PoP×冥探偵2

あの人は・・・相変わらずあの人だった。

 

―――水市少年の思い出手記

 

「・・・つまんない。」

その場所に不釣合いな少年は、すぐ傍にいる男にそう言った。男は首を振り、少年の肩に優しく手を置いた。

「お前は長男なんだ。だから、ここにいないといけないんだ。」

「・・・うん。」

少年は頷いて、ぱたぱたとどこかへ行った。その様子を見た男は、途切れた会話をまた続けた。

少年の住む街から少し離れたそこでは、病院の院長が集まっていた。2,3ヶ月に一回くらいにこの周辺の院長が集まって、パーティーのようなものを開く。その少年の父親もまた、院長だからそこに居た。

「・・・はぁ。」

少年が周りを見ても、同年代の人物はいない。5歳の彼にとってその場所は退屈で仕方がなかった。

「つまんない・・・早く帰りたい・・・。」

窓際にしゃがみこんで、少年はじっとパーティーの様子を見つめた。華やかな男や女たちは楽しそうに会話をしている。

「・・・。」

けれど、少年にとってはそんなものはただの退屈な時間でしかないのだ。

「退屈?」

突然、少年に誰かが声をかけた。少年は声のした方を見上げた。そこには、穏やかに微笑む青年が居た。

「・・・うん。」

青年の問いに少年が答えると、青年は「だろうねぇ」と疲れたように言って、少年の隣にしゃがみこむ。

「楽しくないでしょ、こういうの。」

「いっつも来てるけど・・・そう思う。」

「いつも来てるんだ・・・大変だね。」

青年は少年の頭に手を乗せ、優しく撫でた。

「大変だよ・・・。」

少年がため息をつくように俯いた。その時、青年は立ち上がり何かをとりに行った。

「いつもお疲れな君に、はい。」

戻って来た青年は皿の上に乗せてあったチョコケーキを少年に見せた。少年はじっとチョコケーキを見つめた。

「・・・チョコ・・・あんまり好きじゃない。」

「えっ・・・」

青年はしまった、と言うような表情をした。その顔を見た少年は小さく笑った。そして、青年もまた、小さく微笑む。

「ねぇ、名前、教えて。」

少年は青年をじっと見つめて訪ねる。

「僕は、高橋柊一郎だよ。」

「じゃあ、しゅーちゃん。」

少年はびしっと青年を指差して言った。青年は「え?」と間抜けな声をあげたが、少年には聞こえていないようだ。

「じゃあ、君は?」

「水市晴時。」

「じゃあ、晴ちゃんかな?」

青年がそう言うと、少年はハッと驚いたような顔をした。

「・・・どうしたの?」

その驚いた表情を見て、青年は心配そうに尋ねる。少年は少し、嬉しそうに微笑みながら言う。

「そういう風に、名前で呼ばれるの・・・初めて。」

「そっか。」

青年も微笑んだ。そして、また少年の頭を撫でる。そして少年は青年に尋ねた。

「しゅーちゃん、俺の友達?」

「もちろんだよ。」

場に似合わない2人は、そう言って笑い合った。

 

「・・・あ。」

水市が、間抜けな声を上げた。いきなりだったので、俺と中田は水市の方をバッと向いた。

「何だ?どうした、晴時?」

「寝てた。」

「・・・はぁ?」

何を言っているんだ、といいたげな声を中田があげた。もちろん、俺もそう思っていたが。

「寝てたって・・・なんだよ、急に。寝てたのはわかってたけど・・・」

「いきなり声あげんなよ、お前・・・」

「うん・・・いや・・・」

水市はぼーっとした表情で俺を見ている。寝ぼけているみたいだな。

「・・・どうしたんだ、本当に?」

「いや・・・懐かしいもの見たからさ・・・」

懐かしい、という単語に何となく水市が幸せそうな感情を含ませているように思えた。その時、

「やぁやぁやぁー!暇かね諸君!暇だよな!暇といえ!答えは聞いてねぇ!!」

「・・・げ。」

教室ににぎやかな声を張り上げながら小野が入ってきた。その笑顔はとても幸せそうだ。頭が痛い。

「なぁなぁなぁ!暇ならついでにこれ調べて来いって!」

「調べ・・・って?」

小野は鞄から携帯を取り出し、俺たちに何かを見せた。携帯使ってばれたら大変だろうな、と他人事のように俺は画面を見た。

「高橋探偵事務所?」

「そ。何でも普通じゃない依頼も受けてもらえるらしいぞ?」

「普通じゃないって・・・」

まさか、と俺は思いながら尋ねた。にっこりと幸せそうな笑顔を浮べた小野は、俺には悪魔に見えた。いや、魔王か。

「幽霊とか、オバケとか!」

幸せそうになんでコイツはそんな事が言えるんだろう・・・頭痛がまた酷くなった。

 

