愛しの王子様
好きよ貴方、大好きよ。私の、私の、大切な・・・
「ああ、そう。ああ、わかっている・・・ええ、ええ・・・」
携帯電話越しに、私は相槌を打つ。ロイヤルホテルの25階、夜の街がキラキラと輝いている様子が一番良く見える場所。私は大きな窓からその夜景を見つめていた。そして、私の後ろには大好きな貴方がいる。
「・・・そう、そうしてもらえれば・・・ええ。わかった。」
私はそう言って、電話を切った。後ろを向くと、ベッドに貴方が横たわっている。
「起きてる?」
声をかけるけれど、返事はない。やっぱりね、と私はため息混じりに貴方の隣にあるベッドに座る。
電話の相手は会社の部下。もうあんな声聞き飽きた。あんな声なんかよりも、貴方の声のほうがとても心地よいのに。
「まあ、いいわ・・・」
周りを見て、私は首を鳴らした。そして、テーブルに置いてある着替えを持って、シャワールームへと向かう。
シャワーを浴びた後、貴方の横顔を見る。深く目を閉じて、深い闇の底にいる貴方。その貴方の頭を私は優しく撫でた。
「ねえ、起きてる?」
返事はない。そうわかっていても貴方の頭を私は撫で続けた。優しく、夢から覚めるように、と。起きて、起きて・・・。
「起きて・・・」
そして、私は貴方の隣に寝る。隣にいる貴方は、静かに目を閉じたまま。わかっているのに、私は無意識のうちに貴方の名前を呼んでいた。
好きよ貴方、大好きよ。私の、私の、大切な・・・たった1人の、王子様・・・
「・・・起きて・・・」
何度目かの言葉。窓から朝日が差し込んでいる。貴方はそれでも、目覚めはしない。わかっているのに、わかっているのに。
その時、携帯電話のメロディが鳴り響いた。私はベッドから起き上がって、テーブルの上にある携帯電話を取った。
「もしもし」
また昨日の話。あの部下が何かを言っている。その言葉は、私の耳に入らない。違う、私が聞きたいのはそんな声じゃない。
「ええ・・・ええ・・・そう・・・わかりました・・・」
電話を切り、貴方を見る。昨日のまま、ずっと眠り続けている。またベッドに入って、貴方の顔を見る。静かに目を閉じている貴方が、とても愛しいのに。
「わかってる・・・」
貴方の頬に触れる。まるで、氷のように冷たい。
「わかってるわ・・・」
本当はわかっていない。また、目を開いて私に優しい声をかけてくれると信じている私がいる。けれど、けれど・・・
「・・・」
あの時ここで、眠ったままの貴方。あの時ここで、目を閉じたままの貴方。
「私が・・・」
優しく、眠り続けるように・・・手放さないように・・・、あの時ここで、私が眠り続けるようにしたから。もう、目覚めはしないとわかっているのに
「私が、貴方を・・・」
貴方の唇と私の唇を、重ねる。目覚めない貴方の唇は、冬のようで・・・
好きよ貴方、大好きよ。私の、私の大切な・・・たった1人の、王子様・・・
愛しの王子様・・・貴方の目覚めは、何時なの?私の口付けで、何時目覚めるのでしょうか?