Story three レイブラリー・ライブラリー
図書室とは・・・俗に『ヤミ系』と言われる陰気な奴ら及び『オタク』と呼ばれる集団が集まる、正直俺たちとは関係の無い空間のはずだった。
放課後にはほとんど人は集まらない。係りの人間が居ることは高い確率でない。
「・・・誰も居ないな。」
周りを見ると、誰も居ない。運がよかった。
「あー・・・部活サボってまで俺って何やってんだろー・・・」
中田がぼりぼりと頭を掻きながら、嫌々そうに言った。その言葉に、俺と水市は頷いた。
本来この時間は部活があるのだが、流石にあの声を聞いた後に部活をする気は無かった。
正直、あの声は『呪いの声』という奴ではないのかという位、気味が悪くなった。だから中田の言葉は俺たちを和ませるような言葉ではないかと思う。
「ったく、マジキツいー」
いや、訂正。その声には本当にキツそうな何かを感じさせた。
「まぁ大会近くなくて良かったな。」
水市がそう言うと「まぁなー」と中田がやる気の無い返事をする。
「しかし、呼び出したくせに顔も見せないなんてさ・・・」
「っていうか何処の誰だよ呼んだの。」
「それがわかれば苦労ねぇよ。」
俺、中田、水市の順で言った。そして数秒の間があって、同時にため息をついた。
「そういや、アーディスは?」
「あ・・・そういえば。」
俺は周りを見て、アーディスがいないことに気付いた。
「おい、アーディス?何処にいるんだ?」
俺が呼びかけても、返事は無い。周りを見ても誰もいない。
「・・・あれ?」
「どうしたんだ、アイツ・・・」
水市が言いかけたその時、突然バンという大きな音がした。次に、ガチッという不吉な音。
「・・・ま、さか?」
中田が顔を真っ青にして言う。そして俺たちはすぐに走って扉の前まで向かった。
「まさか、な?」
そう思って、俺は扉に手をかける。ぐっと引っ張るが動かない。
「押して駄目なら引いてみろ、引いて駄目なら押すだけっ!!」
中田が扉を全身の力を込めて押す。しかし、扉は動く気配すらない。
「外から鍵がかけられても、開くはずだ。」
水市が冷静にそう言って、鍵を開けようとする。もちろん、開かない。
「・・・予想通り過ぎるぞー、これ。」
「ものすごくありきたりな展開だなー」
「だけど最悪のパタンだなー」
棒読みながら、俺たちは言う。これでもしも、この扉さんがとても心が広くて優しいのなら開けてくれないかな、なんて。
「アーディス!!!!出て来いよー!!!!!」
中田はそう叫んで、扉をバンバンバンと大きく叩く。しかし、応答は無い。
「・・・何でだよー!!!あーちゃん!!!アーディスさん!!!アーディス様あああ!!!」
「落ち着け中田!」
水市が、中田を抑えて冷静に言う。こんな時まで冷静でいれるとは流石水市だ。
しかし・・・先ほどから思っていたが、
「なあ・・・水市、」
「ん、どうしたんだ広塚。」
「寒くないか、この教室。」
「・・・そう言われれば。」
「確かに、何か冷え込んできたなー」
水市から開放された中田も少し肩を震わせた。その時、水市が小さく「もしかして、」と呟いた。
「どうした?」
「これは幽霊が出てくる前兆って奴じゃないか。」
「・・・よくある展開だな・・・」
俺も同じ事を考えていたので、小さくため息をついた。その時だった。
がた、という音がした。その音に気付いたのは俺だけではないようだ。
「今の音、何だ?」
中田が小さく言う。その後にもまた、がた、という音がする。それは、少しずつ連続になる。
がた・・・・・・がた・・・・がた・・・がた・・がた、がた、がたがたがた、ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ
無機質な音が図書室中に響く。その音は俺たちに恐怖を与えるのに十分すぎるほどだった。
そんな恐怖の音にプラスして、図書室にある椅子や机がその音と同じように揺れ出すのだから本当に恐怖である。
「・・・ヤバイな。」
冷静に、水市が言う。何でここまで冷静なんだと、俺は言いたくなったがそれ所ではない。
「アーディス!!!早く出て来い!!」
俺が叫ぶが、返事は無い。その時、
「広塚!!!右!!!」
中田の叫びどおりに、右を向く。目の前に、椅子があった。
「わ・・・あああ?!」
すぐにしゃがみこんだ。その瞬間、ドンッという低い音が響く。椅子が、飛んで来た。
「ありえねぇだろ、これ!!」
先ほど飛んで来た椅子が、また揺れ始めて宙に浮く。一体どういうメカニズムですか。
「水市!!」
椅子が、水市のほうに飛ぶ。当たる寸前で水市はしゃがみ、避ける。さっき俺はこんな危機的状況だったのかと何故か冷静に考えれた。
しかし、これが当たったらただの怪我で済むだろうか。いや、むしろ言い訳はどうしよう。
「オイ広塚!!ボケっとすんな!!!」
