Story two 『学校=不思議空間』の方程式
もしかして、夢オチという奴ではないのだろうか。俺は淡い期待を持っていた。
あんな普通ありえない状況が起きる、という事は夢か幻なのだろう。
「夢オチ・・・」
目覚めると、俺は自宅のベッドに居た。暖かな布団の中で、ぼーっと目を開いている。
「よかった・・・夢オチ・・・」
「目覚めたか。」
しかし、それは夢オチでも幻でも何でもなかった。それは、この低い声で決定されたのだ。
「啓也、朝から叫ぶのはダメよ。」
「そうそう、全くにぎやかだよねぇお兄ちゃん。」
母と妹・・・万智が朝の挨拶をすっ飛ばして、言った。確かに叫ぶのは悪いけどなぁ・・・
「本当に、お前はにぎやかなヤツだな。」
すっと、後ろから声。その声の主はもちろん、母でも万智でもなく・・・
「あっ!?」
「ん、どうしたのお兄ちゃん?」
「い、や・・・」
突然の出来事に、俺は半分くらい混乱していた。っていうか、寝起きからこんなににぎやかにしたいわけではない。
「万智ー、ちょっと手伝ってー」
「あっ、はぁーい!」
万智は母に呼ばれて台所へと向かった。そして、俺はそれを確認して後ろを向く。
「アーディス・・・だったよな。何でお前、ここに居るんだ!」
「お前たちが私の事を見れるからだ。」
「って事は何、お前もオバケだの幽霊だのそこら辺?」
「言ったはずだ」
そう言って、アーディスは俺の前に立つ。
「私はPoPを送るモノだ。」
「・・・前から言ってたけど、そのぽっぷ・・・って何だ?」
しかし、アーディスは俺の質問に答えない。無表情のままで、俺を見つめるだけ。
会ってからこの人物はずっと表情を変えていない。こいつの感情と言うのはもしかして無くなっているのではないのだろうか。
「おぉ!広塚!!お前こそは用意してくれたんだろ!!」
「・・・何を。」
教室に入ってすぐ、俺を出迎えたのは小野だった。明るい笑顔を浮べ、俺に手を向ける。
「何をって、決まってるだろ!昨日の!!」
「・・・ああ。」
いや、本当は解かっていたけどな。鞄の中から紙を出す。
「・・・白紙?」
「白紙。」
「お前もかぁぁぁぁっ!」
小野がそう叫んだ。どうやら、同じ事を中田と水市もしたらしい。
「最低!最悪!裏切り者っ!!」
「はいはい。」
騒ぐ小野を軽く無視して、俺は自分の席につく。その瞬間、中田と水市がちらりとこちらを見た。
同じ事を考えているんだろうな、二人とも。そんな事を思いながら朝の読書用の本を開く。
その時、近くの女子が「え!?」と声をあげた。その声に、無意識に反応してしまう。
「昨日さぁ、『眠りの使』が鳴ったらしいよー」
誰かの言葉を聞いて、一瞬息が止まりそうになった。それは、中田と水市、そして小野も同じだった。ただ、問題が1つ。
「それ、マジ?」
「らしいよー。でも強風で鳴っただけってさぁ」
「なぁんだ。てっきり何か出たのかと思ったよ」
「いやいや、そんなのいないでしょー」
「だよねー」
その女子たちは、あはは、と顔をあわせて笑いながらまた別の話題をする。
そして、俺たちも同じように顔をあわせて笑った、瞬間。
「どういうことだーい?」
「え、何が?」
「惚けんじゃねぇよ中田ぁ。何が白紙だよ水市ぃ。ふざけんなよ広塚ぁ。」
「小野君、笑顔笑顔」
「営業スマイル営業スマイル」
「営業もクソもあるか馬鹿野郎」
満面の笑みを浮べて小野が中田の首を腕で絞める。
「ぎっ!!!ギブギブギブギブ!!!!!!!!!」
「さぁさぁさぁさぁなんで黙ってたー!!!!!!!!」
「風で鳴っただけとか言ったらお前逆にきれるだろうが!!!」
「うっせー!!!!!!」
その間にも中田の首はぎりぎりと絞められている。
「とりあえず首はなしてやれ!中田の顔やばいぞ!!」
「え?あ。」
俺の言葉に、小野はあっさりと首を離した。そして中田は咳をして呼吸を整える。
「おま・・・いきなり絞めるのはルール違反だって・・・」
「いや、口より先に手が出るのが俺クオリティ!」
