祝福の声と、花嫁の幸せな笑顔。
「結婚、おめでとう」
おれが言うと、彼女はとても嬉しそうな顔をして「ありがとう」と返事をしてくれた。溢れんばかりの幸せが、その空間に広がっていた。
「幸せか?」
「うん、とっても」
「よかった」
心からの言葉だ。彼女が幸せなら、おれも嬉しいことだ。彼女が純白のドレスに身を包み、今までのやんちゃな姿ではなくなったのは少し寂しく思ったけれど、そんな彼女もおれは嫌いじゃない。
――――本当は、ずっと前から好きだった。
「そっちは?」
「え?」
尋ねられて、彼女の顔を見た。今まで見たことのある、楽しそうな表情を浮べる彼女はもう一度尋ねた。
「今、幸せ?」
「……うん。お前が幸せだから」
「そう言ってくれると、本当に嬉しい」
笑顔はもう、おれのものではない。彼女の体に触れることは出来ない…………出来るけれど、してはいけないという罪悪感がおれを一生縛り続けるだろう。幸せ、は今この瞬間に失われた気がした。
「ずっと一緒にいたよね私たち」
「ああ……そうだな」
「私、楽しかったよ。一緒に出かけたり、遊んだり、話したり、勉強したり」
「おれも楽しかった。テストの点数で勝負したり、同じ所行くまでに走って競争したりさ」
「今思うと、なんだかくだらないことで笑ってたよね」
くすくすと小さく笑う彼女の表情は、もう過去の彼女とは違っていた。
おれは、今も変らずお前を愛しているのに。
「ねえ、私幸せになれるかなあ」
「……え?」
彼女の表情は少し、少しだけ寂しそうだった。百のうち一か二、寂しさが含まれている感じ。多分、誰かが見ても幸せな花嫁の惚気、なんて重い祖だけれどおれには違って見える。これはきっと、おれと彼女の付き合いだからわかる表情だ。
おれは考えた。彼女の隣に立つ新郎の姿、彼女の隣に立つおれの姿。
――――本当は、ずっと前から好きだった。
いつか彼女の隣に立てると信じていた。だけれど、その夢は叶わなかった。そして、彼女はウエディングドレスを着ておれに尋ねる。
「なれるよ、絶対」
おれが言うと、彼女はしばらく俺の顔を見つめて、それから静かに目を閉じた。「そうだね」と彼女は頷いた。
「そうだね、うん。幸せに、なれるよね」
「それに、幸せになる! って思ってないと幸せなんてこないって」
「それもそっか」
彼女の表情から、寂しさが消えた。百の幸せが彼女の顔で輝き、純白のドレスがさらに白さを増したようだった。
「ありがと。やっぱり、話すと落ち着くね」
「そりゃどうも」
おれは彼女に笑いかける。
「幸せになれよ」
偽りも無く、本当の心からの言葉。彼女は強く頷いて新郎の元へと向かった。
誓いのキスをした二人は幸せで溢れていた。見ているおれも幸せな気持ちになった。
けれど、おれは……――――ずっと前から好きだった。
彼女の幸せ、それでも、おれは――
黒い裏側・・・白い幸せの中で、浮き彫りにされたその気持ち。