PoP×契約者2

いてもたってもいられぬ衝動。
現在15歳の高校一年生。そして、ちまたでは有名なヤンキー、天津雅はいつになく不機嫌だった。
顔にそう書いてある。
いや・・・・雅はいつもしかめっ面で不機嫌そうなのだが。
私は今、現在進行形で苛々しているのだ。
何故苛々しているのかって?
それはきっとすぐに判るだろう・・・・・・・・。


―非日常に切実な願いは叶わぬもの―


「くぅーっ」
眼鏡をかけた少年、広塚啓也が大きく背伸びした。
やっとでテストが終わった。鳥籠から解放された鳥のようだ。どうしてテストが終わった後とはここまで清々しいのだろう。
そんな自由の身になった気持ちになっている啓也の隣にいるのは白フードの男か女か判らない、中性的な顔立ちをしている人物。彼女はアーディス。つまり、女なのである。
白フードを外せば、輝く銀髪。また、瞳も髪と同じく、銀色である。
アーディスは気難しい顔をしていた。
「・・・・何なんだ?この気配は・・・・。以前の時の感覚とはまた違う・・・・・何だ?」
アーディスは自分に問うているのか、俺に尋ねているのか判らない言葉を呟く。

以前の時。

それはここらで有名な不良『天津雅』が絡んだ事件だった。
PoPと、何と言ったか・・・・・『道化師』だったか?そんな感じのものが融合した偽者の天津さんを消滅されたそれ。
折角、テスト終了で晴れ晴れとしているのだから、面倒な事は起こらないで欲しいのだが。

「・・・・・・む」
アーディスが何かに気付いたようで声を漏らす。
「どうした、アーディ・・・」
彼女の名前を呼び終える前に俺の言葉は止まった。
すぐ側にある壁に寄りかかっている女子高生は見知っている人物だったから。長い金髪、耳には多くのピアス。制服は全く整わせる気がないらしく、カッターシャツのボタンは上から2つほど開け、ブレザーは全開。でもってスカート丈は短い。
見るからに不良。
その人物の鋭い眼差しは確実に俺の方を向いている。

「・・・・あ、天津・・・さん・・・・」
「よぉ」

そう、この女子高生が前回の事件の主要人物となった―天津雅その人だった。
雅は「よっ」とその壁から反動で離れ、体勢を立て直した。
彼女はこっちに体を向けて、
「お前の名前は何だ?」
いきなりそれ?とツッコみたい気持ちは山々だったのだが、言ったら彼女は気分を悪くしてしまうに違いない。危険度AAAの彼女の機嫌を損ねさせるのは致命傷。
啓也は素直に答えるのが一番良いだろうと判断した。
「広塚啓也・・・・です」
「ふぅん、広塚か」
そして、雅はキョロキョロと辺りを見回す。
「今日はあの銀髪いねェんだな」
アーディスの事だ。
どうも天津さんはアーディスと馬が合わないらしく、何かと目の敵にしているのだ。
銀髪、もといアーディスは俺の後ろにいるのだが。
人間としての天津さんには見えていないようだ。

「まぁいい。広塚、お前に頼みがある」
「・・・・・頼み?」
「私と、三戸を探してくんねェか?」
その瞬間に俺の願いは見事に打ち砕かれた。
・・・・・・・・面倒な事が起こりそうだ・・・・・。


 〜   〜   〜   〜   〜


「・・・・・で、また雅さんと係わる事になったと」
「お前もつくづく災難だよなぁ・・・」
またしても、以前も行ったファーストフード店に中田祐希と水市晴時と俺―広塚啓也はいた。
「うん、とりあえず・・・・」
「判ってるよ・・・・『巻き込むな』だろ?」
「「その通り」」
こ・・・・こいつら、キッパリと言いやがって。しかも息ピッタリに。
俺はこの友人の無情さに泣きたくなった。
マジでこいつら・・・・友人助ける気ねェんだな・・・・。
「あっ・・・・!」
啓也は前と同じ声を上げた。
「何だよ?また前と同じようなタイミング、で・・・・・!?」
祐希の声が思わず詰まる。