にっと笑う小野。その笑顔は純粋なはずなのに、何故か俺(いやきっと俺たち)には恐怖の笑顔に見えた。しかしその言葉は正直イラっとくるものが・・・
「で、お前ら見たの?その現場。」
「えっと・・・」
しまった。噂が流れて半分ラッキーと思ったところだが、俺たちは言い訳を考えてない。
「その・・・」
「残念なことに、俺も、晴時も、広塚も家を出れなかったんだよなぁー」
「・・・はぁ?」
突然、中田が俺と水市の肩に腕を乗せて言った。
「何で?」
「何でって、広塚は塾で遅くなっててしかも親の迎えが来ちゃって・・・俺は家出れなかったからさぁ。晴時もそうだろ?」
「ああ。家を出ようとしたら母さんにバレて・・・」
「お前らドジだなー・・・」
中田と水市の即席物語のお陰で助かった。しかし、何の打ち合わせもないのに何故こんな事が出来たのだろう。
「結局、じゃあお前らって何も知らない訳?はぁー・・・つまんねぇ」
あきれたようなつまらなさそうな顔をして、小野が言って、その場を去った。
「・・・よくできるな、あんなの。」
俺が中田と水市を見て言うと、
「「何が?」」
二人は息ぴったりに言った。
「・・・人が多く集まる空間ほど、PoPは寄り付きやすい。」
運良く、六時間目は自習だった。もちろん自習と言っても、真面目にする奴なんてほとんどいないはずだ。
「PoP・・・つまり、愉快型意識体。」
「・・・ゆ、かいがた・・・」
一番後ろ、窓際の席のお陰で小さな呟きは誰にも聞かれない。この時間にアーディスからいろいろ聞かないといけないのだ。
「何だ、それ・・・愉快型って何だ?」
「・・・」
「・・・」
沈黙が痛い。
「・・・もしかして、わかんない、とか?」
沈黙の中、俺は口を開いた。
「・・・。」
無言の肯定、とりあえずそう捉えた。
「PoPは動き回る為の力を欲しがる。」
「力・・・?」
「お前が私を見れるという事は、強い力がある。」
「・・・霊感、とかか?」
俺はそう言ったが、アーディスは軽く俺を見ただけだった。リアクションに欠けている。
「そして、私が確実にいえること」
アーディスはすっと俺を指差し、
「お前たちはPoPにとって最高の『餌』であることだ。」
「・・・え!?」
突然の宣言(?)に大声をあげてしまった。ハッとなって周りを見る。ちょうど、小野が誰かをいじって笑いが起きていた瞬間で、俺の声はかき消されていた。
「助かった・・・それで、どういう事だ?」
「簡単だ。お前らは私を見る事が出来る、つまりは非常に純度の高い力があるという事だ。」
「・・・はぁ?」
「今後、お前たちはPoPに狙われる。こんなに人・・・PeaPの集まる場所ならなおさらだ。」
また専門用語が出てきた。とりあえず人なんだろう、ぴーぷと言うものは。
「私はそのPoPを送るモノだ。」
アーディスが窓を見て、呟くようにそう言った。その瞬間・・・俺の背中がぞくりと震えた。
「何だ・・・」
「どうした」
寒い。
「・・・気持ち悪い・・・感覚・・・」
「・・・何?」
その瞬間、バン、バンと窓が外側から叩かれる音がした。まるで、手で叩かれたかのように。
「PoP・・・!」
「え・・・?!」
窓の外には何も無い。けれど、バン、バンと叩かれる音は続く。
「・・・何だ、これ・・・」
―――マッテイル
頭の中に、声が響く。
―――トショシツデ・・・マッテイル
「お前・・・どうしたんだ」
アーディスが声をかけてくれたお陰で、俺の意識は現実に戻って来た。窓の叩かれる音は止まっている。
「・・・頭、の中に・・・声・・・」
その時、視線を感じた。中田と水市が困惑したような目で、俺を見ている。いや、俺ではなくアーディスか。
「・・・広塚、今の・・・」
中田が俺の席に来て、小声で言った。こいつらにも、あの声は聞こえたのか。
「声、だと?」
「・・・図書室で待っているって・・・」
無意識のうちに俺の声は震えていた。あの声に、何か恐怖を感じた。
「そうか、ならば実際に行かないとわからんな。」
アーディスはそう言って、窓の外を見つめた。