Story eleven 星に近い願い事

 

望田に探すと言ったけれど・・・俺は少しだけ後悔した。俺に出来ることはほとんどない。

けれどあの望田を助けるには、ああするしかないと思った。

「困った・・・」

けれど、今アーディスは何処にいるかわからない。アーディスがいれば助かるんだけどな・・・と思いながら考えをめぐらせる。

多分望田の話を聞く限り、そのネックレスが消えた原因はPoPにあると思う。けれど、何で望田のネックレス?

「わからん」

腕を組んで考えたけれど、俺は元々こういうの専門じゃないんだ。わかるはずがない。

ともかく、望田のネックレスを見つけ出す方法を考えなければ。時計を見ると、塾の時間が迫っていた。

 

塾についてからと言うもの、考えていたのはホワイトボードに書かれた方程式や数列の答えではなく、望田のネックレスについてだった。

何をどうすれば望田のネックレスは返って来るのだろうか。何故望田のネックレスだったのだろうか。俺に何ができるだろうか。

あんなふうに言った後に「ごめん、やっぱ無理」といったら多分、いや必ず望田を傷つけてしまうだろう。ただでさえ、望田は不安定な状態なのにそれはとどめを刺す言葉だ。

「でもなぁ・・・」

机の上に広げてあるノートには、ホワイトボードの方程式が書かれている。いつの間にか自分でノートをとっていたのだろう。自分の効率のよさにちょっと感動した。

考えを切り替えて、望田のネックレスに戻す。もしかして、ネックレス自体にPoPが・・・?いやいや、それはないだろう。望田の母親の形見、それがわざわざ持ち主から離れることはない。

なら何者かによって奪われた、としか考えるしかない。けれど、誰が?何の理由で?

「・・・何でだ・・・」

ホワイトボードの方程式は消えて、いつの間にか『自習』と書かれている。時計をみたら、既に授業が終わっている時間だった。

「え?」

よかった、うちの塾に号令をしなければいけないシステムがなくて。そう思って、俺は自分の荷物を片付ける。

そういえば、俺当てられてなかったかな。なんて考えもすぐに消える。

「ネックレスか・・・」

塾を出て、家に帰る間もそのことについてしか考えれなかった。自分でも不思議なくらい、このことについて考えていると思う。

 

本来なら、PoP・・・つまり幽霊とかと関わりなんて持ちたくなかった。いや、元々持っていないものだった。たまに小野が騒いで、それを見に行くけれど何も起きない、って言うのがよくあるパターン。

けれど、あの時

「我が名はアーディス」

その声を聞いたとき、その名を聞いたとき、その姿を見たとき、全てが変わった。

考えてみれば、その出来事はまるで全部夢のようだ。望田が言った妄想に近いようなもの。けれど、俺も中田も水市もその出来事に・・・巻き込まれた。

「PoPを送るモノだ」

それから俺はPoPを寄せ付けやすい体質、とか言われて何かと巻き込まれるし、いきなりあの白フードは家にいたり、学校で出てきたり、コンビニで出てきたり・・・

 

「あ」

気が付いたら、家の近くのコンビニにいた。いつの間に俺は店内に入っていたんだろう、そう思いながら店の中を見る。確か、金には余裕があるはず。

いつも、何処見てたんだっけ。そうは思っていても足は覚えているのか、デザートコーナーにいた。

「・・・これ」

目についたある商品。あ、これうまそう。

『それは甘味が足りなかったぞ』

いつか、同じような商品を手にとろうとしたとき、アーディスに言われた。

『ソースの味が強すぎる。ベースの味を消してどうするつもりだ』

普段と変わらない無表情。なのに、それが真剣にデザートを見ているように見えたので笑えた。それから別のデザートを取ろうとしたら

『それは逆に甘すぎた。ビターの方がよかっただろうな』

なんて言われた。金無いくせに何で味知ってるんだよ、と聞いたけれどもちろん答えてはくれなかった。きっとどこかで勝手に食べてるんだろう。

「ん?」

視線を変えると、そこにはいつもアーディスが美味いと言っていたデザートシリーズの最新作があった。

「好きそうだなぁー・・・」

ちょうどその商品はふたつあった。普段俺のことを『味のセンスが全くないな』とか言ってるけど、これでぎゃふんと言わせてやる。

「すみません」

ちょうどレジの後ろにある揚げ物コーナーで何かをしている店員を呼んで、レジに同じ商品をふたつ置く。それを見た店員が少しだけ、笑った。

「330円になります」

学ラン着た男子中学生がどちらかと言うと女性向けのデザートを、しかもふたつ買っていくのは面白いことなのだろう。ああ、ちょっと恥かしい。

そう思いながら店員に330円ちょうどを渡し、レシートを受け取る。それから、俺はコンビニを出た。

これでアーディスが帰ってくるだろうと思っていた。家帰って、机にこれ置いたら絶対出てくるぞ。そう思っているのに、「もう、会えない」という言葉が体全身に響いていた。

「・・・」

時間は夜の10時をすぎて、多分11時になりかけている時間だろう。空を見上げると、真っ黒だった。そして、所々に点々と銀や金の光が見える。

『もう、見付からないかもっ・・・!』

望田の声が、耳に届く。けれどそれは本人が今言ったものではなく、今日の放課後言った言葉。そして、「もう、見付からない」と「もう、会えない」という言葉がまた重なる。

多分、望田のネックレスを探そうと思ったのもその言葉が重なったからだろう。探している間に、PoPの気配を感じた、とか言って姿を現す。

「月、出てないな・・・」

アーディスの髪と瞳の色と同じ銀色の月は、夜の黒の中に出ていない。

 

