Another story 長月の鬼伝説!
ある日の放課後、公園を歩いている時だった。
「お前、小野勇だな?」
突然声をかけられて、とりあえず振り向いた。ここで無視をしたらかなり面倒なことになってしまうのは目に見えていたからだ。そこにいたのは声どおり、悪そうな人たちだった。
「そうだけど、なんっすか?」
多分、中三。なのにすごい威圧感あるのは、割と老け顔だからかな? なんて思っていると相手が俺を品定めするように上から下から、全身を見始めた。
「ふーん、お前が小野、ねえ」
「正真正銘、小野勇とは俺のことですよ」
「へー、お前が……」
学ランの校章から見て、近くの朝弓中学校……通称、朝中の生徒であることがわかった。俺に声をかけた人と、それ以外に四人、計五人が俺をじっと睨むように見ていた。見ていたって言うか、睨んでた。
「お前が、本当に『長月の鬼』なんだな」
確かめるように、老け顔さんが言った。ああ、やっぱりね、そういう関係の人か、と何か納得してしまった。
「俺たちは朝中でなぁ、まあ、トップにいるわけだ」
「へー、すごいっすね」
「それでな、お前はこの辺でトップの『長月の鬼』な、訳だろ?」
「んー、まあそうっすね」
「って事は、だ。俺たちが、お前を潰せば……俺たちがトップに、『長月の鬼』を越えれるわけだ」
「なるほどぉ」
俺が返事をすると、老け顔さんの眉間に激しく皺が寄った。そういう空気じゃなかった、みたいだった。
「お前さあ、今から何するかわかってる?」
「ケンカ、って事でしょ?」
「わかってんじゃねぇか。ならさ、さっさと始めて、さっさと終わらせようぜ」
にやりと笑う朝中五人組。その瞬間、後ろの二人が俺に向かって走り始める。
「うお?!」
しゃがんで、腕を広げると二人の足が見事に引っかかる。
「このヤロッ!!」
別の一人が俺を蹴ろうとしたが、何とか手で防いで相手の足を掴む。それから、足を押すとバランスを崩して倒れた。体制を整えるため立ち上がるとまた別の一人が俺の顔面に向かって拳を飛ばしていた。
「っと?! あっぶね!!」
避けて相手の腹に拳を入れる。「うっ!?」と唸って地面に倒れこんだ。正当防衛だ。
「なっ……」
「悪いけどさ、『長月の鬼』を越えさせるわけにはいかないんだよね」
老け顔さんが倒れた仲間を見て引きつった顔をしていた。でも、拳をぎりぎりと強く握っていた。いつ殴りかかってもおかしくない状態だ。
「テメェ……」
「その、何て言うの? 誓い、かな。先輩との、さ」
「ふっざけんじゃねェよ!!!」
走り出した老け顔さんの拳はかなり威力があった。だけど、片手で受けることの出来るレベル。
「なっ?!」
「ごめん、越えさせねぇわ」
老け顔さんの拳を握り、それからがら空きの腹に強く蹴りを入れた。これも、正当防衛。
***
「……勇?!」
ケンカを終え、公園のベンチに座っていた時だった。また声かけられた、と思ったら先ほどとは全く違う人種からだった。
「裕太! うわ、ひっさしぶり!!」
「久しぶりじゃねえよ! お前、またケンカか!?」
また、って言うほどケンカしてないけど……そう思っていたら、幼なじみの西裕太が俺のもとに駆け寄った。
「ったく、昔からお前はケンカばっかしやがって……」
「あのさ、裕太。言っとくけど俺、超久しぶりにケンカしたばっかりだからな!」
朝弓の連中は意外としぶとくて、ちょっと延長戦をして、ついでに顔とかにも怪我したけど、結構無事。もちろん、相手に「参りました」と言わせた。
「俺が知ってる小野勇は基本的にケンカしか、していません」
そう言って裕太は鞄から絆創膏を取り出して俺の額に貼り付けた。それも久しぶりの感覚。
「あーあ、せめて今の裕太じゃなくて有花ちゃんにされたかったなー」
裕太の妹の名を出すと、裕太は少し不機嫌そうな顔をした。このシスコンめ。
「うっせー。何もしないよりマシだろ」
「それもそうだな。ありがとな、裕太」
俺が言うと裕太も笑って「どういたしまして」と言った。
「でも久しぶりだな、裕太。尚比良中学はどうよ?」
裕太は尚比良中学という私立中学に通っている。言わなくてもわかるだろうが、長月中学は公立である。
「うん、結構充実してる。部活も楽しいし」
「バスケだっけ?」
「そうそう。勇は? 相変わらず『長月の鬼』ライフって感じだけど」
割と失礼な偏見が入っているが、まあ気にしないことにしよう。俺が頷くと、裕太は「ははは」と笑った。
「でも驚いたぜ。まさか、本当に『長月の鬼』になってるなんてな。しかも保ってますか」
「んー、まあね」
「尚比良でも有名だぜ、やっぱり。でもさすがに、純粋に勝負挑もうなんて誰も思わないな」
