此れで終わりにしようよ

 

 握られているのは、何だ。

 目の前にいるのは、何だ。

 握られているのは、武器。

 目の前にいるのは、敵。

 

「……はぁっ、はぁっ」

 荒い呼吸をした後、一気に息を吸う。相手に、気付かれたら終わり。息を殺して、相手の出方を待つ。

 握られているのは、銃。弾はあと、一発。

「っ……」

 傷が、予想以上に深い。相手からの攻撃を受けたら、間違いなく『終わり』が待っている。

 まだ、終わりたくはない。やっとここまで来れたし、何より、この先で仲間と合流しなければならない。まだ、やりたい事だってたくさんある。

 手が、震えていることに気付いた。震えるな、冷静になれ、と頭の中で叫んでも、震えは余計に強くなる。しかし、気を抜いたら相手に気付かれてしまう。

 落ち着け、私。今まで、ここまで、自分の力で来たんだろう。仲間の助けもあったけれど、最後に頼れるのは自分の、腕。

 自分にそう言い聞かせ、震えを抑える。歯を食いしばり、息を殺して、相手を壁影で待つ。

 かつ、かつ、と相手の足音が聞こえた。一歩ずつ、一歩ずつ、近付いてきている。手が、小さく震える。

 あと一発。相手もこの一発を受ければ終わる。私も、あと一発受けたら終わる。つまり、どちらも同じ状況なのだ。

 勝つか負けるか。続くか終わるか。

 かつ、かつ、かつ。相手の足音が止まった。がちゃり、と相手の銃が動く音がした。それと同時に、私は壁影から姿を出した。

「動くな!」

 同じタイミングで、同じ言葉を発した。私も、相手も、銃を互いに向け合っている。それぞれの銃口は、それぞれの頭に向けられていた。撃てば、確実に、終わる。

 沈黙。どちらかが撃てば話は早いのだろうが、そういう問題ではない。相手の表情は、見えない。相手からも、私の表情は見えない。だから、互いに何を考えているのかわからないだろう。けれど、結局考えていることは一緒で、私も相手も出方を見つけようとしているのだ。

 動いたら撃たれる。

 人差し指に力がこもる。ここで決めれば、ここで決めなくては。

 目の前にいるのは、相手。顔も名前も知らない、その相手を、私は撃たなければならない。

 ここで終わるわけには行かないのだ。

 

「此れで終わりにしよう」

 

 相手が言うと、ばんっ、とはじけるような音が響く。私はその銃弾を避けた。相手の表情は変わらないが、きっと驚いているに違いない。先ほどの銃撃戦で相手の弾があと一発しかないのはわかっていたし、隠れている間に付け替える余裕は無かった。相手も、私と同じように最後の賭けに出たのだ。そして、その賭けに勝ったのは、

 

「終わりだ!」

 

 

 ブチッ、と間抜けな音がする。突然の出来事に、私は強張った顔のまま、目の前の状況を見ていた。

「あんたはまた、宿題もしないでそんなことばっかり!」

「……え?」

 振り向くと、そこには声の主がいた。目の前にいるのは、母。

「な、何を?」

「何を? コンセント抜いたのよ!」

 苛立ったように言う母の手に握られているのはコンセント。そして、慌てて私は母に背を向けて、先ほどまで見つめていた画面を見る。

「あああああああああ!!」

 モニターは真っ黒。私も、銃も、相手もない。

「何してくれたの?! オンライン対戦だったのに!」

「はぁ? オンラインだろうが何だろうが、あんた、まだ宿題やってないでしょ!」

「宿題よりも対戦が!」

「対戦よりも宿題でしょうが!!」

 母の怒鳴り声はまるで衝撃波のように、私にぶつかった。

「いい? 今から最低二時間は勉強しなさい! じゃないと、一生オンラインゲームはさせないわよ!!」

 そう言って、母は私のノートパソコンからコンセントとバッテリーを取り、そのまま部屋を出た。これで、ノートパソコンはただの箱と化した。

「……終わった…………」

 

 

 此れで終わりにしようよ・・・あと二時間後、必ず、次は本当に終わらせますから!

 

 

 

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