Story eight きらきらのキモチ

 

「あぁー、やっぱり幸せだっ!やっぱり未由子さんと出かけた後は幸せ!!」

その言葉どおり、幸せそうに笑う中田。周りからお惚気のオーラが出ているように見えるのはきっと教室に居る全ての人々共通だろう。

多々あって、未由子さんとの仲を元に戻した中田は早速デートに行ったらしい。先ほどから2人でとったプリクラを見せ付けてくる。

「へぇー、そうなんだ」

そして、そのお惚気オーラをあっさりと返す水市。違う、こいつもこいつで結構お惚気オーラが出ている。

同じ教室に居る幸橋の様子から見ると、こいつらもデートをしたようだ。こいつら、いつの間にここまで仲良くなったんだ?もうちょっとあっただろ、というツッコミは言わないことにした。

「・・・お前ら、幸せそうだな」

「「何が?」」

俺の呟きに対してもにこにこと笑っている中田と水市。周りから春のオーラ。やめろ、こっちまでお前らみたいに鼻の下が伸びるから、近付くな。

 

「かわいそうだなぁ。塚ってあの3人の中で唯一彼女持ちじゃないな」

部活中に上里瑞菜がボールを打ちながらそう言った。

「はぁ?!」

「だーかーら、水市や中田に彼女居るけどお前は居ないよなって話!」

ぱこん、と上里のラケットにボールが当たる。

「何だよ、いきなり」

「だって、今日の見ててもちが心配してたんだぞ?」

そんな無駄話をしてるから、ボールが当たらないんだよ。俺の打ったボールは上里のラケットをすこしかすって、そのまま跳ねてコートから出た。

「あぁーっ!」

上里が慌てて転がったボールを追いかけた。

「下手。」

「下手なのは塚のほうだ!!」

そう怒鳴りながら、上里はボールを投げる。こっちの方のコントロールはいいんだけどな、そう思っているとボールは俺の手の中に入った。

「はぁ・・・行くぞー?」

「かかって来い!」

そして、俺はサーブを打った。

 

「あっ、あー、み、瑞菜だぁっ」

部活が終わって門を出ようとしたとき、後ろからぎこちない声が聞こえた。

「おー、もちじゃん!」

上里が振り返って、手を振る。俺も振り向くと、ぎこちない走り方をする望田の姿があった。

「望田?」

「ひっ、ろつかもい、るんだっ?」

ぎこちない。普段のぺらぺら喋る望田からは連想できないような言葉だった。

「ああ・・・」

「あ、ちょっと塚たち先行っといて!」

にやりと笑う上里は、そう言って突然部室の方へ走り出す。望田が「何で?!」と声を上げた。

「だって、亮太がまだ来ねぇの!呼んでくるから、先行っとけ!」

そのまま部室に向かった上里の姿を見つめる望田は困ったように小さな声を出している。

「望田、大丈夫か?」

「何がっ?!」

勢いよく俺のほうを向いて、望田が叫んだ。耳が痛い。

「いや、何か色々変だから・・・」

「そっ、そんな事はなかですよ!」

お前は何処出身だ。そう思いながら、望田は顔を真っ赤にさせて「何でもないっ!」と大声で言った。

「とりあえず、先行くか?多分時間かかるだろうし」

「お、お邪魔は出来ないしねぇ・・・」

望田が俺の言葉を続けた。

上里と同じテニス部の山本亮太は学校公式のバカップルである。互いの性格は真反対なのにそこまで仲良くなれるのが疑問である。

上里は男っぽく、がさつで、いろんな意味で頭が悪い。それに対して亮太は頭はよく、運動神経もあり、穏やかな性格。もしかして、真反対だからこそ続くのか?

