微笑みは時に残酷で
俺が彼女の名を呼ぶと、彼女はくるりと振り向いた。いつもと同じ可愛らしい笑顔を浮べている。
「どうしたの?」
いつもと同じ笑顔で、俺のほうを向く。可愛らしい笑顔を見せる彼女が、俺は好きだ。
「ん、呼んだだけ」
「なーんだ。てっきり重要な用件かと思った」
小さくため息をついて、彼女が言う。「だって、普段そんな低い声であたし呼ばないのに」と言われて俺は自分の声を思い出した。そんなに低いか?と彼女に言うと、頷かれた。
「何か考えてた?」
俺を見つめて、彼女が尋ねる。
「…いや、考えてたのは考えてたよ」
「珍しいねぇ。そんな真剣な顔して考えるなんて……何考えてたの?」
子どものように、疑問を解決したいようにこちらを見る。黒い彼女の瞳は、じっと俺のほうを向いている。
「なあ、俺のこと好き?」
その質問をすると、彼女はぱちぱちと瞬きをした。それから、少しだけ間が開いて、彼女は口を開く。
「好きだよ。当たり前じゃん」
「じゃあ、あいつのことは?」
彼女の隣にいつもいる、彼女の幼なじみ。
彼女が生まれたときからほぼ一緒だと言っていた、男の幼なじみ。
「うん、好きだし、大切だと思ってる。なくしたくない」
少しだけ、真剣な顔をして彼女が答える。けれどすぐ、俺のほうを向いて、微笑む。
「もちろん、それは君も一緒!」
俺のことも、大切で、なくしたくないと思っている彼女。その微笑みは、あいつに向けるものと同じ。
「…そっか」
何故か、その微笑みを見ていた俺は胸の痛みを感じていた。嬉しいはずのその言葉は、俺にとっては残酷な言葉に思えた。きっと、彼女はそれを知らない。
「俺もだよ」
自己満足のように、俺は言った。
いつもと同じように、俺たちは歩く。
微笑みは時に残酷で・・・それでも、俺は彼女のそばにいる。