特別活動:初詣
「あけましてオカルトうございます」
「……は?」
ピンポン、とチャイムの音が鳴ったので仕方なく夜維斗が扉を開けると、振袖姿の里佳とコートを羽織った光貴がいた。そして、夜維斗はしばらく里佳の発した言葉に呆然としていた。
「いや、月読。お前のそのリアクションは割りと普通だ」
「えー? これについていけないってしゅげっちゃんも夜維斗も時代に乗れてないよ?」
里佳が首を傾げてそう言うが、光貴と夜維斗はあまり理解していない様子であった。けれど、先ほど携帯に『明けオカ! ことよろ!』と来た里佳のメールの意味を夜維斗は理解した。だからオカ……と夜維斗はため息をついた。
「なによ、そのため息」
「いや、新年そうそうこんな感じなのかな、って」
「だって、あたしたちオカ研ですよ?」
何言ってるのよ。里佳の瞳はそう語っていた。そんな瞳で見られると、何も言えなくなる夜維斗である。
「で、今日は何だ?」
「初詣。って、普通でしょ」
「新年だからな、しなくちゃいけないだろ。日本人として」
里佳と光貴の言葉があまりにも普通だったので、ツッコミを考えようとした夜維斗は再び言葉を失う。
「普通、だな」
「普通でしょ?」
「あ、月読驚いてる?」
光貴がにやりと笑いながら尋ねると、夜維斗は「そりゃな」と呆れ混じりに言った。普段は破天荒な行動をする二人、特に里佳がいたって普通の行動をするのだから、驚いても仕方ない。
「で、何が何でも大吉出すわよー! ってことで、さっさと夜維斗着替えて」
「へいへい……」
この流れは何度も経験している。里佳と光貴が来たら、基本的にどこかへ連れて行かれるか逆に家で大騒ぎするかの二つなのだ。そして夜維斗はすぐに着替え、黒いコートを羽織った。
「さーて、夜維斗着替えたわね」
外で着替えを待っていた里佳がその姿を見て満足そうな顔をした。ただ着替えただけなんだけど……、夜維斗は首を回しながら部屋を出て、扉に鍵をかけた。
「一人暮らしって大変じゃね?」
「何が」
「鍵かけるのとかさ、忘れそうじゃない?」
光貴の問いに夜維斗は首を振る。
「普通忘れないだろ」
「そんなもん?」
「そんなもん」
「っていうか新年からビミョーな会話してるのよ、二人揃って」
先を歩いていた里佳が二人の会話を聞いて振り向き、呆れた顔をした。普段ならその役回りは夜維斗なのだが、珍しく里佳がその立居地にいる。これも新年だからだろう、と光貴は苦笑いを浮べた。
「うっわ、人多い」
神社周辺に来ると、多くの人で込み合っていた。里佳がきょろきょろとあたりを見て「知り合いいるかなー」と呟き、光貴も同じように知り合いを探す。夜維斗は興味なさ気にぼんやりと神社を見ていた。
「あ、これ人多いからはぐれるかも。手繋ぐ?」
「えっ」
里佳の提案に光貴が一瞬驚いたような声をあげた。それに夜維斗は頭をかきながらため息をついた。
「小学生じゃねぇんだから……」
「じゃ、首輪的な紐つける?」
「それじゃあ、なんか全然健全じゃない何かになるだろ」
ははは、とからかうように光貴が言う。里佳がそれに頬を膨らませて「ひどいよそれー」と光貴に反論した。夜維斗がそんな二人を尻目に先に進む。
「あー! 夜維斗先に行かない!」
「まさかお前、巫女さん趣味か?!」
「んな訳あるか」
「それとも先に大吉出すつもり?! ずるーい!」
里佳も振袖姿であることを感じさせないスピードで、夜維斗の背中を追いかける。その背中を光貴も小走りで追いかけた。
「今年もー! 月原高校オカルト研究会がー! より良い発展をしますようにー!!」