ファーストフード店に入ってきたのは長いストレートな金髪。目つきが悪くて、耳に幾つものピアスをつけていた女子高生だったから。
「・・・あ、お前ら・・・」
天津雅はこっちに気付く。
祐希と晴時はガックリと肩を落とした。
「・・・・お前らもつくづく災難だな」
俺はあいつらが言った言葉をそっくり返してやった。


 〜   〜   〜   〜   〜


雅は頼むものを頼み、中学生三人が座っていた場所の前に腰を掛けた。簡単に言えば、俺らと天津さんは向き合っている。
どっからどう見ても不良の彼女に自然に人々の目が集まる。
こっち―中学三人の方には「何で不良といるんだろう?」という疑問の眼差しがぶつけられて痛い。
雅はそんな事に構わずにカップに注がれたコーラをストローを伝って飲んでいた。

「・・・・・・えーっと、雅さんはどうして三戸さんを探してるんですか?」
祐希が尋ねる。
「ん・・・、そりゃ、あいつがどっかに消えたからだよ」
ごもっとも。
「でも、それなりの理由があるんじゃ・・・・」
「特にねェ。三戸のヤローと一週間も会ってねェんだ。私を散々巻き込んだ挙句、どっか行きやがって。見つけたら、ぜってーシメる」
「・・・・・何だかんだ言って気になってるんだ・・・・」
祐希は雅に聞こえぬようにポツリと呟いたが、雅にはバッチリ聞こえていたようで口に含んでいたコーラを噴き出す。
口を拭い、雅は鬼のような形相で祐希を睨んだ。
祐希の体が硬直する。

・・・・・・・馬鹿・・・・・・・・。

そう、啓也と晴時は思った。
雅は勢いよく祐希の制服の襟を掴み上げる。
「誰が気になってるだぁ!?バカ言ってんじゃねェ!!!死にてェのかテメェ?そうだったら死に方を選ばせてやろーか!1、殴り殺される。2、バイクで引きずり殺される。3、火に炙られて殺される!!さぁどれがいい!?選べ!!」
「す、すみませんでした!!許して下さい、雅様!?」
雅はふん、と鼻を鳴らして、祐希から手を離した。
「以後、言葉には気をつけるんだな」
「・・・・・はい・・・・・気をつけます・・・・・」
祐希はいかにも泣きそうな顔で腰を下ろした。

怖かったんだな・・・・見てるこっちも怖かった・・・・。

晴時は怒られたらどうしよう・・・とビクビクしながら聞いた。
「あの、手掛かりなんかは無いんですか?」
機嫌がケロリと戻った雅は、手を顎に当てて考えた。

『道化師』。
手掛かりと言ったらそれしか無い。
こいつらもこいつらで変な事に巻き込まれているらしいが・・・・・。
果たして、話して良い事なのか・・・・。
「あーくっそ・・・。この際しょーがねーから私の味わった体験を話すからな。絶っっ対に誰にも言うなよ!」
少年三人は揃って頷いた。


 〜   〜   〜   〜   〜


貢は歩いていた。
洞窟なものだから、靴の音が辺りに響き渡る。
そして、靴の音が止まった・・・・。
「ここにいたのか・・・・」
そう貢は呟き、無表情のまま目の前にある『ヤツ』を見つめた。
手に『力』を集め、弓矢を作り出す。
「・・・・・俺はお前を殺す」
貢は弓矢を構えた・・・・・。


 〜   〜   〜   〜   〜


一方、雅と少年三人組の方は話が終わった・・・・・。
「・・・・そんな事があったんですか」
啓也は呟いた。
天津さんはある日、三戸さんと出会い、「今日の深夜は外に出るな」と言われた。しかし、家の問題で出てしまった天津さんは『道化師』と呼ばれる化け物に遭遇。死んだものの、三戸さんとの『契約』によって生き返った。それ以来、三戸さんと『道化師』を倒しているとか。
俺の身に起きている事も非日常な事だが、天津さんの方も負けてはいないくらい非日常だった。
何かと共感を覚えてしまう・・・。

