特別活動:手作りースデイ

 

「しゅげっちゃん! 夜維斗置いてくから、後は好きに使って!」

 扉を開けたら突然そう言われ、そのまま声の主はダッシュしてしまった。状況が把握できない光貴はただ目の前にいる夜維斗を見ていた。

「……何事?」

「言われたとおりだ」

 とある休日。朝起きたら同居している姉は居らず、気が付いたら昼。そんな過ごし方をしていた光貴が昼食の準備をしようとしたら突然の嵐の訪問。現在夜維斗を家にあげるのに至る。

「好きに使う……って言われてもなあ」

 何故そんなことを里佳が言い出したのか、よくわからないが光貴は何を頼もうか考えていた。里佳の提案に便乗するのが光貴なのである。そして、昼食の準備をしていたのを思い出して、にやりと笑う。

「じゃあ、昼飯作って」

「昼飯?」

「うん。ちょうど作ろうと思ってたからさ、月読代わりに作ってよ」

「まあ、別にいいけど」

 夜維斗は台所に立って光貴を見る。

「それで、何がいいんだ?」

「何でもいいよー。あ、パスタ作ろうと思ってたからさ、そこ出てるの使っていいよ」

 言われたとおりテーブルの上にはパスタが置いてあった。夜維斗はそれを手にとり何を作ろうかと考え始めた。

「材料冷蔵庫にあるの何でも使っていいぜ」

「へいへい」

 冷蔵庫を開けて夜維斗は中身を見る。光貴は隣のリビングでソファにすわり、テレビをつけた。

「あ、ソースも冷蔵庫あるだろ? それでよろしくー」

 と、光貴が言ったが返事がない。見つかりにくいのかな、と光貴は立ち上がって台所に向かった。

「月読、ソース見つかった?」

「なあ、トマトあるか?」

 質問を質問で返された光貴は少し驚いたが、頷きで返事をした。

「あとトマトペースト」

「あるけど」

「ミンチ使っていいか?」

「ああ、どうぞ」

 夜維斗は冷蔵庫からてきぱきと材料を取り出して、調理にかかろうとしていた。その様子を見て「まさかな……」と光貴は小さく呟く。しかし、いや、まさかね……光貴はこれ以上考えないことにして、再びリビングに戻った。一方の夜維斗は調理体勢に入っていた。

 

 数十分後。

「……これ、月読が作ったのか?」

「そうだけど」

 目の前に置かれたミートソーススパゲティを見て、光貴は呆然とした。

「ソースも?」

「ソースも」

「…………お前、店開け」

 普段は市販のソースで作られているのだが、目の前のスパゲティのソースは手作りなのだ。しかも、目の前にいる同級生の手作り。

「じゃ、ありがたくいただきまーす」

 そして一口。

「……朱月?」

 一口食べてからずっと沈黙の光貴にさすがに不安になった夜維斗は声をかける。光貴はぼんやりとした表情で食べていた。

「月読」

「あ、ああ」

「お前、店開け」

 光貴の真顔の一言に夜維斗は肩を落とした。

「何だ、それ」

「お前、まじうまかったぞこれ。ヤバイ」

「はぁ……」

 夜維斗は引きつった表情で光貴を見る。見られている光貴は幸せそうにスパゲティを食べている。

「やっべー。月読、店できたら教えて。絶対食べに行くから」

「店って……」

「ありえねえ。まさかソース作る奴が、身近にいるなんて……」

 と、言っても夜維斗自身は普段からスパゲティのソースを自分で作っているので光貴が驚いていることを不思議そうな顔で見ていた。

「でも何で、月読が里佳に置いてかれて、俺に昼飯作ってくれたわけ?」

「昼飯作れって言ったのはお前だろうが」

 それもそうだけど。光貴は、はははと笑いながらまたスパゲティを口に含む。

「誕生日だろ」

「……んぅ?」

 つい口いっぱいに含んでいた光貴は返事が出来ず、間抜けな声を上げた。夜維斗はいつも通りの、少し面倒くさそうな顔をして光貴を見ている。間抜けな顔をする光貴に、夜維斗はもう一度言った。

「お前の誕生日だろ、今日」

「誕生日、ですか」

「違ったか?」

 コップに入った水を飲み、光貴は首を振る。

「いや、誕生日だけどさ。いや、里佳が連れてきたのもわかるけどさ、お前の口から俺の誕生日って言われると……」

「何だよ」

「正直微妙」

 笑いながら言うと、夜維斗は少し不機嫌そうな顔をして「今食ったもん全部吐け」と言った。もちろん、光貴にもわかるはっきりとした冗談。

「ごちそうさまでした。いやー、おいしかった」

「そりゃどうも」

「んで、里佳は?」

「さあ」

 と、言うのも今朝突然里佳が部屋にやってきて、「しゅげっちゃんち行くわよ!!」と言われて引っ張られてきたのだ。

「それはお疲れ様」

「本当にな」

 そんな夜維斗を見て光貴は笑いながら、皿を台所に片付けた。別に笑えるようなことをしているわけではないのだが、夜維斗を見ると何故かつい笑ってしまう光貴なのである。

「おめでとう」

「おーう、ありがとうよ。あ、また昼飯作って」

「金取るぞ」

「最低」

 そういうのも、笑いながら。そんな時、扉が勢いよく開かれた。

「たっだいまーしゅげっちゃん!」

「おー、おかえ……おかえり?」

「うっせー……」

 自分の言葉に疑問を抱きながら光貴は部屋に入ってくる里佳に声をかけ、夜維斗は小さく呟いた。

「じゃっじゃーん! みてみて、今回イチゴタルト作ったのよー!」

 にこにこと楽しそうな顔をして、里佳は持ってきた箱を開いた。

「マジでタルト……」

「今回は壊れてないんだなあ」

「しゅげっちゃん、そんなこと言ったらあげないよ」

 むっすりとした表情の里佳を見て、光貴は「ごめんごめん」と軽く謝る。

「しかし、里佳って何でもお菓子作れるんだな」

「まあね。さあて、きりわけっぞー!」

 その言葉を聞いて、光貴がナイフを取りに立ち上がろうとした。が、それを夜維斗が止めた。

「取ってくる」

「……お、おう」

 どうやら『誕生日』だかららしい。光貴が呆然としている横で里佳が声を上げないように笑っていた。

「いやー、夜維斗が優しいと気味悪いわね」

「うん、思った」

「でもアレは、本人なりの感謝よ」

「感謝?」

 何かしたっけ、と光貴が思い出そうとする前に里佳が答えを言った。

「ブックカバー」

「あー、そっか。え、でもアレだけでミートソース作る?」

「……ミートソース?」

 光貴の言葉に里佳は首をかしげた。そんな会話をしている間に、夜維斗がナイフをもってきていた。

「じゃあ、ついでだから夜維斗切って」

「言うと思った」

「さすが慣れてるな、月読」

 返事の変わりに、ため息を出す夜維斗。そして、里佳の手作りタルトにナイフが入った。

「あ、改めまして。しゅげっちゃん、お誕生日おめでとう!」

「ありがとうございます。会長直々に挨拶していただけるなんて」

「会員のお祝いをしないで、どうするよ! みんなで祝った方が楽しいしさ!」

「うん、そうだな」

 何より、里佳に言われた事が嬉しい光貴はタルトを受け取り、口に入れた。

 甘酸っぱい、苺の味が溢れた。

 

 

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