって!』
「ないない」
晴時が俺の言葉に頷く。全く、何が恋だよ・・・・・・俺の恋はちょっと前にPoPのおかげで大変なことになったし、晴時も巻き込まれたという話を・・・ん?
「あれ?」
俺は先ほど話し掛けた声の方を向く。晴時も気付いたのか、周りをきょろきょろと見ている。
「「・・・・・・またか」」
学校は集まりやすいってそういえばアーディス大先生が仰ってましたよね。普通ならこの状況叫んでるのかな?とか考える時点で俺は間違ってる気がした。
「・・・広塚?」
いつかのように、放課後の教室には俺と望田だけが残った。そして、それに気付いた望田が座ったまま後ろを見る。
「これ」
そう言って、俺は鞄から小さな封筒を出す。中身を取り出して、持ち上げる。
「あっ」
「見つけたから・・・」
いやー、本当は壮大なスケールの物語があったんだー・・・なんて言いたくても言えない。こんなこと言ったら俺はちょっとかわいそうな人、と思われるだろう。
「もしかして、昨日学校に忍び込んだことと関係ある?」
「え、何でお前知ってんの?」
昨日のことはあくまで指導で終わったから、他の生徒には伝えないと教師が言っていたのに・・・
「いや、先生が話してるの職員室で聞いたから・・・もしかして、って思って」
「関係なくは、ない」
としか言いようがない。けれど、深く説明してもまずどこから説明すればいいやら。PoPとかアーディスとか・・・
「・・・もしかして、説明するの面倒?」
望田の言葉に俺は頷いた。それを見た望田は「だろーな」とため息混じりに言った。あれ、俺ってそんなに面倒くさがりキャラが定着してるのか?
「そっか・・・」
俺は望田に封筒から取り出した金色のネックレスを渡す。望田はそれを見て、笑う。
「ありがと!」
やっぱりこいつには泣き顔なんかよりも笑顔の方がいいな。なんて思ってしまった。
「うん、笑った方がいいと思う」
「へ?」
「あ、いや・・・」
何となく、目をそらしてしまった。ああ、気まずいな。
「あの、さ・・・広塚」
望田が控えめな声で俺の名を呼んだ。望田は立ち上がり、俺を見る。望田の頬は赤く染まっている。
「その、・・・・・・好きです!」
「・・・え」
「何ていうか、その、クラス一緒になってから何となく気になってたし、話してたら楽しかったし・・・」
「俺、が?」
声が裏返った。俺は自分の顔を指差すと、望田は小さく頷いた。
「好き、です」
「え、と?」
「それに、このネックレスのこと・・・心配してくれたの広塚だけだったし、すごく嬉しかった・・・」
そして、望田はじっと俺の目を見つめている。俺の心臓がばくばく叫んでいるようだ。
「べ、別に答えがほしいわけじゃ・・・ないわけじゃ、ないけど・・・えーっと・・・あ、つ、付き合ってください!」
望田が勢いよく礼をした。お前、やっぱり答えが欲しいんじゃねぇか!と思ったけれど、目の前にいる望田を見ていると言えなくなった。顔を赤らめ、俺をじっと見つめている望田。
「え、あ、あのさ・・・」
「え?」
「俺、そんなにお前のこと知ってるわけじゃないからな・・・」
初めて同じクラスになったわけだし、そんなにクラスでも話してないし、たまに話すぐらいだし・・・
「だから、その・・・う、ん、付き合うっていうかこれから、仲良くなる、とかなら・・・うん、これから・・・・・・」
それを聞いた瞬間、望田の表情が明るくなった。と、思ったら目に涙が溜まっている。
「う、れ、し・・・っ!!!ありがどうございばず!!!!!」
水道管がぶっ壊れたぐらいの勢いで望田は涙を流した。まてまて、傍から見ると俺が望田を泣かせているような状態になるぞ。っていうか最後の方、滑舌が大変なことになってるぞ。
「いや、えっと・・・大丈夫?」
「嬉しすぎて死にそう・・・本当に、ありがとう!!」
そう言って、望田は鞄を素早く肩にかけてまた、深く礼をして教室を素早く出た。
「・・・あ、あー・・・うん・・・」
何が何やら。ともかく、望田のそのテンションにちょっとついていけなかった。
教室を走って出て、あたしはすぐに深呼吸をした。とうとう言ってしまった。ああ、なんてこったい!とあたしは両手を上げた。
「やったぁぁぁぁぁ!!!!!!」
この喜び、どう表現すればいいのか。あの時ネックレスを持って行ってくれたどこかの誰かさんには・・・・・・いや、やっぱり感謝は出来ないな。あたしの大切な物を盗んだから。でも、それを取り返してくれた広塚には感謝だ。
「嵐来て、地固まっちゃった」
きっと今のあたしの状況はそんな言葉で表せそうだ。まさか広塚が心配してくれるとは思ってなかったから。そして何より、告白を受けてくれるとは。
「どうしよう・・・」
ネックレスはあたしの体温とは別の暖かさを帯びていた。きっと広塚が握っていた、暖かさなんだろう。なんて思ったら、顔がにやついてしまう。
「早く帰ろう・・・!」
「大変だな」
誰もいなくなった教室で、俺の後ろから低い声が聞こえた。
「うぉおお?!」
振り向いたら、いつも通りの無表情を浮べているアーディスがいた。
「び、びっくりしたぁー・・・いきなり出てくんなよ・・・」
「私がいつ現れようと、私の勝手だ」
なんかムカつく言い方。でも、それは実際そうだから反論できない。
「お前はあの女が好きなのか?」
「へ?」
「顔が赤いぞ」
すっとアーディスは俺の顔を指差した。マジかよ、と俺は頬に手を当てる。
「嘘だ」
「嘘かよ!!お前そんな事言うお茶目なキャラだったか!?」
「私のどこがお茶目だ」
確かに外見からは全くお茶目さを感じさせないけど・・・でも今まではそんな事言わなかったからなあ・・・意外すぎる。
「なあ、アーディス」
「何だ?」
「また、いきなり消えたりしねぇよな」
俺が尋ねると、アーディスは少しだけ目を大きく開いた。けれど、すぐに元通りの無表情に戻ってため息をついた。え、ため息?
