特別活動:魔女ととスイーツ・タイム

 

「……なんで来たんだ、朱月」

「第一声がそれかよ、月読。ひっでえなぁ、俺たち友だちだろ?」

 ある休日。突然チャイムが鳴り、嫌な予感を感じながら夜維斗が扉を開くと、そこには光貴の姿があった。夜維斗の一言を受けた光貴はへらりと笑いながら事情を説明した。

「里佳からメールがきてな。ほれ」

 そう言って光貴は携帯を夜維斗に渡す。そこには里佳からのメールで『今すぐ夜維斗の家に行くこと! 以上!』としか記されていなかった。それで素直に家に来るのか、と思いながらも夜維斗は光貴を家に上げた。

「月読何か聞いてないのか?」

「何も。どうせ陽田の思い付きだろ」

 あくびをしながら、どうでもよさそうに夜維斗は言う。その言葉に内心頷きながらも、「んなこと言うなよー」と光貴は返した。と、そのときまたチャイムが鳴った。

「あ、里佳じゃね?」

「……珍しいな。陽田が来て、チャイムが鳴るなんて」

「月読って案外里佳に対してひどいよな……」

 苦笑いを浮かべる光貴を背に、夜維斗は玄関の扉を開く。

「トリック・オア・トリート! お菓子をくれなきゃ、いたずらするわよ?」

 夜維斗は呆然とした。目が大きく開かれ、ぱちぱちと瞬きをして沈黙している。

「どうしたんだ、里佳? 月読も、ノーリアクションで……」

 やけに静かな玄関が気になった光貴も夜維斗の後ろから里佳を見る。すぐに、光貴も夜維斗と同じように沈黙した。

「あれ? どうしたのよ、二人とも。リアクション薄いわよ?」

「どう、した、って」

「お前の格好のほうがどうしたんだよ……」

 よくみると、光貴も夜維斗も顔が赤く染まっている。里佳は「え? どうしたって……」と自分の格好を見る。

 黒い服は、胸元が少し見えそうで見えない、谷間が見えている、というようなきわどい格好である。スカート丈もかなり短く、風に吹かれれば中が見えそうである。その上ガーターベルトとニーハイソックス。とどめにへそだし。頭の上には魔女の帽子と言いたげな小さなとんがり帽子が乗っかっている。

「ハロウィンよ、ハロウィン! ハロウィンで仮装してどうしたはないでしょう?!」

 光貴と夜維斗の反応にご立腹の様子の里佳は、二人を指さして大声で怒鳴る。

「いや、仮装っていうか、それは……なんかのコスプレ?」

「失礼な! れっきとした魔女よ魔女! どこがコスプレに見えるのよ!」

「むしろそれのどの部分が魔女か問いたいな」

 夜維斗はとうとううなだれて、額に手を当てた。光貴は「あはははは……」と乾いた笑い声をあげている。

 

「改めて、トリック・オア・トリート。お菓子出さないと……いたずらするわよ?」

「里佳さーん、ちょーっとそれは健全な男子高校生の前でされるとイケナイことじゃないかなー」

「人の家で変なことをするなよ。するならよそでやれ」

 家に上がった里佳は、四つん這いになって光貴に近づき、少し低めな声で言う。光貴は顔を赤らめながら視線をそらし、ごまかすように明るく言うと、夜維斗が呆れたようにその様子を見ながら警告をした。

「ま、それは冗談で。どっちにしろお菓子はないのー?」

「だろうと思って一応用意はしてきたよ」

 と言って、光貴は鞄から飴の袋を取り出し、四個ほど里佳に渡した。

「やった! これ、初めて見るやつよ!」

「コンビニの新製品。多分里佳が食べたことないと思って」

「ありがとー! しゅげっちゃーん!」

 里佳は喜びのあまり光貴に抱きつく。想定していなかった里佳の行動に、光貴はそのまま里佳に押し倒された。夜維斗ははあ、と大きなため息を吐いた。

「よそでやれって言っただろ」

「不可抗力だ! 里佳ー、降りてくれー」

 なるべく平静を保とうと光貴は声を上げるが、その顔は真っ赤に染まっている。さすがの夜維斗も哀れに思ったのか、里佳を光貴から引き離した。

「きゃー! 夜維斗がいやらしー!」

「その格好しているお前にだけは言われたくないな」

「で! 夜維斗はあたしに何くれるの? クッキー、ケーキ、プリン?」

 歌うように里佳が尋ねると、夜維斗は小さく息を吐き出して言った。

「そんなものはない」

「は?」

 里佳はぱちぱちと瞬きをする。夜維斗はいつもと変わらぬ表情で、光貴は「やっぱりね」と言いたそうな苦笑いを浮かべていた。

「なんですってぇ?! 今日は何の日だと思ってんの?! ハ・ロ・ウィ・ン、よ!!」

「はいはい」

「オカルト研究会の会員とあろうものが、何でハロウィンを満喫してないのよ?! えぇ?!」

 と、魔女のコスプレ……否、仮装をしている里佳が仁王立ちして夜維斗に大声で怒鳴る。光貴と夜維斗は怒鳴られるのを想定していて、両手で耳をしっかりとふさいでいた。

「ったく……わかった。しばらく待っとけ、作るから」

 どうせないない、と言っても里佳が満足することが無いとわかっている夜維斗は面倒くさそうに立ち上がり、そのまま台所へ向かった。

「あ、月読ー。俺もトリック・オア・トリートってことで恵んでー」

「朱月……」

「ああ。お返しは飴があるから安心しろ」

 にっと笑いながら光貴は夜維斗に言う。どうせ一人分作るのも二人分作るのも変わらない、と思いながら夜維斗は何を作るのかを考え始めるのだった。

 

 

 

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