もしも鳴らないはずの鐘が鳴ったなら、これは奇跡と言うのだろうか。

 もしも有りえないと思っていたものが目の前に現れたら、これは信じるしかないのだろうか。

 

PoP Loving YOU!

Story one  時計塔に使者が来る

 

俺らが通うこの長月中学校には、噂がある。裏庭に立つ、この時計塔・・・『眠りの使』が夜中の12時に鳴るというのだ。

時計塔なんだから鳴るのが当たり前だと思ったら大間違いである。

この時計塔・・・実はもう鳴れない、いや鳴らないのだ。周りの民家から苦情が来る、と言うのも理由なのだが、実際は鳴らなくて困っているらしい。

鳴らなくなったのは何時からだろう・・・俺たちが入学してからは当たり前だが、それ以前から鳴っていない。

きっと、俺の両親やそのまた両親以前から鳴っていないのだろう。

本来ならこの『眠りの使』は『目覚めの使者』と言われていたらしいのだが、まあ上記の理由どおり名前は変えられたのだ。

と言っても、生徒たちの間のみだが。

「そして、君たちにはこれを調べてもらいたいんだ。」

「・・・へぇ。」

にっこりと満面の笑みを浮べたクラスメイト、小野勇が一枚の紙を俺たちに渡した。

俺たちというのは、俺・・・広塚啓也と、同じくクラスメイトの中田祐希、水市晴時のことである。

「『眠りの使』が目覚める瞬間を見て来いってか。」

「そうそう。」

中田が尋ねるとにっこりと笑った小野が答える。

「もちろん、お前も来てくれるんだよな、小野。」

「やだなぁ、冗談きついぞ、水市。何で俺が行くんだよ」

水市の問いにも笑顔。この小野、という男はいきなり提案を出して自分では全く動かない・・・世に言う自己中心的な男なのだ。

「だろうと思った。」

「さすが広塚!よくわかってるねぇ。じゃ、調べたら報告書、書いてくれるよな?いいともーっ!」

1人で小野は腕を大きく上げて叫ぶ。その様子を、俺たちは白い目で見る。

「で、どうするんだよ。やるのか?」

小野が居なくなった後、誰も居ない教室で俺は中田と水市に訊いた。

「・・・どうしようかねぇ。」

「なるべく避けたいのは避けたいけど・・・まぁ、別に問題ないよな。」

「そりゃそうだけど・・・晴時、やけに乗り気だな。」

「むしろ、避けたい。」

中田と水市の会話を聞いて、やっぱりこいつらもやりたいとは思っていないようだ。しかし、やらないとなると、俺らは小野にどうされるか・・・

「何ってったって、『長月の鬼』のご命令だからなぁ。」

そう、これが小野の別名。小野はこの辺一帯を支配する不良番長と言うものなのだ。中学生でコイツに勝てる男は居ないと思う。

「仕方ない、やるか。」

「じゃあ11時半に『眠りの使』現地集合!」

「はいはい。」

こうして、俺たちは教室を出た。ここで、もしも留まっていたなら・・・

 

時刻は11時35分。俺は今、『眠りの使』の真下に居る。しかし、そこに居るのは俺一人。

「・・・遅い。」

別に遅くはないのだが、やはり時間内に来てもらいたいものだ。先ほどから俺はずっと、腕時計を睨んで上を見て、また睨む・・・を繰り返していた。

「おーい!ひーろーつーかー!」

間抜けな大声を出しながら、中田がやってきた。その隣にはへらりと笑った水市が居る。

「ばっ・・・!んな大声出すな!宿直にばれたらどうすんだよ!!」

「大丈夫、大丈夫。裏庭にまで宿直は滅多に来ねぇよ。宿直室から遠いだろ、ここ。」

確かにそうだが、バレた場合が厄介ではないか。しかし早く終わらせたかったので深くつっこむのはやめて時計塔を見上げる。

 

