銃殺事件

 

 ああ、好きだ。

 その感情に気付いたのが、負けだった。くそう、何で私はこんな事に気付いたんだろう。いっそ、いっそのこと気付かないままでよかったのに! 後悔は未来に繋がらない。そう思いながらも、私は奴の姿を見つめていた。 悔しいが、私は奴が好きになってしまった。何故、あんな奴、と私は自分に質問する。理由ははっきりしない。

 だって、奴はあれだぞ? 小学校の頃、ずっとカマキリ持って、私を追いまわしたんだぞ? カナブンだって持ってきやがった。そのたびに私は大泣きしながら逃げ回っていた。それを奴は笑っていたんだ! ああ、今思い出しても腹だたしい。

 あと、給食のゼリーだって勝手に食われた。「食べても良いよな?」なんてにやにや笑いながらゼリーを奪い取り、目の前で、しかも一口で! ゼリーは奴の体内に入って、消化された。そのときももちろん、大泣きした。

 そうそう、一番悔しかったのはアレだ。割り箸と輪ゴムで作ったおもちゃの銃。アレで、私を何度撃って来たことか。地味にあの銃には威力があり、痛い。痛いんだよ!! と何度叫んだか。

 それなのに、それなのに、私は奴が好きだ。私はじっと睨むように奴の姿を見る。

 小学校の六年ぐらいからだろうか、奴の身長が急に伸び始めたのは。それから、中学に入って学ランを着込んだ奴の姿が、今まで見てきたものと少し違って見えた。それは学ランのせいだ、と私は思っていた。

 それがこの中学二年生という時期に、気付いた。嘘だ、あれが奴だなんて。いやにかっこいいじゃないか。詐欺か? なんて思って何度も名表を確認した。奴だった。夢?

 そして、運がいいのか悪いのか、奴は私に気付いていない様子だ。正直悔しいような。

 だって、カマキリとカナブンを持って追いまわしたし、給食のゼリーを勝手に食べたし、おもちゃの銃で私を撃ってきたのに、忘れてやがんのかよ!! と今すぐ胸倉掴んで叫んでやりたい。

 もちろんそんな事私に出来るはずなく、むしろ今は奴が好きすぎて仕方がない。ああ、自分ってなんて面倒な性質をしているのだろう。ちょっと悲しくなってきた。それでも、奴はとてもかっこいいのだ。つまり過去のことは過去のことであって、今は今なのだ。ああ、自分ってなんて簡単な性質をしているのだろう。

 ああ、好きだ。

 そんな事を考えていると、奴の視線と自分の視線がばったりと合った。まずい、私は目をそらす。その時、奴も目をそらしたのが見えた。え、そらしたの?

 何で?理解できなかったけれど、奴の周りの男子を見ていると、奴はからかわれているようだった。ちょっと小学生時代の自分が出てきて「ざまあみろ!」と言っているのが聞こえた。けれど、中学二年生の私は奴のわずかに見える表情を読取ろうとしている。

 頬が赤い。

 何で?理解できない。完全に白旗を揚げる中学二年生の私。その頬を赤らめている奴の姿にはおもちゃの銃で私を撃っていた姿の欠片もない。

 けれど、奴の銃は確実に私の胸を撃っていた。

 そして、私の銃も奴の胸を打っていたようだ。

 

 振り向いて、銃を撃て!

銃殺事件・・・私たちの心は既に銃に撃たれていた。

 

BACK