「啓也」

ふらりとアーディスが現れた。
「ア、アーディス!?」
「PoPの出所を掴んだ」
そう言って、アーディスが「ついて来い」と言わんばかりに去っていく。
「あ・・・すみません!失礼させてもらいます!」
俺がアーディスを追いかけて、立ち去ろうとした時。

ガシッ

手が誰かの手に掴まれた。
・・・・・・・天津さんの手だ。
「何処に行くんだよ」
アーディスがそれに気付き、止まる。そして、雅の方を見やる。
「・・・・PoP・・・・っつーヤツの問題か?それなら私も連れて行け。何かと係わっていたりするかもしんねェからな・・・・アイツが」
三戸は・・・異常な事に係わっているに違いない。
広塚に頼んだのは、それ故の事だった。

「頼む」
雅は強い眼差しを啓也に向ける。
啓也はチラッとアーディスの方を見る。アーディスの答えはこうだ。
「勝手にしろ」
それを聞いて、啓也は雅に言った。
「いいですよ」
それを言った時に雅の顔がパッと輝く。
「ホントか!?ありがとな!!」
その無邪気さは極々普通の女の子のもので、有名な不良だという事を忘れてしまいそうだった。
・・・・こうして見ると、あの『天津雅』も普通・・・・なんだけどなぁ・・・・。

「えーっと、俺たちはどうすればいいんですか?」
晴時が問う。
「んー、まぁいーや、テメーらも来い」
『来い』なのかよ。
祐希と晴時は「ははは・・・」と唇を引きつって笑った。


 〜   〜   〜   〜   〜


アーディスが向かった場所は森の中に隠れた洞窟だった。
「へェ・・・・こんな所に洞窟なんてあったんだな・・・・」
雅が声を漏らす。
案内(?)として前にいるアーディスの体がピクッと動いた。
「どうしたんだ?」
啓也が尋ねる。
アーディスが見えていない雅は頭に疑問符を浮かべる。
アーディスが止まって、
「・・・・・近い」
そう言った途端。
大きな爆音が奥からした。

「うぉ!?」
地面はぐらりと揺れる。
アーディスの表情が真剣なものへと変わり、奥の方へと進んで行った。
「お、おい!?待てってば!!」
啓也がアーディスを走って追いかける。
「広塚!待てよッ」
祐希が声を上げ、後ろの三人は啓也を追いかけた・・・・・。


 〜   〜   〜   〜   〜


「・・・・・くっ」
貢は壁に縋って、呻いた。
中々、手強い・・・・。
今回の俺の任務。それは乱心した『契約者』を殺す事。
『契約者』VS『契約者』。
同じ『力』を持つ者。相手の『契約者』は見知った奴だったが、どうも様子がおかしい。まるで、何かに憑かれているような・・・・・。
そこで貢が縋っていた壁が割れた。
『契約者』か・・・・?いや、違うッ!!
目の前に現れたのは・・・・

「・・・・『道化師』・・・・!」

全く・・・・最悪の事態だ・・・・。
貢は弓を構え、そいつに放つ。一撃でその『道化師』は消滅したが・・・・。
まだ、いる・・・。
一体、二体、三体・・・・十体はいる。
俺の頭上に影が出来た。上に跳んでいるのは、刀を持った問題の『契約者』だった。
貢は攻撃を間一髪で避ける!
ズシャァ・・・と後方に下がり、砂埃が立つ。
・・・・どうする。

「三戸ぉぉぉ!!!」

聞き慣れた声。その声の方向を見ると、そこには『力を授かりし者』―天津雅がいた。
「雅・・・!」
「後でぜってー殴っからな!!」
そう言って、雅は貢の方へ全速で走って・・・・
雅と貢の手が重なった・・・・!
雅の手の内に契約武器の大鎌が具現化される。雅はそれを構え、ズジャッと音を立てて着地した。
「三戸!『道化師』は何体いる!?」
「ざっと見て十体だ」
「上等ッ!!」
雅はビュンビュンッと鎌を器用に回し、戦闘態勢に入る。そして、目の前に現れた『道化師』を喧嘩慣れている為か、無駄の無い動きで蹴散らしていく。