「当たり前だ」
はっきりとそう言った。むしろ「愚問だな」といいたげな口調である。
「何だよ、その言い方・・・ちょっとイラッてくるじゃねぇか」
「私がお前のそばにいなければ、誰がお前に関わってくるPoPを送る?」
「・・・そうですね」
「それに、」
少しだけ、アーディスが俺から視線をそらす。俺はアーディスの横顔を見つめた。
「私はお前のそばにいるのが好きなのかもしれない」
「・・・・・・はい?」
昨日からアーディスの予想外現象が多すぎてついていけない。
名前で呼ばれたり、怒鳴られたり、叫ばれたり、感謝されたり、抱きつかれたり、衝撃事実告白されたり、次はアーディスの口から「好き」?
今まで一緒にコンビニに行って、「このケーキが好き」という言葉すら言わなかったアーディスが、「好き」?
「今、なんて・・・?」
「何だ、その顔は」
「俺、どんな顔してる?」
「・・・いや、いつもと同じ間抜けな顔だ」
見下すように、アーディスが言った。
「誰が間抜けだっ!!」
いきなりいつも通りに戻りやがって。腹立つ、と思いながらもこの状況楽しんでいる俺が居た。
もしも鳴らないはずの鐘が鳴ったなら、これは奇跡と言うのだろうか。
もしも有りえないと思っていたものが目の前に現れたら、これは信じるしかないのだろうか。
もしもあってほしくないと思っていたことが目の前で起きたら、これは受け入れるしかないのだろうか。
もしも伝えられなかった思いを伝えられたら、これは愛の力と言うのだろうか。
もしも思いが時を越えてしまったら、これは最高!!と叫んでいいのだろうか。
もしもこの思いに気付いてしまったら、これは恋と呼んでもいいのだろうか。
もしもまた会えたなら、これは喜んでいるのだろうか。
もしもこの手が届いたなら、これは奇跡と言うのだろうか。
もしも
もしも・・・
「PoPの気配だ」
いつもと同じ、またいつもの非日常が始まった。
「行くぞ」
「行くぞって、何で俺が?!」
「お前がいないと私も力が使えない。それに、おびき寄せるのにちょうどいい」
「お前最っっっ低だな!」
「お前たちも行くぞ」
「俺らもかよ?!俺、練習あるしー・・・」
「はぁ?!お前、さっき演奏会終わったから暇とか言ってたじゃねぇか!」
「俺も試合近いからー・・・」
「お前もこの間試合終わったばっかだろうがっ!!俺一人に押し付けんじゃねぇよ!」
「・・・・・・」
「嫌だー!俺を巻き込むなー!」
「さてと、帰るかな・・・」
「こら、そんな余裕そうに帰るな!おーまーえーもいっしょだぁぁぁー」
「やめろっ!俺は関係ないっ!」
「・・・・・・」
「大体俺たち巻き込もうとしてるお前が悪いんだろ!?」
「お前らもご指名入ったじゃねぇか!」
「俺、ドンペリねぇと行かねぇよ」
「うわ、どんだけ稼ぐつもりだ!このホスト!!」
「・・・・・・」
「ちょ、待てってお前顔が怖い!」
「ま、まあ穏やかに行こう。な?な?」
「わ、わかったから、そんな怖い顔すんなって・・・」
「行くぞ」
「「「・・・・・・はい」」」
もしもありえない現象に巻き込まれたら、それはきっと
逃れることのないある意味奇跡以上の出来事なんだろう・・・・・・多分。