中田が、叫ぶ。その瞬間、俺の頭にガンッと地味な痛みが来た。そして俺の足元に落ちてきたのは文庫本。
「武器がいっぱいって奴ですか。」
俺たちに出来たことと言うと、結局は避けることだったのだろう。でも、それで良いことだってあるのだ。
「あ、止まった。」
「・・・た、助かった・・・」
水市のあっさりした言葉に中田は全身に力が抜けたかのように座る。
「アレか?投げすぎて疲れましたって奴か。」
俺が言うと、水市も小さく頷いた。逃げる方が何となく体力使った気がするが。
『無事・・・・・・か・・・・・・・・・・』
小さな声が、俺たちに届く。
「アーディス!!何処に行っていってた?!」
『・・・・・・Pが・・・・・・力が・・・・・・逃げろ・・・』
「逃げろって・・・どうやって・・・」
入り口は閉じられている。窓から、も同じようだ。さっきの椅子たちが何時の間にかバリケードを作っていた。
『早く・・・・・・PoPが・・・近・・・・・・・い・・・』
「近い?何が・・・」
しかし、アーディスの言葉は聞こえなくなった。その瞬間、またガタガタと机が揺れ始める。
「机?!」
「それ当たったら死ぬんじゃねぇの?」
引きつった笑みを浮べた中田が言う。その言葉が生々しく、そして俺たちの危険な状況を表していた。そして、机が浮く。
「「「わぁぁぁぁぁぁぁ?!」」」
慌てて俺たちは飛んで来た机を避けた。もしここで避けていなかったら・・・そんな事は考えない方がよさそうだ。
そして、バンッという派手な音を立てて机は下に落ちようとした。
「また来る?!」
「ありえねぇだろ!!」
また、宙に浮いた机は俺たちを狙う。何でこんなに狙うんだろうと、半分くらい泣きたくなった。
『狙う理由?簡単よ。』
突然、少女の声が頭の中に響く。誰だ、と尋ねるよりも今は逃げることの方が優先事項だった。
『貴方たちが力を持っているからよ。』
「わぁぁぁぁ!?」
バンッ、ドン、ガタガタ、ドンッ、バン。
『わりと私優しいから助けてあげようか?』
「どうやって!!!」
俺が怒鳴ると、声がくすくすと笑う。
『じゃあ、体貸してね。』
そう言った瞬間、俺から走っている感覚が失われた。俺の足はぴたりと止まった。
「広塚?!」
「まずい・・・逃げろ広塚!!!」
後ろを向くと、机が目の前にやってきた。死ぬかもしれない。
そう思ったが俺の足は動かない。俺の腕はすっと机に向けられた。バン、という音が響く。
「・・・な・・・?」
一言と言えるのだろうか。その単語が俺の口から出てきた。
「広塚・・・お前・・・?」
驚きを隠しきれていない水市の声が俺の耳に届いた。俺の手の先には机が停止している。まるで、ビデオの一時停止をしているかのように。
「何、してんだよ・・・?」
ぽかんとした表情の中田が言った。
「わ、かんね。」
俺がそう言った瞬間、机は、静かに落ちた。普通に立っているのと同じ状況である。ほかに浮いていた椅子や机もバタバタと落ちてゆく。
「・・・あ、れ?」
がくん、と足や腕に感覚が戻る。その瞬間、俺は床に座り込んでしまった。
「今の、何だ・・・」
『感謝しなさいよね!』
また、頭の中に声が響く。一体誰なんだ、お前。
「PoPか。」
その冷め切った声にハッとなった。後ろを向くと、無表情のアーディスが立っている。何となく、不機嫌なオーラを発しながら。
『あらー、来ちゃった。』
「あの時逃がした奴か。」
『うん。まぁ、さっさと送ってくださいよ。あ、ついでにあそこにいるのもね。』
頭の中に、ガンガンと声が響く。頭が痛くなってきた・・・
「愚かな魂よ、今すぐ純なる魂に還れ。」
よくある封印の呪文とかなんだろうか。しかしアーディスはそれを棒読みに言う。すっと、肩が軽くなった。
「・・・何?」
パチパチと瞬きした中田が俺とアーディスのほうを見ながら尋ねた。その隣にいる水市も理解できていない、という表情をしている。
「なるほどな・・・」
そんな2人に対してアーディスは何か分かったような声で呟いた。
「何が、なるほど何だよ。」
俺は立ち上がりながらアーディスに訊くと、アーディスは俺を真っ直ぐ見て言い放った。
「お前はつかれやすい。」
「つ、かれ・・・?」
疲れやすい、突かれやすい、吐かれやすい・・・1番最初ものを除いてどれもこの状況に合わない。
「憑かれやすい?」
水市がぽんと手を叩いて言った。その瞬間、扉ががらがらっと開いた。
「係りはいるかな・・・って、あれ?中田に水市に広塚?」
扉の向こうからクラスの女子、望田明莉が来た。その瞬間、アーディスがフッと消える。
「何やって・・・って!?何よこの椅子!!!」
「「「あ。」」」
望田が指差した方には、ぐちゃぐちゃに並べられた机と椅子が。
きっとコイツの脳内では俺たちが暴れた結果と思われているのだろう。がみがみと何かを怒鳴ってくる。
・・・ああ、今日はなんて最悪の日なんだ。