信じていたって無駄なんだ

 

 私が知りたかったのは、ただ彼の思いだけ。それだけ。

 

 私が、彼を好きになったのは今から二年前。彼が私に声をかけてくれたのがきっかけだった。

「初めまして」

 緊張する私に、彼が優しく声をかけてくれた。笑顔はとても穏やかで、私が初めて見た異性の笑顔だった。

 それまでの私といえば、異性に声をかけられることもなければかけることもなかった。だから真正面から異性を見たのは彼が初めてだった。異性に対してあまりいい印象を持っていなかった私でも、彼に対してはそんなマイナスのイメージを抱かなかった。

「初めまして」

 私と彼の初めての会話はそれだった。

 それから私は彼と会話するようになった。彼は私のぎこちない発言にも優しく返事をしてくれた。友人でも、私の言葉に対して反応知れくれないことがあったけれど、彼はそうではなかった。彼は、私の小さな呟きにも頷いてくれた。

「そうだね、俺もそう思う」

「本当?」

「うん。なんだか、俺たち気が合うみたいだね」

 その笑顔を見られる事が嬉しかった。他のみんなに見せてくれる笑顔と違って見えて、その笑顔は私だけのものだと思っていた。

「今日の天気、なんだか気持ちが良いね」

「朝、かわいい猫を見かけたよ」

「夕陽の色、すごいよ! ほら!」

 そんな他愛のない言葉を、彼は私にかけてくれた。誰とも話さない私に、いつもいつも、優しく声をかけてくれる。私は、彼がどんどん好きになっていった。彼のことが好きになっていて、彼の事を愛しく思っていた。

 日々、私たちの距離は縮まっていった。彼と一緒に出かけることも増えて、彼の横顔を見る時間も長くなった。

 だからこそ、私は知りたくなった。

 ――彼が私のことをどう思っているのか。

 

「私、あなたが好き」

 夕暮れが地面に落ちようとしているそんなとき、私は呟くように言った。彼の歩みが止まった。

「……え?」

 彼が私の顔を覗き込んだ。彼の瞳の中にいる私は、今にも消えてしまいそうなほど小さくて、だから伝えないとこの言葉も消えてしまいそうだと思った。

「あなたが、好きなの。あの時、声をかけてくれた時から、ずっとずっと好きなの」

 私が言い切ると、彼は私のほうを見た。その表情は、驚きを表していて、だから私は、私は

 

「ごめん」

 

「俺、そんな好きとか思ってない」

 

「話し掛けたのも、別に好きとかじゃないから」

 

「そんな興味ないから」

 

 私は、淡い期待を持ってしまった。私の思いは、彼に届いているという勘違いをしてしまった。

「……ごめん」

 彼がそう言って歩き始めた。

 私は、知りたかっただけだった。

 

 夕暮れが赤く染まっていた。

「…………私は、あなたが好きなの」

 私が呟くと、彼は静かに目を閉じた。彼の頬も、夕陽と同じくらい赤く赤く染まっていた。

 淡い期待は赤く赤くなっていて、私の足の力はなくなり、その場にしゃがみこんだ。

「あなたが、好き……」

 私の言葉も夕陽によって赤く赤く染まっているだろう。

 

 淡い期待は赤く染まった。

信じていたって無駄なんだ・・・私が知りたかったのはあなたの愛。

 

 

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