高橋探偵事務所からの帰り、水市の横顔を見てふと思った。

「・・・しかし、晴ちゃんですか。」

俺が言うと、水市は小さく頷いた。「小さい頃あってから、仲良くなって。」と、穏やかに言う。

「まぁ、最近は連絡も取ってなかったから・・・軽く忘れてた。」

「でも、この間夢見た、って言ってたよな。懐かしい夢・・・だっけ?」

「ああ。」

そして、水市はふっと後ろの方をみた。水市の視線の先には探偵事務所がある。

「相変わらずだったよ・・・しゅーちゃん。」

「そんなに変わってないのか?」

「全然。昔からあんな感じ。1回、なんか遊びに行ったとき、部屋中本だらけだった。」

「昔からなんだ・・・」

何となく、そのイメージは付いた気がした。そして、水市はふっと楽しそうに笑った。

「・・・水市?」

「いや、本当に久しぶりに会えたからさ・・・よかったよ。」

懐かしい、友達に会えたから。

「・・・え?」

街の騒音にかき消されて、水市のその一言が本当に彼自身の口で言われたのかわからなかった。

「どうした、広塚。」

「いや・・・っていうか、あれ?中田は?」

「あ、さっき知り合いに会ったから先に帰ってくれだと。」

「ふーん・・・」

「明日も学校あるからさっさと帰るか。」

水市はそう言ってすたすたと歩いて行った。本当はもう少し水市は高橋さんと話したかったのではないかと思った。ただの、俺の勝手な思い込みかもしれないが。

 

[しゅーちゃんって、謎深いよな。]

なんの前触れも無く、電話であっさりと彼は言った。突然の言葉に、ただ僕は瞬きをするしかなかった。

「いきなりだね、晴ちゃん。」

[いきなりだよ、しゅーちゃん。]

「しかしまた会えるとは思わなかったね。」

[会えるって言ってたじゃん。]

見た目は大きく成長した彼だったが、その言葉はあの幼い頃とあまり変わっていないように思える。

[絶対また会えるよ。もうちょっと、晴ちゃんが大きくなってから・・・かな?]

少しゆっくりとした口調で彼がいった。その言い方はもしかして僕を真似ているつもりなのだろうか。

[本当に会えるとは思わなかった。]

「僕もそう思ったよ。」

[いや、絶対予知してたと思う。]

彼が若干むっすりとした声で言った。本当に子供だなあ、と思ってしまう。まだ中学生だから実際子供なのだが。

「そういう晴ちゃんこそあんまり驚いてなかったよね。」

[・・・あんまり。夢見たから。]

「夢?予知夢か何かかな?」

[かも。いや、多分関係ないと、思う。]

その言葉とは逆で、声色は何となく信じていると言いたげなものだった。

[もし関係あったらしゅーちゃんのせいって事で。]

「いやいや、それこそ関係ないでしょ・・・」

[アレだよ・・・伝染する、みたいな。]

「うつるものかなぁ・・・」

電話越しで、笑ってしまう。まるで、目の前で離しているような感覚がした。

[それじゃ、また。]

「うん、また。」

[次は何年後ぐらい?]

彼が楽しそうな声で僕に尋ねる。さて、何年後だろうか。

「さぁ・・・何年後だろうね。」

[次あったら、しゅーちゃん皺だらけだったら笑えるな。それとも、若返ってる?]

「皺だらけは避けたいなぁ・・・」

[じゃあ次は20歳前後の顔になってるんだろ。でも、それは怖いなぁ・・・]

「晴ちゃん僕のことなんか勘違いしてない?」

[若干。]

また、2人で大きな声で笑ってしまった。あまり大声で笑うと、石蕗に怪しまれてしまうかもしれない。時間も時間だから、騒ぎすぎてはいけないな。

「じゃあ、そろそろ切ろうか。」

[うん。じゃあ、顔つるつるてかてかなしゅーちゃんを期待しておくよ。]

つるつるてかてかはもはや若作りとかそういう範囲ではないと思う・・・。

「おやすみ、晴ちゃん。」

[おやすみ。]

そして同じタイミングで電話を切った。

 

 

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