「暗っ!!何でこんなに暗いんだよ!」

「そりゃ、時計塔に電気が通ってる訳ねぇじゃねぇか。」

「いっそ電動式にすりゃ良いんだよ!」

「そしたら電気代が馬鹿みたいにかかるだろ。」

「あーっ!!暗い!!!!」

中田のどうでもいい文句に、俺と水市がツッコミを入れる。と言っても、正論なのだが。

「で、後どれぐらいなんだよ広塚!」

「何となく明るいのが見えた。」

俺、水市、中田の順に階段を上り続けた。結構長さはあり、大体4階建てのマンションくらいの高さだろうか。

「お、っと・・・着いた。」

そして、俺たちは無事に時計塔の鐘の部分に到着した。水市と中田も同じように鐘のある階に着く。

「うっわ、古臭い鐘だな」

目の前にある鐘は、確かに古臭そうな雰囲気を出している。青銅と言うのだろうか・・・緑がかった色をしている。

「昔からあるもんだから、仕方ない。」

「でも古いなぁ・・・年季入ってんなぁー」

中田がぱんぱんと、鐘を叩く。ちょっとやそっとでは動く様子はない。風で動いて鳴ったのでは、と思ったのだがそれはなさそうだ。

「広塚、今何時だ?」

「ん、と・・・11時55分。」

「じゃあ後5分・・・って、何も起きなさそうだよな。」

中田の言葉に俺と水市も頷く。ここで強風、それも台風が直撃したくらいの勢いの風が吹かない限りこの鐘は鳴らないだろう。

しかし―――異変が起きた。

「・・・何だ、あれ。」

「は?」

俺の言葉に、隣に居た水市が声をあげる。水市は俺をちらりと見た後、俺と同じ方向を見る。

「何かあったのか?」

「・・・人?」

「白い、フード・・・」

「はぁ?」

中田も間抜けな声をあげて視線を合わせる。見た瞬間、中田もハッと目を見開いた。

「・・・誰だ?」

俺の言葉に、視線の先に居たその白フードの人物がこちらをゆっくりと見る。

「来る。」

静かに、凛と響く声。周囲にその声が響いた気がする。白フードは視線を俺たちから鐘に戻す。

「お前を送る時間だ、PoP・・・その愚かな魂を純に戻す時だ。」

がきんっ

まるで何かにひびが入ったかのような音。

「・・・何だ?」

違う。

「この音・・・」

「え?」

時刻は、

「針の音・・・」

12時。

「針・・・?」

「まさか・・・」

目の前の鐘が静かに揺れ始める。鐘が、静かに、鳴る。

 

・・・訂正。

 

鐘が静かになるはずなかった。

その馬鹿でかい音は俺たちの鼓膜を破らんとするように鳴る。

「いぃっ?!」

「でっか!?」

「っつぅっ!!」

耳を塞いだところで、意味がないのは解かっていたがでも少しぐらいはましになるだろうと信じていた。

「ま、った!!!」

水市が大声を上げた。この大きな鐘の音の中では、それぐらいの声でないと聞こえないのだろう。

「何だ!晴時!!!」

「こんな音だろ!!!!もしかして!!!!宿直!!!!」

「はぁ!?聞こえねぇ!!!!」

「宿直だ!!!!!!宿直担当の教師が!!!!!来るかもしんねぇ!!!!!」

「何でだ!!!!!!」

と、中田が言いかけたところで鐘がぴたりと止まった。

「よ・・・」

「今の音、幻でもないだろ。」

「・・・まずいな。」

俺の言葉を聞いて、中田の顔は真っ青になった。

「今から降りるか、ここで待つか。」

水市が指を2本出して言った。しかし、それはどちらも同じ意味だ。

「マジかよ・・・」

その時、階段を乱暴に上る音が聞こえた。

「まずっ・・・どうするんだよ!」

「飛び降りろ、とか言うなよな・・・水市。」

「それだけは避けたい。」

俺、中田、水市は向こう側に広がる暗闇を見つめた。無理だ。これは、飛び降りるなんて考えはありえない。

「・・・お前たちは」

突然、後ろから声が聞こえた。俺でも、中田でも、水市でもない声。

「私が見えるのか。」

「え――――」

白フードは俺たちに静かに手を向けた。その時、俺は恐怖を感じなかった。

普通、何者かわからない、しかもフードの人物に手を向けられたら恐れるはずなのに、俺は何も感じなかった。

 

「誰だ!!!誰か居るのかっ!!!」

「誰も居ないみたいだぞ・・・?」

「じゃあ何で鳴ったんだ?」

「風じゃないのか?さっき、いきなり強い風が吹いたし。」

「そうなのか・・・?」

どんどんどん、と階段を下りる音。ちょうど、その階段のすぐ傍に俺たちは居た。

「・・・あっぶねぇ・・・」

階段の音が消えたのを確認した後、中田が息をつくように言った。その言葉に水市も息をつく。

「見つからなかった、みたいだな。」

しかし、俺にはそんな事はどうでもよくなっていた。

「お前・・・一体・・・」

白フードが俺の声に反応した。静かに俺を見る眼は銀色。フードの隙間から月のような銀色の髪が見えた。

「我が名はアーディス。」

その言葉に中田と水市も白フード・・・アーディスの方を見る。

「PoPを送るモノだ。」

 

それが、全ての始まりだったらしい。

 

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