零れる

 

 素直に泣くなんて、あたしのキャラじゃないし。

 何が何でも泣くものか。絶対泣かない。泣いて、目がはれた姿を見せるなんて一生の恥。だから、泣かない。

 第一、あたしが泣き始めると止まらないのだ。ちょっとのつもりがいつの間にか号泣してしまう。嫌だ嫌だ、そんな姿誰かに見られたくない。見せたくない。

 そして、あたしは隣にいる彼を見る。こ、この野郎……号泣しやがって。しかも、丁寧にハンカチを持ってきて涙を拭いている。腹立つ。

「あんた、男なんだからそんな泣かないでよ」

 あたしが言うと、彼はゆっくりこっちを向いた。

「だって、俺……」

 また、涙が落ちる。イライラするぐらい、彼は泣いている。こっちは必死で涙を堪えているのに、何でお前は泣いているんだ!!

「無理っ…」

 ハンカチを目元に与えて涙を零さないようにしている。でも彼の膝元には、涙の跡が見えた。腹だたしいな、ちくしょう。しかもイライラさせるポイントとして、彼はウサギの絵が描かれているハンカチを使っているのだ。あなたはどこの小学生ですかー?

「俺、もう……無理」

 無理って言っている前から泣いている。鼻をすする音があたしの耳に届く。あああ、泣くなバカ! と言いたいけれど、ぐっと堪える。

「本当にやめてよね……」

 もらい泣きなんて、恥かしい。お願いだから、そんな泣き腫らした目であたしを見ないで。

「泣かない方がおかしいよ」

 震える声で彼が言う。

「何でよ」

「泣きたいなら泣けばいい」

「恥かしいでしょ」

「何で、泣くのに恥なんて考える必要があるんだ」

「はぁ?」

「悲しいから涙が出る。感動したから涙が出る。だから、泣いても恥かしくない」

 彼の膝元にはハンカチが握り締められている。それから、彼はじっと前を見つめていた。

「泣いたって悪くない」

 あたしを見て微笑む彼の目の端っこから、涙が零れた。それからまた、あたしから目を反らして真正面を見る。

「泣いても悪くない、か」

 あたしも彼が見つめる方向を見る。

 

「うぅぅぅぅぅぅううううう」

「ほらほら、ハンカチもう一枚持ってきたからこれで拭いて」

「うるざい!」

 あたしは彼が差し出したハンカチを奪い取り、目元に当てる。恥かしい、本当に泣いてしまうなんて。っていうか、何でハンカチ二枚持ってきてるのよ?

「まさか俺より泣くとは思わなかった」

「うっさいバカ!」

「はいはい」

 あたしと彼は先ほどまで居た映画館を後にした。この後、本当なら食事に行く予定だったけれどこんな目だから、行きたくない。

「恥かしい……」

「さっきも言っただろ? 人間泣くのが自然なの。だから、泣いても恥かしくない」

「泣いても恥かしくないけど、目が腫れるのは恥かしいのよ!」

 悲恋系の映画は本当にやめてほしい。ああ言う手のもので泣かなかった記憶の方が少ないからだ。

「ほら、涙落ちちゃう」

 彼はそう言って、ウサギ柄のハンカチであたしの頬を拭いた。そんな風にされるのは恥かしいのに、ああ地味に嬉しいなんて。

 

 絶対素直に言わないんだから!

零れる涙・・・そう思っていても素直に出てきてしまうのね。

 

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