恋はシャボン玉のように

 

 理想だけは高かった。だから、こんな風にあなたを求める事が出来たのに。あなたは笑って、私を見つめる。

「わかってるだろ、俺たちもう終わってるって。」

「わかってるわよ、私たちもう終わってるって。」

「ならなんで離れてくれないんだ。」

「だって絶対離れたくないんだもん」

 私が言うと、あなたは呆れたように「もうやめてくれよ・・・」と言った。そんなに私と別れたいのかしら?あなたの笑顔に僅かな苛立ちが見えた。

「何で?」

 あなたがとげとげしい声で尋ねた。表情もいつも見たいな優しい笑顔じゃない。

「何で・・・?」

 私は、わからない。

「離れたくないって、理由が必要なの?」

「・・・」

「私は、あなたが好きだから。」

「・・・」

「もっともっと高いところ行きたいの」

「・・・」

 そして、あなたが深くため息をつく。私を睨むように、じっと見つめている。また、ため息をつく。視線も、呼吸も、小さな動きも、瞬きさえも、あなたが苛立っている事を表していた。

「何だ、高いところって」

「理想は高く、って言うでしょう?」

「どういう意味だ」

「結婚したいのよ」

 やっと言えた。何年も前からずっと思っていた言葉を、私はやっという事が出来た。その瞬間、あなたが驚いたような顔をした。

「・・・」

「それでね、子どもを産みたいって・・・思ってるの」

 私が言うと、あなたの顔がさぁっと青くなった。かたかたと、小さく震えている。何で、そんな顔をしているの?

「ふざけるな!!!」

 大きく目を開いて、あなたが叫んだ。びくりと、肩が震えてしまった。

「・・・何で?」

「結婚する?子どもを産む?バカじゃないのか!」

「どうして?」

 何故、バカなことなの?私は真剣なのに。

「お前と、俺は・・・全然違うんだ。」

「何が」

「立場だ。」

「た、ちば?」

 私が訊き返すと、じっと私を睨んできた。怖い、と私は思った。

「生徒と教師、だろうが・・・俺たちは・・・」

「うん、そうね。」

「それが、結婚なんて・・・ましてや、妊娠?」

「そう。」

 私が頷くと、あなたが額を押さえて「ふざけるなよ・・・」と小さく言った。そんなに、怒らないで。

「妊娠の、何処が駄目なの?」

「だから・・・っ・・・」

 あなたは何かを言おうとして、強く歯を食いしばっているようだった。何で、何でそんなに苛立っているの?

「お前は、教師だろう・・・!」

「だから、あなたには高いところを、目指して欲しいのよ」

 私は言った。そして、あなたの肩に触れようとした。けれど、あなたは下がってそれをさせようとしなかった。

「何で・・・?ねぇ、どうして・・・?」

「お前のせいで・・・俺の人生崩されたくないんだよ!!」

 あなたが怒鳴った。

「・・・え・・・?」

「ふざけんじゃねぇよ・・・頂上目指してんだよ、俺は・・・上に行きたいんだよ・・・わかるか?!俺の気持ちが!!!」

 そう言って、あなたは私の前にづかづかとやってきた。

「理想を語んじゃねぇよ。」

 ぱん、はじけるような音がした。

 

 理想と高さを目指したの

恋はシャボン玉のように・・・屋根まで飛んで、壊れて、消えた。

 

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