小銭を賽銭箱に入れた後、里佳が手を鳴らしながら大声で叫ぶ。賽銭を入れようとした人や、入れた人々がその声に反応して少し驚きの顔をした。光貴がそんな人々に小さく笑い女性の心を射止める一方で、夜維斗はぐったりと疲れきった顔をしている。
「さ、二人もお賽銭入れてお祈りお祈り!」
「それもそうだな」
光貴が返事をして、賽銭を入れる。それから手を鳴らして静かに目を閉じた。隣の夜維斗も同じように賽銭を入れて手を合わせた。
「…………さてと」
二人がある程度手を合わせた後、振り向くと里佳の姿がなかった。その出来事に疲れていた夜維斗の顔も少し覚醒した。
「里佳ー?!」
「陽田、どこ行ったんだ……」
とは言うものの、二人には心当たりのある場所があった。光貴と夜維斗は顔をあわせて、それから同じ方向に向かって走った。
「全く、あいつは何で勝手に、一人で動くんだ……」
「いや、里佳だからだろ。逆に、里佳が先に行かなかったら話にならないだろ?」
「……」
光貴の言葉に頷くしかない。夜維斗は何度目かのため息をついた。そんな夜維斗を見て光貴も同じように何度目かの苦笑いを浮べた。
「いた」
どちらが呟いたかわからないが、その言葉が出てきた。振袖姿の里佳は、おみくじの自動販売機の前で何故か不機嫌そうだった。
「里佳! ったく、早いなぁー」
「しゅげっちゃん! 大変よ、おみくじが自動販売機なんですって!!」
その第一声に走って疲れた光貴と夜維斗はガクリと倒れそうになった。おみくじの自動販売機なんてよくあるものなのに……珍しく光貴と夜維斗の考えが一致した。
「お前、そこかよ」
「当たり前でしょ? 巫女さんがさ、おみくじの引き出し引くのを楽しみにしてたのにぃー……」
「なんかマニアックな楽しみ方……」
「マニアックとか言わないしゅげっちゃん!」
そして里佳は一つの自動販売機に近付きそれを撫でた。
「どうか、あたしに大吉出させてねー」
なでなでと撫で回した後、里佳は自動販売機に向かって手を合わせた。里佳を探しに走った疲れが出てきた夜維斗と光貴はその様子をぼんやりと見つめていた。もはや二人にはツッコミを入れる気力がなくなっていたのだ。一方、里佳は決心をしたように百円玉を自動販売機に入れた。それから、おみくじが出てきた。
「さ、夜維斗もしゅげっちゃんもやってね!」
どうやら二人がおみくじを引くまで結果を見ないつもりでいるらしい。里佳の言葉を受けて、光貴と夜維斗は百円玉を自動販売機に入れて、おみくじを出した。
「いい結果になるといいわね。開いて開いて!」
「はいはい……」
「何がでるかなー」
里佳が勢いよく、夜維斗は面倒くさそうに、光貴は楽しそうに、それぞれおみくじを開いた。
「やった! 出たわよ大吉!!」
「おー、俺は中吉だったぜ」
「…………」
「あれ? 夜維斗、何よその顔はー」
おみくじを開いて何も言わない夜維斗に、里佳は近寄ってそのおみくじの中身を見る。光貴も上からおみくじを覗き込む。
「…………小吉」
里佳と光貴の声が重なった。夜維斗も小さく頷き、「微妙」と呟いた。
「っははははははは、なんだよ月読、小吉って!」
「もー、新年一発目からこれぇ? ある意味さすがね!」
「何がさすがだよ……」
「いやいや、夜維斗らしいって言えばらしいわよね。うんうん!」
「確かに月読って小吉っぽい」
「小吉っぽいってかなり失礼じゃないか、朱月」
「や、しゅげっちゃんの言う通りよ。夜維斗ってどっちかっていうと小吉っぽいよねー」
「お前らなぁ……」
呆れのため息が、白く染まる。空も少し白っぽく、輝いているようだった。