「ただいまー」

静かに家に入って、自室の扉を音が出ないように閉める。それから、風呂に入って再び部屋に入った。

「・・・」

それでも、アーディスの姿はない。もしかして、あいつ先に食ったんじゃねぇのか?と思って机の上に置いたコンビニの袋の中身を見る。未開封のデザートがふたつある。

「何処行ったんだよ・・・」

デザートを袋のまま、台所の冷蔵庫の奥に入れる。わざわざこうしなくても勝手に食べる奴は今いないだろ。

そして自室に戻って机の上に塾のテキストを広げた。けれど、そこに書かれている方程式も英文も何も頭に入らない。

望田のネックレスを、探す方法。今、俺の中で最優先すべきことはそれだ。

「どうすりゃいいんだろうな・・・」

塾のテキストに、その答えが書いているとは思えない。何か、何か。

『お前はつかれやすい』

ふと、アーディスの言葉を思い出した。

「もしかして」

PoPが原因なら、俺に接近する可能性がある。

『お前たちはPoPに狙われる。こんなに人・・・PeaPの集まる場所ならなおさらだ』

これは学校での言葉。『学校』にいる『俺』が一番PoPと接近されやすい。

「よし・・・!」

明日はちょうど休日だ。学校にいれば、きっとそのPoPと会う可能性がある。

「大丈夫だ・・・」

望田にかけた言葉と同じものを自分にかける。大丈夫、大丈夫だ。

 

 

[もしもし晴時ー?俺おれー。オレオレ詐欺ー]

「はいはい、中田ね。どうしたんだよ」

夜中に電話してくるなんて、中田ぐらいしかいない。っていうか、携帯の液晶に『中田』って出てるからわざわざオレオレ詐欺ごっごしなくてもなぁ、と思う。

[いやーさ、ちょっと気になることがあったからな]

「何?」

[広塚のこと]

中田の声が少し低くなった。やっぱり、気にしてるんだなと思った。

[変だったよな、今日]

「確実に変だった」

[もしかして広塚、アーディスになんか言って、言われたんじゃないか?]

だろうな、と俺が言うと中田が電話越しに[だよなー、あいつだって口下手だもん]と明るく言っている。

「けど、何言われたんだろうな?相当ショック受けてたし」

[うーん・・・もう会いたくない、とか?]

・・・それは、いろいろ違うだろ。

「恋人じゃねぇんだから・・・」

[そっかー?いい線いってると思うけど。あとは何だろうなぁ]

何が原因だろうか。しばらくお互い考え込んで黙っていると、中田が突然電話越しに[おっ]と叫んだ。

[広塚からメール来たぞー]

「お前・・・広塚とメールしてるならわざわざ俺に電話しなくても・・・」

俺が言うと[だって、広塚に明日問いただそうと思ったけど何聞きゃいいか、わかんなくてー]と中田が答えた。

[なあ晴時、明日ってテニス部あるっけ?]

「いや、確かテニス部はこの間試合終わったから休日部活はないって誰かが言ってたぞ」

[じゃあ、何で広塚学校に行くと思う?]

は?中田の問いかけの意味がわからず、間抜けな声を上げてしまった。

[広塚に明日学校行くから無理って返事がきた]

部活もないのに、わざわざ学校に行く生徒は長月中学校にいない。休日は校舎も閉鎖されているので、勉強しに行くという事はありえない。

[ちなみに会おうって言ったのは俺の塾終わってからだから・・・5時半過ぎ。でも無理]

「そんな中途半端な時間・・・なるほど」

[PoP関係だよな?]

学校、夕方ときたらただでさえ幽霊関係のイメージが強いのに、その上広塚ときたらほぼ確定だろう。

「そうだろうな」

[だったら、アーディスのこともわかるかも]

「うん、そう思う」

[明日、6時に学校待ち合わせでどうだ?]

やっぱり同じことを考えていたか。これで広塚の暗いテンションの謎と、アーディスが消えた謎の両方が解ける。けれど、

「・・・もちろん」

広塚に、何かあるのでは・・・という予感がした。

 

 

「・・・来るだろうなぁ」

夜の校舎に、低い声が響く。誰もいない校舎に響くその声は、男のものか女のものかわからない。

「来るだろうなぁ」

屋上に、その声の主はいた。まるで、闇や夜といった暗いものを全て集めて人の姿にしたらそうなりそうな姿をしている。そして、その黒色の手には金色のネックレスが輝いていた。

「来ないと寂しいんだけどなぁ・・・」

あんな力持ってる奴から力がもらえないことが。黒色はそう言って息を詰まらせたような小さな笑い声を上げた。

「さぁて、来るよなぁ・・・」

確信したように、黒色は言った。

「だって、銀色もいないんだしな」

 

夜の星は、今にも消えそうなほど小さく輝いている。

 

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