「行くか。」

俺が言うと、望田は小さく頷いた。

「・・・」

「・・・」

「・・・」

歩いている間、俺と望田の間には微妙な沈黙しかなかった。正直、望田と俺ってそんなに接点ないからこうなるのは仕方ない。

「あ、のさ」

そう思っていたとき、望田が話を出してきた。

「前読んでた本、あれ、何の本・・・?」

「え、あー・・・確か、『札幌冬景色殺人事件』。」

俺が答えると、また微妙な沈黙が生まれた。

「・・・はぁ?!」

しかし、また望田が沈黙を破った。

「何それ?!中学生がそんな渋いの読むわけ?!」

「いや、何だよ渋いって・・・」

「それ読むならこれ読みなさいよ!!」

そう言って望田はスクールバッグを漁り、本を一冊出した。タイトルは『残された叫び〜最期のメッセージ』。

「・・・何だ、その本?」

「知らないの?霊感探偵斎月浩二シリーズ。」

『霊感』、その言葉に頭の奥がズキズキと痛む。

「同じ推理モノなら絶対こっちの方が面白いから!読んでみて!ってか読め!!」

「何で命令形・・・」

「だって、図書室にこのシリーズ入れて欲しいんだけど、読む人いないなら入れないって・・・」

俺関係ないじゃん。そんなささやかなツッコミを心の中で入れる。

「読まない?」

「俺の趣味じゃない。」

「うわー、ちょっとぐらい読んでくれたっていいじゃん。あー、でも読みたくなったらいつでも貸すよ!」

絶対借りるか。俺は自分にそう誓った。

「あ」

望田が声を上げる。ちょうど、普段俺たちが分かれる道についた。

「じゃな」

「ああっ!」

俺が自宅方面に歩こうとしたら、望田が大声を上げた。

「・・・何?」

「えっ!?い、いや・・・」

驚いたような声を上げて、望田は自分の足元を見る。「えぇっと、で、すね・・・」と何かを言いたげだったが、なかなか言わない。

「何だよ?」

「いや、その・・・」

「・・・はぁー・・・」

別に今日は塾があるわけではないから、少し遅く帰っても平気だけれど部活疲れの体を早く休ませたい。そう思いながら、望田の顔を見る。何故か赤い。

そのとき、望田のスクールバッグについている金色の光に気付いた。

「それ」

「え?」

俺が指さしたほうを、望田も見る。金色の光の正体はキーホルダー・・・とは少し違うようだ。

「ああ、これ?これね、ネックレスなんだよね」

望田は器用に金色のチェーンを外して、俺にそのネックレスを見せた。小さな丸い、宝石のようなものがついている。

「お母さんの宝物、だったの。」

「・・・だった?」

「うん、だってお母さんもう居ないし。」

その言葉を聞いて、はっと思い出した。そういえば、望田の母親は望田が幼い頃に死んだ、というのを聞いた事がある。

「悪いな・・・変なこと聞いて。」

「いやいや、気にしなくて良いよ。でもまさか広塚がこれに気付くなんてね。」

明るい望田の声が、逆に悲しく聞こえた。気を使うなよ、とは言えなかった。

「意外。」

いつの間にか望田は俺を真正面から見つめていた。

「何が?」

「だから、ネックレスに気付いたの。瑞菜も最近気付いたし、男子なんかは余計気付かないと思ってた。」

「・・・いや、ちょうど光って見えたし。」

「ふーん・・・あ、じゃああたし帰るね。」

思い出したかのように、望田が言った。ネックレスはそのまま手に持っている。

「あっ・・・。」

「どうした?」

「う、ううん。何でもない」

望田が、またぎこちない。本当にコイツ、どうしたんだ?

「じゃ、じゃあね!また、明日!」

「あ、ああ。じゃあな」

そして望田はいきなり走り出した。普段の体育の時間から想像できないほど速く走って、その姿はすぐに見えなくなった。

「・・・なんだ、あいつ。」

 

 

「よっ・・・しゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

叫んだ勢いで、そのまま宇宙までぶっ飛べるんじゃないかってくらい、あたしは今嬉しい。

望田明莉、14歳。人生で一番・・・は大げさだ。でも、それぐらい嬉しい事が起きた。

「話せた話せた!!あーっ!!まじ瑞菜ありがとう!!!」

それもこれも瑞菜のおかげだ。本当に彼女にいくらお礼をすればいいのかわからないぐらい感謝している。

「・・・はぁっ」

あたしはずっと握り締めていたネックレスを見る。お母さんの形見のネックレス。小さな宝石の色は、まるで今の夜空を映したような藍色。

「本当にありがとう・・・」

きっとこれがなければ話は続かなかっただろう。「また明日」なんて言えなかっただろう。

「よし、明日も話す!!」

強くガッツポーズをして、あたしは叫んだ。ちょうど車のとおりの多い道路の信号なので、多少の叫び声はその走る音で消える。

本当に、今日は幸せな日だった。終わりよければ全てよし、という言葉は正しいと思う。そんな事を考えていたら、信号が変わっていた。

「・・・広塚、」

望田明莉、14歳。この年にして、ようやく恋心に芽生えたのである。自分で言うのもなんだけど。

 

 

家に帰って、部屋に入る。そのまま、俺は机に荷物を置いてベッドに飛び込んだ。

今日は何か疲れた。多分お惚気コンビに付き合わされたせいだろう。きっとそうだ。そうに違いない。

「・・・予習・・・」

明日は英語がある。せめて本文訳だけはしないと、と思ったが疲れすぎたせいか体が動かない。

「うー・・・」

「何をしている」

いつものように、アーディスの声がする。感情の見えない、淡々とした声。

「疲れたんだよ・・・いろいろありすぎて・・・」

起き上がってアーディスの姿を確認しようと周りを見るが、いない。

「・・・あれ」

「おい」

声は右からした。右を向くと、アーディスの銀色の瞳が目の前にあった。

「うぉお?!」

「何をしている、お前は。」

呆れたように息をついて、アーディスは俺を見つめている。

「いや、いきなり隣に居たからびっくりしたんだよ。っていうか近い!」

「・・・」

しかし、アーディスは離れようとしない。

「・・・おい、近いって」

俺が言うと、アーディスは瞬きを何回かして少し離れた。そのとき、何か変なことに気付いた。

「・・・ん?」

何かが、違う。

「・・・」

アーディスは背中を向けて、そのまま姿を消した。

「・・・気のせいか。」

俺は立ち上がり、机に向かうことにした。そういえば、明日当たるかもしれない。

 

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