お前と違って、と付け加えられた。そんなものかな、とちょっと考える。
***
もちろん、『長月の鬼』と言うのは小学生の間でも有名だった。当時小学六年生の俺の心を奪っていたのはそのケンカが強いという響き。
俺はといえば、小学校の番長になっていて、ついで言うと中学生ともよくケンカをしていた。そして、大体勝っていた。別に柔道とか空手とか習っていたわけではないのだが、運動神経とノリでケンカでは勝利を得ていた。
「だから俺、『長月の鬼』に勝負挑んでくるわ!」
「……はぁ?!」
俺が言うと、裕太が呆れと驚きを隠せないような声を上げた。
「な、なに、何言ってんだ、お前……」
「だーかーら、俺は『長月の鬼』に勝ってくる!」
「で、第二の『長月の鬼』になるってか?」
「んー、別に」
考えてない、と言うと裕太がガクリと肩を落とした。
「あーのさ、勇……。それ、何の意味があるんだ?」
「え? 何だろ……たださ、どんなに強いか見てみたいんだよね!」
「はぁ……」
「と、言うことで今から行ってくる!」
「え?!」
有言実行、と言うことで俺は早速走って長月中に向かった。後ろから裕太が何か叫んでいたが、無視だ無視。
長月中学校に着くと、ちょうど部活が始まったりする時間だったためぽつぽつと生徒が門から出ていた。
「なあなあ!」
「あ?」
ある生徒に声をかけると、眉をひそめて俺を見た。
「『長月の鬼』ってどこにいる?!」
「は?」
「だーから、『長月の鬼』! いるんだろ!!」
「さぁ……屋上、とか?」
「お、ありがと!!」
それから走って学校内に入り、校舎に入り、階段を駆け上る。そして、屋上の扉を勢いよく開けた。
「『長月の鬼』さーん! いらっしゃいますかぁ?!」
「…………は」
屋上に居たのは学ランの男子。と、女子。男子が小さく声を上げて、女子は驚いたような顔をしたままだった。
「長月の、鬼?」
「そう! もしかして、あんたが『長月の鬼』!?」
「えっと、は?」
再び男子が聞き返す。すると隣の女子がぷっと吹いた。
「あっはっはっはっは! 大変ね、ご指名入っちゃったじゃないの!」
「……帰れ。もう、関係ない」
「ってことはやっぱり『長月の鬼』なんだ!!」
嬉しくて、飛び跳ねそうだった。しかし男子はなんだか疲れた顔をしているし、女子は少し呆れた笑顔を浮べている。それから、女子がそんな笑いを浮べたまま口を開いた。
「君、名前は?」
「小野勇!」
「小野くん、ね。悪いけど本当に帰ってほしいな。もう、こいつにケンカさせたくないのよね」
「ケンカ、っていうか……俺、勝負しに来たんだ!」
俺が言うと、女子も男子も瞬きをぱちぱちぱちとした。
「俺、『長月の鬼』がどれだけ強いか見てみたいんだよね! っていうか越えてみたい! 別に、『長月の鬼』を倒したいとか、ボコボコにしたいとか、恨み晴らしたいとかじゃなくって、一戦交えたいだけだから!」
「……どうする?」
ちらりと女子が男子を見て尋ねる。男子は大きくため息を吐いて、俺を見た。
「わかった」
「……マジで?!」
「やっぱりね」
くすくすと、女子が笑う。それから、男子が前に出て首をぐるりと回した。準備運動、らしい。
「なあなあ、あんた、名前は!?」
俺は、目を輝かせて尋ねる。
「…………月読、夜維斗」
***
「俺、絶対忘れないぜ。勇があの後、ぼろぼろになって帰ってきたの」
と、中学生の裕太が呆れたような笑いを浮べて呟いた。
「まさか本当に『長月の鬼』に勝負挑んで、しかも勝って、『長月の鬼』の名前を貰ったとか、ね」
「だって、俺だし」
俺が笑って言うと裕太が「まあね」と保護者みたいな笑いを浮べる。昔と変わらない、俺よりちょっと上の笑いだった。
「なあ、優子ちゃん元気?」
「何だよ、裕太。いきなり優子の話とかしてさ」
急に話を転換されて、驚きを隠せなかった。どう考えても妹の話を出す流れじゃないだろ。
「いや、何となく。だって、ずっとメールしかしてねえし」
「へー、俺には大してメールしないくせに優子とはメールする訳ですか。ふーん」
「拗ねるなよ、勇」
「拗ねてるわけねえだろ。何だよ、俺には有花ちゃんのアド教えてくれないくせに」
「だって有花、機械苦手だからパソコン使えないし、携帯持ってないし」
会おうと思えばいつでも会えるのだから、メールなんてしなくても平気なんだけど。
そんなことを考えていると見慣れた姿が向こう側にあるのを見た。
「お、先輩だ。じゃあ裕太、またな」
「おう、あんまりケンカすんじゃねえよ」
「お前は親か!」
立ち上がって俺は先輩の方へ走り出す。走る音に気付いたのは先輩の両端にいる二人が先だった。
「先輩!!」