それを眺めて啓也たち、中学生三人は何とも言えぬような笑みを浮かべていた。
不良とは何かと木刀というイメージが強い。
・・・・が、鎌を振り回している不良がここにいる。
「は・・・・ははは・・・・」
笑うしかなかった。
その時、啓也は寒気を感じた。
・・・・これは・・・・。

「後ろだ」

「・・・・・・・え!?」
後ろを振り向けば、刀が俺を襲・・・・!?
銀色の光がその人物を弾き飛ばす。その俺を襲った男性は洞窟の壁にめり込んでいた。見るからに痛そうだ・・・・。
「ボケッとするな」
アーディスが冷めた口調で言う。
「てか、あれ・・・・」
「あの中にPoPがいるみたいだ。いつもとも以前とも違う感じだがな」

「うぁ・・・ちょっ、何だコイツ!?」

そこで声を上げる祐希。
祐希と晴時に『人間のような気がするが、右の顔にピエロの仮面をつけてて、細胞とかそこら辺がウゴウゴしている化け物』(雅論)=『道化師』が近寄る。

―楽シクシヨ?―

「す、するかああああああ!?」
ドッ・・・・・
『道化師』の体に矢が刺さった。すぅ・・・と消えていく『道化師』。
「大丈夫か?」
「え・・・あ、はい」
貢は安全を確認した後、アーディスに向き直る。
「そいつは普通の人間とは違う。俺と同じと考えてくれたらいい」
アーディスは納得した顔になって、啓也に手を差し伸べる。
「力を貸せ」
ただそれだけを言った。
啓也は「はぁ・・・」と小さく溜め息を吐く。そして、何も言わずにその手を握ったのだ・・・。


 〜   〜   〜   〜   〜


何とか戦闘の幕は閉じた・・・・。
相手の『契約者』はPoPが送られ、正常に意識を取り戻した。乱心したのは、PoPの所為であり、貢は任務放棄。後に、上に事情を話す事になるそうだ。
・・・・何というか、ドッと疲れた。
流石の祐希と晴時もグロエグな容姿をした化け物を間近で見て、何も言わなかった・・・・いや、言えなかったというのが適切な表現か。
その現状を読んでいないのか、ポツリと貢は言った。

「これで一件落ちゃ」
「じゃねェよ!!!おっ前なぁ・・・!!それにっ、ここ一週間何してたんだ!?まさか、ずっとこの洞窟で戦ってたとか言うんじゃねェだろうな!!」
「そうだ」
「なッ・・・・マ、マジで?」
「冗談。嘘だ。」
「ふっざけんな!!軽く信じちまっただろ!!つーか、んな無表情で冗談なんていうな!!」
二人の会話は騒がしい。・・・・と言っても、騒がしいのは雅だけだが。
「・・・何だ?心配したのか」
その一言に雅の顔が赤く染まり、ふいと顔を逸らした。
「バッ、バカ言ってんじゃねーよ!テメェが私の日常をぶっ壊した癖に、ふらふらどっかに行ってっから苛々してただけだ!!私がお前を助けたりとかする為にここに来たなんて勘違いはよせよ、私はお前を殴る為に来たんだ!!」
「なら、殴ればいい」

ブチッ

雅は貢を思い切り蹴り飛ばした。
「何で蹴る?殴るんじゃなかったのか?生憎俺はそういう趣味を持ち合わ」
「うっせエエエエエエエ!!!黙って蹴られとけ!!」
啓也はそんな仲が良いのか悪いのか、判らぬ二人を生温い目で見つめていた。
「騒がしい奴だ」
アーディスが雅を見て、呟く。
「本当にな・・・・」
そんな風に啓也の長い一日は終わった・・・・・・・。


END

 

 

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