空中分解

空に放たれた花火は、すぐに分裂してしまった。あの星も、また空で分解してしまうのだろう。

 

「・・・ごめん。」

呼び出しといて、彼は小さく俯いてそう言った。まるで今にも泣き出しそうなそんな声。

「別に。」

「本当に、ごめん。」

普段の穏やかな顔とはうってかわって、元気のない悲しげな顔。ああ、そんな顔しないでよ。わたしが泣かせたみたい。

「うん、もういいよ・・・」

わたしはただ、それしか言えなかった。彼を攻めるつもりなんてない。

「理由・・・」

「え?」

「理由、聞かないの?」

「・・・理由、あるの?」

わたしが尋ねると、彼は小さく頷いた。

「もう、僕は生きられないから。」

「・・・え?」

「後、1週間の命。だから、君とお別れするなら早目がいいんだ、と思って。」

「冗談、きついよ・・・」

「・・・」

彼は何も言わず、わたしを見つめている。まさか、こんな漫画みたいな話・・・

「本当?」

「・・・」

「やめてよ、死ぬとかそんな・・・」

彼がすっと空を見上げた。彼の視線の先の星は、強く輝いている。

「死ぬ前の星って、強く輝くらしいよ。あの星、もう死んじゃうんだ。」

「そんな・・・」

「まるで、花火みたいだよね。ほら、花火だってきらきら輝いて、終わる。」

あの夏の日、わたしと彼は花火を一緒に見た。あの花火の色は、目を閉じればすぐに思い出せる。

「嘘よね!?ねぇ、嘘だって言ってよ!!」

わたしが叫ぶように言った。おねがい、嘘だって言って・・・

「うん、嘘。」

「・・・え?」

「ごめん、ちょっとからかいたくなった。」

「・・・はぁ!?」

わたしの目には、涙が溜まっていて、それが一気に溢れ出た。

「からかいたいからって・・・って・・・」

「だって、最近ずっと会えなかっただろう。だから、会いたくて。」

「だから、別れ話がしたいってメール送って?」

「うん。」

けろっと、彼が言った。ああ、もう。

「そうですか・・・」

安心した。彼が、死なずにすむのなら。

「でも、あの星が死にそうなのは本当。あの空で、空の中で分解されるんだ。」

「・・・へぇ。」

「そしてまた、どこかの星の一部となって輝く。ロマンチックだよね?」

この男は、もう・・・へらりと笑う彼のその笑顔がとても安心できた。

「ごめんね、これだけで呼んで。」

「・・・いいよ。あえて、よかった。」

わたしは涙を指で拭いてそう言った。

 

せめて、この恋だけは・・・どうか空中で輝いていて欲しいと。

ロマンチックでなくてもいいから、ずっと、ずっと輝いていれば・・・それで、いい。

 

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