魂の解放
「助けて下さい!」
彼女が叫ぶけれど、その叫びは届かない。彼女は小さくため息をついて、あたりを見る。しかし、近くにいる人々は彼女の声に反応すらしていない。
「助けて、早く助けて下さい!」
また叫ぶ。また届かない。彼女はこの繰り返しを長い間続けていた。だから、何度叫んでも誰も気付かないことを知っている。が、何度も叫んでいた。
「ねえ、誰か! 早く助けて下さい!」
彼女の高い声は響くはずなのに、誰も彼女の方を向かない。たまに向く人はいても、すぐに視線を反らす。
「どうして、どうしてよ!」
彼女は苛立ちをぶつけるように叫んだ。これ以上叫んだら、喉が痛くなってしまう。彼女は理解していた。だから、彼女は諦めて、俯く。喉がひりひりと痛んでいる。
「誰も気付いてくれない」
私のことなんて、誰も興味ないのね。彼女は泣きたくなった。けれど泣いたところで何も変わらない。それに気付いた彼女は叫ぶことを選んだのに、空しさはさらに膨らんだ。
「どうして私はこんな所にいるの?」
彼女がいるのは檻の中。彼女はずっと長い間、ここにいた。外ははっきりと見えるのに、彼女は外に出られないのだ。
「ねえ、私を助けて!」
再び彼女は叫ぶ。
「私をここから出して、早く、誰か! ねえ!!」
外は騒がしい。誰も彼女を見ようともしなかった。
「早く出して!! 私を助けて!!」
高い声がかすれてゆく。彼女はもう一度叫ぼうとしたが、かすれた自分の声が耳に届いたためやめた。私の声がなくなったら、本当に誰も私に気付いてくれない。彼女は目を閉じた。
「どうして」
彼女はぐったりと横たわった。呼吸も、喉が痛くなる。誰でもいい、私に気付いて。彼女は小さく祈った。
そのとき、彼女は何か暖かいものが頬に触れたのを感じた。
「誰?」
彼女が顔を上げると、そこには人がいた。小さく微笑む、男性だった。
「あなたは、誰?」
彼女の問いかけに、男性は答えない。それから、彼女が聞いたこともないような音を発して、再び彼女に微笑みかけた。檻の扉は開かれている。ぼんやりとしていた彼女の頭がすっと冷静になった。今なら、外に出られる!
「ありがとう!」
彼女は男性にそう言って、扉に向かって走った。が、檻の扉は再び閉められてしまった。
「何で?!」
一歩手前のところで彼女は止まる。そして、彼女はまた地面に倒れる。
「嘘でしょ、何で、ねえ…どうして!?」
男性に向かって叫ぶけれど、男性は何も言わない。檻の向こう側で、小さく微笑んでいる。そしてまた彼女に向かって、訳のわからない音を発したのだった。
「本当にそれでよろしいんですか?」
私が男性に尋ねると、彼は幸せそうに頷いた。
「ええ、とてもかわいいじゃないですか」
彼の視線の先には小さな小鳥の彼女がいる。彼女は今、ぐったりと横たわっている。眠っているようにも見えるが、そうではない。
「疲れちゃってますね、あんなに鳴いていたから」
珍しい客だ、と私は思った。あんなに彼女は鳴いていたのに、そんな小鳥を欲しがるなんて。ほとんどの人々は「よく鳴きますね」と言うだけで、購入しようとはしないのに。
「この子、可愛いじゃないですか。僕、こんな小鳥好きなんです」
「なるほど」
私は籠の中にいる、彼女を覗き込む。きっと彼女は檻から出られると喜んでいたのに、再び閉じ込められて絶望しているのだろう。先ほどまでの叫びから解かる。
「それじゃあ、ありがとうございます」
男性が小さく礼をして、店を出る。店内から、悲痛な叫びが鳴くなって、わずかに私は安心していた。もう、あの叫びを聞くことは無い。
彼には彼女の叫びは聞こえないだろう。
魂の解放・・・一体誰が彼女の叫びを聞くだろうか。