逃亡経路

逃げ出す道を考えよう。君と一緒なら、何処までも、行けるはず。

 

「そう言って、わたしとあんたは逃げるのでしょうか?」

わたしは俯いて、彼に尋ねた。彼は「うん」と頷きながら言った。

「逃げるって・・・何から?」

「何からにしてみる?」

「してみる・・・って、決めてないのね。」

「そうだね。」

もしかして、あの口説き文句だけ言いたかったのだろうか。

「まったく、いきなり呼び出したかと思えば・・・」

「まあまあ、そんなに怒らないで。」

「いや、怒ってないから・・・」

この男といると、ペースが崩されてしまう。なんなんだろう、この男のマイペースさは・・・

「とりあえず、どこかにお出かけでもしようか、というお誘いなんだよ。」

「もうちょっと言い方がないかなぁ・・・」

わたしがそう言うと彼は「ないね」とはっきり言った。マイペースというか、自己中心というか。

「お出かけって・・・呼び出しだけだから、すぐ終わると思って何にも持ってきてないわよ。」

「あ、いいよ。僕が全部出すから。」

「いや、ほら・・・服とかも、さ・・・あるじゃないの、いろいろ。」

「ふーん・・・女って面倒だね。」

「五月蝿いわね」

わたしがそう言うと彼は「ごめんごめん」と笑いながら謝る。まあ、いいけれど。

「お出かけって、何処までよ?」

「遠くまで行ってみますか?それこそ、逃げるように。」

「だから、逃げるって何からよ・・・」

「さあ?」

「さあって・・・」

「ま、深く考えないで遊びに行こう。」

彼は私にすっと手を差し出す。エスコートするならそれなりのお店に宜しくね、と付け加える。

「あ、でも僕もお金持ってないや。」

「じゃあ何で出かけようなんて・・・」

「いいじゃん。ほら、行くよ。」

彼に任せた私の手は、強く引っ張られた。強引な男だ、と思ってしまった。

 

まあ、一緒だからいいかな・・・と思ってしまった。

一緒に逃げれるなら、それは何処までも着いて行ってやろうじゃないの。

ただし、あんたのエスコートがないなら行かないわよ。

 

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